電子書籍
何年ぶりの再読か
2022/09/19 12:10
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めてお目にかかったのは高校の図書館だったような。
当時は「風変わりな人もいたんだなぁ」といった程度、読みかけで投げ出しましたが、電子版が刊行されているのを知り再読してみました。“婦人“や“旅行記“といったワードが並んでいますが、著者は地位も知識もあり胆力と行動力を兼ね備えた女傑です。なぜ高位の人々が大小の助力を重ねて、彼女を動乱さなかのキナ臭い日清・朝鮮半島へ(まるで狙い澄ましたかのように)送り込んだのか。本文をご覧頂ければある程度は推察できるでしょう。
時に叙情的に見たままの情景をつづりますが、その態度はあくまで科学的。気温、距離、貨幣価値といった数値は漏らさずそのまま記す一方、人物や造形といった数値化が難しいものは、好悪の印象をためらわずに書いています。動植物から建築にまで造詣が深く、その知識は圧巻そのものです。現代まで残ったのも、こうした科学的な接し方があったからこそでしょう。残念ながら食べ物と料理に関しては、元祖メシマズ国の本領を存分に発揮しておりアテになりません(ほぼカレーだけで済ませている)。
触れずにいられないのは、朝鮮王朝と国府そして官吏のすさまじい腐敗と停滞です。行政も経済も完全にマヒしているが、大衆にもなにかを起こす気力も胆力もない。ことを興すのはいつも日本人か清国人。脱力してしまうのは、この紀行が書かれたのはほんの百年ほどの昔、曾祖父母と同じくらいという事実があるからでしょうか。
著者は当時の朝鮮王・高宗(その後には大韓帝国皇帝に)とも数度の面会の機会を得ています。面会した印象に限れば一見気弱で温厚そうな人物ですが、実際の政治は優柔不断で逃げ腰。公私の分別が付かず無益な処刑を乱発したりと為政者の器とはとても言えません。印象だけに全てを語らせないこうした点も非常に説得力があります。国王自身もそうですが、臣下から国民まで誰もが不幸としか書きようがないのですが…。
巻末で筆者はある結論に達しますが、それは現代にも通ずる、いや現代の勢力図そのものを予言しているような気もします。英国の知識人が南京虫と戦い身体を張って書いた力作。殺伐とした時代の中ですが時に笑えて心温まる描写もあり、肩ひじを張らずに読んでみるのも良さそうです。
紙の本
それにしても19世紀にこれだけ行動力をもった旅人がいたなんて何という驚きだろう
2019/01/30 17:27
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者は「朝鮮にいた時、わたしは朝鮮人というのはくずのような民族でその状態は望みなしと考えていた。(中略)真摯な行政と収入の保護さえあれば、人々は徐々にまっとうな人間となりうるのではないかという望みを私にいだかせる」と、沿岸州の朝鮮人の暮らしぶりををみて考えが変わったことを辛辣ではありながも語っている。当時の朝鮮の両班や貴族の横柄な態度は平民のやる気を根こそぎ剃ってしまっていたのだろう。働けば働くほど金になる社会がそこにはなかったのだから。それにしても19世紀にこれだけ行動力をもった旅人がいたなんて何という驚きだろう。
紙の本
長期滞在型の旅のお供に
2015/02/03 23:36
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:韓国滞在中 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の静謐な語り口で当時の朝鮮から旧満州までの様子が詳細に書かれています。
小さいので、ポンとカバンに放り込んで旅に出れます。
製本が簡単なので、たくさん読むと背表紙が割れるかもしれません。
滞在しながらこの本を読んでいると、ここに書かれている様子と似通ったところがあったり、いろいろな気づきがあって面白いです。
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官僚の腐敗等で貧困饑餓等ひどい状態の国を旅するスーパー旅人イザベラ・バードは60歳すぎの女性。過酷な旅ほど旅行記として面白いという訳で、お国の事情はその時代たまたまそうだっただけ。隣国にありがちな優越感で読む輩は器が極小だろう。
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図書館の本
出版社/著者からの内容紹介
英人女性旅行家イザベラ・バードが描く19世紀末の朝鮮の素顔
英国人女性旅行家イザベラ・バードが朝鮮を訪れたのは、1894年、62歳の時のことである。以後3年余、バードは4度にわたり朝鮮各地を旅した。折りしも朝鮮内外には、日清戦争、東学党の反乱、閔妃(びんひ)暗殺等の歴史的事件が続発する。国際情勢に翻弄される李朝末期の不穏な政情や、開国間もない朝鮮に色濃く残る伝統的風土・民俗・文化等々、バードの眼に映った朝鮮の素顔を忠実に伝える名紀行。
アジア人ではない著者が偏見なく朝鮮の様子を紀行文として書いているのであれば、ここに書かれていることが当時の朝鮮の本質なんだろうなと思える。
もちろん要所要所に日本人が入り込み、支配している様子も書かれているので、わたしはそちらのほうが興味深かった。
日本が朝鮮をコントロールしていたのは確かであっても、なぜどのようにコントロールしていたかがわかって大変有益だった。
朝鮮の虎はびっくりだった。中国での話だと思っていたのでこの辺は知識不足。
儒教が生活のベースにあると思っていたけれどいそれでもなかったし、いろいろ朝鮮に対するイメージや現在持っている知識の危うさがとてもよくわかった1冊となりました。
次は日本を書いた本にしようか、中国を書いた本にしようか悩むところです。
