ドーム 人類の箱舟
著者 著者:夏樹 静子
東大研究生として来日したアメリカ人女性ジュディ。核実験地で幼少時に被曝し、二四歳の若さで白血病に冒された彼女の切実な願いは、全面核戦争から、人類の絶滅を防ぐことだった。そ...
ドーム 人類の箱舟
商品説明
東大研究生として来日したアメリカ人女性ジュディ。核実験地で幼少時に被曝し、二四歳の若さで白血病に冒された彼女の切実な願いは、全面核戦争から、人類の絶滅を防ぐことだった。そして、ジュディと設計技師・吉田司郎との愛が、現代のノアの箱舟「ドーム」を発想させた。この巨大な施設が完成すれば、地球が“核の冬”に覆われても、尊い命を救うことができる――。ジュディの死を看取った吉田の活動で、「ドーム」の建設は多くの人々の共感を呼ぶが、背後では各国のイデオロギーや陰謀が複雑に絡みあっていく……。人類存亡をテーマに描いた感動の物語。(『ドーム―終末への序曲』改題)
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地上の星
2024/06/30 21:30
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
核戦争を生き延びた少数の人類の物語というのはSFではよくあるが、その生き延びるためのシェルター的な施設が建設されるまでの物語、いわば逆方向の時間軸にもドラマがあることを示したのがこの作品。この核の時代の人類の行く末について、アメリカの水爆実験による放射能の被害を受けた女性が語ることが物語の発端になることで、核の恐怖が現代の普遍的な問題であることをまず示している。
時代は1980年代で、東西大国間の核戦争だけが想定されているので、現代よりは多少は問題が単純化されているものの、むろん人類存亡に関わる大問題である。そこで人類文明を維持させることのできる1000人の人間が、核の冬をやり過ごせるだけの直径500mのドームを作るというのだ。社会派推理作家である著者が突然こんな問題意識を持ってしまったわけだが、そこは調査力で建設業界の専門家に多大な協力を受けて綿密な考証と物語が作られている。
まず立地からして難題で、資金の調達もある。強度を確保しつつ放射線を遮断するための建築技術や資材の搬入方法についても検討し、建築を開始してもこんな巨大工事であれば次々と問題が発生し、また外部からの妨害工作も行われる。この一大建設プロジェクトの帰趨自体が壮大なドラマであり、さまざまな危機を解決していく連続だ。
資金調達のための知名度向上策のところは、マスコミの性質をうまく使ったお茶目な作戦で、ここは作家としての想像力なのだろう。世界規模の国際プロジェクトに成長していくのだが、それが日本人主導で進められるのは、着想点からして当然なのかもしれないが、その経過も説得力のある進められ方をしている。
ドームはできても、その後の運営はさらに困難なことになるだろうけど、それはまた別の話。高度成長期の行け行けビッグプロジェクトな気配もあるが、ミステリやSF、経済小説といった枠組みではなく、例えばジェームズ・ヒルトン「失われた地平線」のように、人類の未来を模索する思弁小説とみなすべきだろう。