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紙の本
童話といえども、小松左京は小松左京だった
2016/02/14 18:38
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投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る
その昔この講談社文庫版を買っていたことも忘れて、自分に子どもがいつかは読むようになるのではないかと思って、新たに『宇宙人のしゅくだい(講談社青い鳥文庫40-1)』を買ってしまっていました。どちらも表題作「宇宙人のしゅくだい」をはじめとする童話集ですが、こちらは「おちていた宇宙船」も収められています。このバージョンは結局再刊されていないようですね。
カバー装画やさしえ・カットは、あの九里洋二です。子ども向けと見ることもできなくはないけれど、やはりちょっと違いますね。青い鳥文庫版の方がずっと子ども向けになっています。
「宇宙人のしゅくだい」は、25編の短編童話からなる童話集です。小松左京がこのような童話まで書いていたのが驚きですが、もとは新聞の日曜版に掲載されていたものらしいです。
1つ1つがSFテイストに溢れていて、これを子ども向けにしておくのはもったいないくらいです。まあ、中には〆切が迫って書いたのではないかというような苦し紛れのような話もありましたが、ひょっとするとそれも小松左京のテクニックだったのかもしれません。
特に、「算数のできない子孫たち」「宇宙人のしゅくだい」「地球からきた子」「つゆあけ」「にげていった子」「地球を観てきた人」「未来をのぞく機械」「小さな星の子」といった話は、本当に子ども向けだろうかと思うようなものばかりです。さすが小松左京、と言えます。多くは未来に向けて、もっと人間としての品性を高くしていかないといけないというメッセージが込められているように思えます。
ただし、「にげていった子」だけは、少しテイストの違う話でした。一種のタイムトラベルものと言えなくはないですが、太平洋戦争中の子どもと、現代の子ども(戦時中の子の甥、姪にあたる)たちが交錯する話で、戦争体験のある小松左京の想いが特に込められているようです。
「おちていた宇宙船」は、もともとはこれだけで1冊の本として刊行されていたようです。子ども向けならばこれでも立派に「長編」と言えるかもしれませんが、まあ「中編」童話でしょう。地球人の子どもたちが偶然見つけた宇宙船に乗って、宇宙人の子どもたち(?)と宇宙を飛び回ってしまい、大人の宇宙人に叱られてしまうという話ですが、そこに地球人がなぜ今は宇宙人と交流できないか説明されるくだりがあります。そこが単に面白可笑しい童話で終わらせていない、これまた小松左京の面目躍如といったところでしょうか。
非常にさまざまなジャンルの小説を書いていた小松左京ですが、童話といえども真摯に真正面から書いていたのだということが、今更ながらわかる1冊です。
2013年1月12日記