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紙の本
覚悟
2021/03/25 14:03
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
突然仙台弁が聞こえてきてびっくりしましたが、苦労を覚悟で仙台から嫁いでくる紗代子さんと嫁がせる養母の覚悟も凄いと思いました。紗代子さんについてきたばあやが仙台弁で京都人の冷たさや食事の乏しさを嘆くところが面白かったです。茶道に全く知識や興味がなくてもあっという間に宮尾ワールドへ引き込まれ、読み終わるのがもったいないほどでした。
紙の本
「全部言わずにあとは察せよ」という京都人気質で守り抜かれていく伝統ある茶家。みちのくの視点が入り、「イエ」という経営体の独自性が益々浮かび上がる。
2001/09/28 12:19
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
千利休を祖とする伝統の茶家に生まれ、その囲いの外からめったに出ることがない由良子の結婚生活があっけなく終わるところから始まる下巻。緑青を吹いている古い銅の経筒ひとつのために、夫は命を賭けたのである。
従にある者として主人に仕える、ひいては、その祖先に仕え、家に仕える——かつては武家においても商家においても、解体前の財閥においても、あるいは少し前の「日本的経営」が残っていた企業においても、「滅私奉公」と言われていたところの規範。それが強く心象に残る場面である。
人が生のために作り上げた組織において、目的と手段が反転していく。結果、人は家を守る道具と化していく。そんな組織の特徴を読み取ることもできる内容である。宮尾登美子さんの小説は女性読者が多いようだけれど、その骨太な点や構成のダイナミズムを考えると、いらぬお節介「男ももっと読め!」と思わず言いたくなる。
夫の遺児・哲也が3歳に達すると、由良子の手元を離れ、茶家の番頭といった立場の業躰と寝起きを共にして茶人となるべく教育が始まる。子は人の子ではなく、家の子として見なされる。夫の代りに現われるのが嫂の実弟である北盛行という魅力あふれる男性。折衝上手ゆえ由良子のいる後之伴家に次々と客を呼び込み、家にとって必要な人材となっていく。その盛行が生ませたらしい子を二人、後之伴家で育てなくてはいけなくなるわけであるが、養育役として由良子が当てにされる。自分の腹を痛めた子は人に預け、人の子を育てていく。しかし、そのことを由良子は否定的に考えない。家のためには当然と思う資質が備わっているのである。今を生きる私たちには痛烈な印象を与え、哀れな気さえ起こるのだが、それが勘違いに過ぎないかも…と思ったとき、ある時代に身を任せた人びとと自分との厳然たる違い、そして共感を読書の醍醐味と知るのである。
しかし、宮尾さんのすごいところは、その時代と現代という対比に一気に結びつけようとするのではなく、その時代の「京都」と「みちのく」の対比をまず準備してくれるところである。
茶道に造詣の深い伯母の養女となった紗代子という少女を登場させる。下巻の後半は、この少女を中心に仙台を舞台として物語が進められていく。物覚えがよく気が利いて、そばにいる者の気持ちを明るくさせる紗代子の身の上や一族の様子が描かれたあとで、胸弾むような初恋が描かれる。何で突然関係のない話が始まった、どうして仙台に飛んだのだと疑念をいだきながら読み進めていくうち、後之伴家の宗匠がこの家に出稽古をして徐々に縁ができてくることが分かってくる。そして、二つの家の対比が、二つの家の止揚になって展開していく面白さののち、由良子の隠居について書かれ、読み手がホッと胸を撫で下ろすラストに結びついていく。
美しい絵巻物語という解説の阿川弘之の表現が、決して大げさでないと深くうなずかせられる傑作だと思う。