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紙の本
井上ひさし全著作レヴュー21
2010/09/23 12:33
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:稲葉 芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
新潮社「書下ろし新潮劇場」シリーズの一冊として75年8月に刊行。72年10月刊行『手鎖心中』(文藝春秋)に収められた中編『江戸の夕立ち』を、自ら劇化した作品である。初演は75年9月東横劇場で、五月舎プロデュース公演、木村光一演出。
69年『日本人のへそ』でデビューしてから此処に至るまでの井上芝居は、評伝劇という枠組をとったり、過剰な言葉遊びを試みたり、劇中劇(どんでん返し)を仕掛けたりと、毎回様々な趣向を凝らしてきた。ところが本作では、そういう「趣向」が全く無い。久方ぶりに読み直し、この芝居が中編『江戸の夕立ち』を斯くも忠実に踏襲していることに驚いたほどである。井上ひさしの原作を他の人が脚色して舞台にかけたのなら分かるが、原作(小説)が描いていた世界をそのまま舞台に移し替えたというのが、どうにも井上ひさしらしくなく、筆者には解せない。というのも、若旦那清之介と幇間桃八の珍道中は明らかに原作の方が密度が濃いし、芝居ならではの方法論も導入されていないからである。
「他人を笑わせ、他人に笑われ、それで最後にちょっぴり奉られもしてみたい」が故に絵草紙作者を目指す変わり者栄次郎(『手鎖心中』)と、どれだけ裏切られても生き地獄に落とされてもそれでもとことん旦那に尽くす桃八は、まるで異母兄弟のような存在だと思うが、この二人が並んで一冊の書物に収まっていた『手鎖心中』の方でこそ、桃八と清之介の腐れ縁は味わってみたい。