Korea and her neighbours by Isabella Bird
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有名なイギリス人旅行家の紀行文。19世紀末の朝鮮に関する貴重なドキュメントとして知られるが、当時のシャマニズムに関する詳細な記述が含まれている点でも重要。
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本書は、英国のイザベラバード女史が李朝末期の1890年代に数回に渡って朝鮮半島全域及び近隣地域(満州、沿海州ウラジオストク、長崎、等)を旅(半ば冒険)し、また朝鮮国王をはじめ多くの高位の方々との交流で、見聞き体験したあらゆる事実をその鋭い観察眼と筆致で記録したものです。
英国人全般がそうなのか、バード女史個人の個性なのかわかりませんが、時折皮肉の混じった表現があることが朝鮮紀行全般に渡って文章に妙味を加えています。
この朝鮮紀行が何よりも特筆に価する点としては以下の点が挙げられます。
① 1890年代当時の実体験を極端な脚色もなく即物的に描写していると感じる点(皮肉は面白いw)。
② 旅先における各地の庶民との交流が手に取るように描写されている点(その当時の各地域の常識が垣間見えるようです)。
③ 社会政治経済あらゆる必要な事項を適宜適切に解説を加えてあると感じられる点(この点に関しては100%正しい解説かどうかは素人としては判別困難ですが)
④ 挿絵が多い(しかも上手い)のもさることながら、当時の写真が少なからず掲載されている!
これらの点から、基本的に嘘が無い(女史が常に事実をありのまま記録しようと努めたという前提)と考えるならば(そう考えるのが順当と思います)、相当に史料的価値が高いと言えるでしょう。
当時の様々な歴史事実に対する生き証人の記録という側面も多分にある為、対立意見の存在する歴史事項で女史の旅した時代・地域の出来事に対しては、女史の旅行記と比較して検討するのも面白いと思います。
最後に、一部飛ばしたりしながら拾い読み(といっても100~200P分くらいの分量は見たけど)した結果の書評(感想)であることを告白しておきます(本書全体としては500ページ超の大著)。
(参考1)
日韓併合前後頃の様々な写真が
日韓併合前後 朝鮮半島写真館 (→検索してみてください)
に収められています。
再点検はしていませんが、この中に 朝鮮紀行に掲載されていたのと同じ写真がいくらか混じっていたように思います。
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イザベラ・バードが4度に渉って朝鮮半島を旅したのは、
1894-M27-年の2月か3月に始まって1897-M30-年初冬までであるが、
この時期は、1894年7月に勃発し、翌年4月に終結した日清戦争と重なっている。
しかもこの戦争は朝鮮半島=李氏朝鮮を廻っての両国の権力抗争であったのだから、当時の極東アジアにおける朝鮮半島情勢については、イギリス本国においても重要な関心事であった筈である。
既に彼女は1892-M25-年に女性として初の「王立地理学協会」の特別会員に迎えられており、翌1893年にはヴィクトリア女王に謁見までしている。そして翌年から朝鮮半島への執拗なまでの訪問が始まるのである。
この符合は、イギリス政府の内意を受けた朝鮮訪問であり、朝鮮半島情勢の取材旅行ではなかったか、と考えられなくもない。
なにしろ彼女は、この度重なる訪問で、李氏朝鮮の中枢部分に食い込み、後に謀殺された閔妃-朝鮮国王高宗の王妃-とは親しい関係を築いていたと言われており、この事からもたんなる紀行.探査の旅ばかりでなく、裏には軍事外交上の情報収集の旅でもあったという側面が充分に窺えるのではないか。
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日清戦争頃の朝鮮半島を旅する本。学校で習う歴史には出てこない農民や商人など普通の人の生活が垣間見える。また、日本、中国、ロシアとの関係や王朝の様子も興味深い。
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2014/8/27⚪︎⚪️古賀さんから借りる。
気になるところだけ拾い読みする。
2014/9/3返却を藤原さんに頼む。
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本著は評価する類ではなく、もはや、歴史的な資料である。白人女性により記録された1800年代後半の朝鮮の姿。果たして、朝鮮にどのようなイメージを私は持っていただろうか。そのイメージは、既存のメディア、学校教育が齎したものだ。そのどれよりも、真実に近い。先ずは、自分の目で見ることなのだろう。
しかし、右翼というのは恐ろしい。私は、愛国を謳う著者は中道であり、左翼悪しきと思っていた。しかし、この信じていた中道の世界も、肩よっていた。本著は、この中道的な別の本で引用されており、そこで知った。内容は、朝鮮を極めて否定的に描くもの。確かに、本著にはその表現はあった。しかし、全般的に公平に、肯定的な部分も存在する。主義を選べば、主義に沿った発言ばかり、耳に入るようになるようである。
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(01)
当然のことであるが,朝鮮半島にもさまざまな地域差があって,普通,わたしたちは,ソウルの現代をもって半島の画一を想像する.本書は,海を挟んで向こう側の大陸の多様な事情(*02),とりわけ日清日露戦争,第一次大戦,日中戦争,太平洋戦争などの日本が行った近代戦以前や,その端緒にあった朝鮮の特殊な事情を知る上で,ひとつの資料となりうるであろう.
