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紙の本
都会っ子はイヤミが無くていいねえ
2001/01/23 19:26
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投稿者:青月にじむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
泉麻人には、数年前に恵比寿で会ったことがある。連れが店から出て話し掛けている弾性のシルエットを見て、てっきり少し年上の知り合いのお兄さんかと思ったものだった。そこから離れてから「泉麻人だよ」と聞いてびっくりして振り返ってみれば確かにあの下膨れの顔…。夜目遠目傘のうち、とはよく言うものだ。男性にも効くらしい。しかし、若いよなあ。
売れっ子のコラムニストになる鉄則は、決して断定はしないこと、これに限るのかも知れない。この、ここ10年ほどで書かれたエッセイの集まりを読むと、実にそれが浮かび上がってくる。
最初に理想論を述べる。次に、それには届かないだらしない現状を語る。しかし、自分も理想は分かっていながらもだらしない方に流れてしまうんだな、なんていう話の流れ。
現状を語り、それに対して昔はこうだった、と懐かしみ、しかし、決して現在を否定しはしない。ここでミソは、昔のこともよーく分かってますよ、現状に迎合しているだけではありません、ということ。これで同じように考えてる(もしくは「考えたい」)同年代と前後の年代までひっくるめて自分の味方に付けられるのだ。味方=自分の読者になるのだから、敵にする訳にはいかないだろう。
殆どがこの手法で語られている。そして、新宿の下落合で生まれ育ったという環境。これが銀座とか三鷹とか麻布とか浅草ではない。東京のど真ん中でありながら何か引け目に感じてしまうその微妙な位置、それを取るのがうまい。いや、その位置を自覚しているのがすごいというか。新宿の住宅地に持ち家があり慶応(そう、彼は「慶應」とは書かない)の中等部から通うある程度恵まれた環境で育った人間だということを披露しながら、丸の内や銀座は「都会」だとさらりと言ってしまう衒いの無さ。
彼とその作品の魅力は、この絶妙なバランス感覚によるものが大きいんだろうな。
そしてそれと共に驚くのが、旺盛な収集欲。彼のコラムをぽつりぽつりと読みながら漠然と感じていたところなのだけれど、こうやって一冊の本になると嫌というほど分かる。かなり小さな頃からの記憶がちゃんとあるし、また、それは膨大な収集物や記録に裏付けられてもいる。文中でも何度か語っているけれど、これが今の彼を作った下地なのだよな。そしてそれが引出しの多さにも繋がっている。
都会っ子だけどどこか泥臭い、かっこいいけどどこか抜けている、そんなバランス感覚で、彼はこの世を、多分クロールだ、平泳ぎだなんてことに拘りもせずに泳いでいる。
ひとつひとつのコラムが題名(これは後から付けたのもあるのだろう)であいうえお順に分類されていて、イミダスの個人版、みたいな感じになっている。最後の「わ」で「私の東京論」を持ってこれたのは意図的になのだろうか、偶然なのだろうか。これが一番いいたかったことじゃないか、なんて、正真正銘の田舎者の私は思っている。