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紙の本
ノージック 所有・正義・最小国家
著者 ジョナサン・ウルフ (著),森村 進 (訳),森村 たまき (訳)
自由・平等・幸福などの諸価値は共存できるか。国家はどこまで正当化され得るか。自由尊重主義の知将ノージックの全貌。著者は基本的にノージックに批判的な立場をとりつつ、公平に真...
ノージック 所有・正義・最小国家
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商品説明
自由・平等・幸福などの諸価値は共存できるか。国家はどこまで正当化され得るか。自由尊重主義の知将ノージックの全貌。著者は基本的にノージックに批判的な立場をとりつつ、公平に真剣に彼の論を検討した好著。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ジョナサン・ウルフ
- 略歴
- 〈ウルフ〉1959年生まれ。ロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジ哲学講師。
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紙の本
「教祖」ハ、スデニ撤退ス
2007/07/06 22:55
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
賛否両論、といっても否定のほうが多かったが、欧米の思想界に衝撃を与えたノージックの『アナーキー・国家・ユートピア』を批判的に検証した本。意外にも、一冊を費やしての本格的な試みとしては本書が初とのことだ。
単に感情的に否定することはせず、この本の意義--政治哲学の論議を活性化させたことへの評価--も認めている。ノージックの論述に注意深く寄り添って、冷静に検討して紳士的に批判を加えている。
しかしリバタリアニズムには、どこか魅力的なところがある。
例えば、この思想に好意的な訳者の森村氏の提言でもあるが、まず、リバタリアニズムをメタ規範とする。そして個々人はその世界の中で、労働者の共同体、権威主義の共同体、アナーキストの共同体、精神の共同体など好きな生き方に身を投じればよい。国家にすがりたい人もいるから、それも弱い形で存続する。
一瞥、素晴らしい理想だ。私も昔、似たようなことを夢想したことがある。だが、そのように大規模に「縄張り」を再編するためには、いかんせん地球のキャパシティもリソースも足りなすぎる。地球の資源や表面積が今の何万倍もあれば可能かもしれないが、このプランの「純度」は依然として高く、不可能性としてのユートピア的願望からは抜け出せていない。実験的な「特区」を設けるくらいなら、もしかしたらできるかもしれないが。
私の判定では、全体を通してウルフが圧倒的に優勢だと思った。ただ、それだけをもってクズ思想扱いはできないだろう。リバタリアニズムも継承者によってブラッシュ・アップされている。
だが、以下に引用するような現状はどうなのだろう。リバタリアンにとって理想の世界とまではいかなくとも、少しはましな時代なのだろうか?
《「自己のテクノロジー」を実現できない存在は、市民的な生の資格を剥奪され、排除の対象となるしかありません。その他方で、統一したリアリティとしての社会が消失することで、地域、宗教、ライフスタイル、信条ごとに多様化し、断片化したコミュニタリアニズムが並行してあらわれてきています。ネオリベラリズムによるグローバリゼーションと、多元的で部分的な価値にもとづく部分コミュニタリアニズムというカップリングが、ニコラス・ローズのいう「アドヴァンスト・リベラリズムの規定ですね。》
(山之内靖著『再魔術化する世界』より)
結局この思想の最大の社会へのインパクトとしては、今日のネオリベラリズムの隆盛に手を貸したことだったのかもしれない。その度合いは正確には測深できないが、本書の言うところの「俗流リベラリズム」に都合よくつまみ食いされてしまっている面があるのも否めない。
宗教でもイデオロギーでも、現実に転用される段になるとピュアな輝きを失うことが多い。それには功罪あって、あまりに原理主義的な解釈ばかりを貫くのも有害だろう。中庸の道を探るのがいいこともある。しかしリバタリアニズムの中庸が、せいぜいネオリベラリズムへの道でしかないとしたら・・・。
ノージック自身がこの立場を捨て、「教祖」から降りてしまったのは正解だったかもしれない。
なお、訳文でリバタリアニズムを「自由尊重主義」と訳しているのには、しっくりいかなかった。個人的には「自由至上主義」の方がよいと思う。