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感想 | 11-376 | |
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正宗白鳥の作について | 377-451 |
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大いなる失敗作、長年にわたる堅い封印がいまここに解かれる
2002/06/25 13:06
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小林浩 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第5次全集別巻1に収められた「感想」とは、小林の一連のベルクソン論のことを指す。ほかにも「感想」と名付けられている彼の評論や書目があって、特別な題名であるわけではない。文芸雑誌「新潮」の1958年5月号から1963年6月号にかけて計56回連載され、未完のまま中断された。小林は後年、本作について「失敗した」と証言し、ベルクソンが誤解される可能性があるとして単行本化も全集への収録も許さなかった。小林の母の死後に続けて起こったふたつの心霊現象の記述から始まるこのベルクソン論は、批評家独自の切り口で『意識の直接与件論(時間と自由)』や『物質と記憶』などにおける哲学者の議論の骨格を組み立て直していく。後半には物理学にかんする記述もあり、小林は、意識や脳、精神や物質をめぐる広範囲な学問領域を接合させるベルクソニスムの地平を、縦横に探査しつつあるように見えた。この「感想」をめぐって90年代から批評家らによる論及が著しく増えたように見えたのは、実際、彼の雑誌連載のコピーの束が長年、大学の研究室や教室のそこかしこで読まれ続けてきたことの成果の現れだったのだ。
作者の遺志に反したかたちで読まれることに対する一種の明白な抵抗的告知として、今回ついに「感想」は全集に収録された。事件と言わずして何であろう。同時掲載されたのは、文芸雑誌『文学界』1981年1月号から11月号まで連載され、1983年3月の小林の死後、絶筆となった第7章が5月号に掲載された「正宗白鳥の作について」である。自伝をめぐる作家論を展開する本作は、白鳥論から次第にしかし必然的にズレて、フロイトとユングの訣別を決定づけたあの心霊事件(フロイトが青ざめたその現象については『ユング自伝』 に詳述がある)にかんする記述で途絶える。別巻1が心霊に始まり心霊に終わるという符号を強調したいのではない。「感想」にせよ、「正宗白鳥の作について」にせよ、いずれも未定稿であるが、未定稿であるがゆえに、開かれた未開の地へといざなうかのような魅力がある。前評判の通り、第5次全集の白眉である。まもなく刊行される、仮名遣いを改め、豊富な注釈を付すと聞くハンディ・タイプの第6次全集も期待したい。
※こちらもおすすめ→正宗白鳥『新編作家論』岩波文庫
※小林秀雄全集の詳細はこちら
人文・社会・ノンフィクションレジ前コーナー6月24日分より
(小林浩/人文書コーディネーター・「本」のメルマガ編集同人)