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紙の本
井上ひさし全著作レヴュー 16
2010/09/04 16:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:稲葉 芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『合牢者』『君が代は』『帯勲車夫』『海老茶式部の母』『自転車お玉』の五篇を収録。初出は全て「オール讀物」(1974年~1975年)。
連作短編ではないが、いずれも明治開花期を時代背景にした作品である。実は作品の骨格も非常によく似ていて(以下ネタバレあり)
――ある事件の謎を解明すべく、主人公が渦中の人物に接触を命じられる。問題の人物は主人公に胸襟を開き、「事件」の真相が次第に明らかになるにつれ、共感を覚えた主人公は「使命」に反しても、敢えて自分の意志に忠実に行動しようとする。ところが、その「行動」までも予測し尽くしていた「お上」は主人公を見事に罠に嵌め、主人公の思いははかなく頓挫する――。
(ネタバレ終わり)
徹底した反権力の姿勢を貫いた反骨の士井上ひさしだけあって、このような「読物」にも安易なハッピーエンドを施さないのはある意味あっぱれである。その分読後感がスッキリしないのは致し方ないが、着想とストーリー展開はまるでエスピオナージュか、はたまた「スパイ大作戦」といった凝りようなので、丹念な明治の風俗描写と相まって五篇いずれも面白く読める。