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紙の本
ストーリー・テラーの魅力が満ち溢れる
2002/08/08 12:49
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
フォーサイスの筆は冴え渡っている。まさしくストーリー・テラーである。ジェフリー・アーチャーと異なるのはフォーサイスが本書のようなスパイもの、傭兵ものに特化している点であろうか。
ソ連や共産圏の崩壊後、スパイものへの興味は現実との対比において大きく減退してきた。本書はKGB議長出身のアンドロポフがまだ共産党書記長の地位にある時代設定である。英国ではサッチャーの保守党政権が長期化しようとしていた時期であるが、労働党も政権奪取を目指して様々な活動を展開していた時期でもある。
一方、労働党の隠れ蓑を利用して親ソ一派の強硬左派が暗躍していた。暗躍といっても非合法ではなく、選挙を通じてキノック党首を首相の座に押し上げようと奮闘していた頃である。
その強硬左派は、労働党政権への政権交代を実現させて、実際は政権奪取後に強硬左派が党首の座を奪って親ソ政権を実現しようという動きである。これを何とか強力に支援して実現させようとしたアンドロポフ書記長の個人的野望が本書の主題となっている。
ソフト調の説得や人間的魅力あふれる党首を担ぎ出して、一旦政権を奪うと、民主主義制度さえ葬り去るというナチス・ドイツが用いた悪魔の手が忍び寄る。政治的無関心が蔓延すると、こういう合法的な作戦に対して、きわめて無力なのが民主主義制度の盲点の一つである。
英国の悪名高いスパイだったフィルビーが登場したり、英国のMI5、MI6という諜報機関の内情も詳しく描かれており、興味深い。本書の主人公は他の誰でもないMI6チーフのナイジェル・アーヴィン卿と課長のジョン・プレストンであろう。この2名の活躍やMI5と6との関係などは読んでいても興味が尽きないところである。また、2名のキャラクターが丁寧かつ魅力的に描かれており、読者も好感を持つことであろう。
ナイジェル卿の交遊録として、浅間山荘事件で名を馳せた佐々淳行氏が実名で登場する。日本の読者へのサービスであろうか。
ネゴシエイターのようにテーマが散漫になったり、ストーリーの展開に無理が生じたりすることもなく、最後まで一気に読める傑作である。さて、タイトルの「第四の核」とは何を意味しているか、欧米の政治史に詳しい方にはピンとくるのではないか?