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ムーン・ライティング (白泉社文庫)
ムーン・ライティング
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紙の本
現代的ハリウッド映画的ファンタジー
2002/11/18 10:32
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:A-1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
懐かしい子供の頃の友人が手紙を寄こした。あの頃のうちあけ話を覚えていたなら、どうか助けに来てくれという。脳裏に浮かぶその金髪に青い瞳をした少年は、口を開けば辛辣な、時に母親のようにお節介な、心を開ける子供時代を共有した友だった。
文面の調子に心を騒がせながら暗い田舎道をやってきてみれば、なんだか奴はものすごく機嫌が悪い様子で、「こんな時に来てくれなんて言ってない帰れ!」とか言うんだ!
なんてこった冗談じゃねえぞ! てめえのお天気ぶりは昔から知っちゃいたが、ひさびさに古い馴染みにあって、その態度はなんだってんだ! その上、威嚇射撃だと?!
癇癪にぶち切れたダドリーは、家の窓ガラスを石を取って割り、叫ぶ。
知るもんか! こんな田舎に隣近所なんてねえんだ!
俺を怒らせたらこうなるって、俺が尻込みさせられればさせられるほど開き直る怖い物知らずの馬鹿だって知ってるだろうトマス!
これ以上の暴挙に出られるのはたまらないと、家主トマスはようやっと扉の在処を知らせたのだった。
そうさ、それでこそお前。まるで昔と変わらない。
朝、さわやかな目覚めに、昨日のことは夢だったのだろうか?と思うダドリーだったが、そんなわけもなく。しかし、今日の友は、前日の夜とはうって変わっての上機嫌で、昔と同じ金色の髪と水色の瞳を持った青年に成長した姿を見せた。
昔の様に、にっこり優雅に笑って辛辣な口をきく、神経質なほどに綺麗好きな、そしてその料理の腕前で田舎の料理店を切り盛りする店の持ち主になったトマス。
大人になってしまったダドリーと同じように、彼もやはり子供の頃のままでは居られる筈もなく…。
その朝も、早速、うまくいっている様子のその店のトラブルの一つを目撃するのを皮切りに、そのままトマスの抱えるトラブルに巻き込まれてゆくのだった。
暗い田舎道でダドリーが車で危うくひきかけた雌豚と、それを追いかけていた養豚場の親父と、親友トマスの関係の真実は…
彼は本当に豚泥棒をしたことがあるのか?
それとも、それ以上の秘密があるというのか?
月夜に出るに相応しいのは、フランケンにドラキュラに狼男。それらおぞましく生まれついた筈の化け物一族は、可愛らしくキャラクター化されたり、その超能力は子供には憧れの対象になったりする。
主人公ダドリーもそんな風変わりなヒーローに夢中な子供だった。
子供の頃、実は自分の祖父が狼男なのだと、だから自分も狼男になるのだろうと言っていたトマス。
彼が人里離れたこんな田舎で暮らすのは、そのためなのか?
笑ってしまうには、あまりにも過酷で哀しい運命を背負ってしまったトマスとダドリーとの共通項は、狼男に憧れていたことだけについてなのか?
大人になると何故か全く信じられないものになる、子供の頃になじんだ、きっとどこかには居るのだろうと何故か信じていたそのヤツらが、こんな現代社会にもホントは本当に居るのかも。と、思えてしまう、現代ファンタジーでもあります。
「はみだしっ子」シリーズで、全く性格の違う四人の少年達の繊細な心の内を描き出しながら、その成長を描き、日常に傷つく繊細な少女達の共感を呼び、言葉にならないペーソスの代弁者として、70年代後半から少女漫画界の一世を風靡した漫画家・三原順。
彼女の作品に共通する、化学反応の理論構成が導き出すような繊細な人の心の揺れ動きを、感動的にかつリアリティを持って描き出すその手腕は、大人びた子供から大人までも魅了するものがあります。
彼女の作品は、その少女漫画らしいようなそうでもないような個性的な絵がとっつきにくいということを言われることがよくありますが、それはファーストインパクトのみで、その魅力的な物語を読み進むうちに、だんだんと洋画を見ているような気にさせられてきます。
初見、絵柄で倦厭してる人は損していますよホント。