(02)
たとえば,松.アカマツの風景は日本列島でも見慣れているが,当時の朝鮮半島でも著者は,松とはげ山の印象をところどころで捉えている.そして虎.日本列島には生息しない大型の哺乳類であるが,この獣による人的被害が,半島の人々に恐怖を引き起こし,彼ら彼女ら(*03)の行動原理に影響を与えていることも,いたるところに書きつけられている.
ほかにも,犬,豚,牛など身近な動物や,アワやコメなどの主要な穀類,人参,麻,紙,陶磁器などの特産物(*04)などの記述では,興味をもって日本と比較することができる.
(03)
女性,という問題に対しても,著者自身が女性であるからには,朝鮮の女性へ様々に働いている抑圧や抑制を告発しないわけにはいかない.近代人として,後進国の女性の人権擁護に手を差し伸べようという姿勢を著者に見れなくもないし,その背景や原因に迫ろうという意志も感じられるが,別の文脈では,(男性ももちろんそこに多く混じるが)野次馬としての女性の群れも描かれ,牢獄のような女性の生活との関連で考えたい問題も提起されている.
(04)
産物が市場にどのように現れるか,またどのように輸出されているかについても,観察や調査がなされている.それは英国の利益の可能性のためのリサーチであるともとれるが,著者は,朝鮮半島での商業や交易の停滞に驚いている.官僚制度と農民(*05)という大きく二極化された体制の中でささやかに営まれている商業という印象を本書からは受ける.その一方で,官僚をはじめとする上流階級では,求景(観光)が楽しまれ,ギルドを組織する行商人たちの動きもみられる.陸水の交通路もいくらか整備(*06)されており,仏教寺院には旅人や弱者が訪れ収容されている様子も見受けられる.ただし,通貨の流通が滞っていることを著者はたびたび嘆いており,盗賊や官僚がその阻害要因になっていることも指摘している.
つまり,交通や交流はあるものの,常設された商売の拠点が発展せずに,ソウルやピョンヤンなど限られた地域での都市化を著者は報告しており,この都市の様相は階級的な非対称性の反映とみてもよいだろう.
(05)
農民たちは,何を楽しみ,何に振り回され,何に閉ざされているのか.こうした様子もつぶさに観察,報告されている.農民たちの関心の大きな割合を占めているのが,迷信であり,シャーマンやアニミズムの観点からも,本書を楽しむための重要な要素となっている.
石がある,木がある,山がある,そしてそこには農民たちにずっと信じ続けられてきた何かがある.弥勒(ミルク),各種の鬼神,石像,柱,ぼろ布やひも,などなど.それらへのフェティシズムを構成しているムダンや盲目のパンスといった呪術師たち���生態には,農民たちが,その世界を何によって生きるかの反映もある.
また,仏教やキリスト教などのいわゆる宗教との対比で著者がこれらの迷信を観察している,その観察眼の偏りを考えてみるのも面白いだろう.
(06)
清とロシア,そして日本に翻弄される朝鮮王朝の落陽の姿が著者の眼にどのように映ったか.著者の足は,好奇心を拠り所として,隣国との国境を超え,奉天やウラジオストクまで及び,一行の困難な旅(なかでも従者たちの困難たるや!)は,半島周辺でムラのある治安や政治的な統制を,安定と不安定の狭間にあるそれらの地帯を,スリリングにくぐり抜けている.
軍と賊がそれらの地帯にどのように介在しているかに注意して本書を読むのもよいだろう.
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原書名:Korea and Her Neighbours
著者:イザベラ・バード(Bird, Isabella Lucy, 1831-1904、イングランド、旅行家)
訳者:時岡敬子(1950-、福井県、翻訳家)
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著者の紀行文は『日本奥地紀行』以来だ。李氏朝鮮の末期、発展途上の朝鮮半島は、維新後の日本以上に酷かった。また、秀吉が行った侵攻によって日本人に対する憎悪が朝鮮人を支配していたのは、その後の日本と韓国・北朝鮮との関係を思うと辛いものがある。李王朝の統治の旧さと拙さ、日清戦争を経て、ロシアとの関係が難しくなる時代だった。著者の探検家魂は、現代の高野秀行氏に勝っていると感じた。