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商品説明
ロバート・フラハティ、サン=テグジュペリ、イングリッド・バーグマン…。遺された貴重な書簡を道しるべに、世界最高の映画作家ルノワールの亡命と越境の後半生を濃密に綴る、20世紀の映画史。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
野崎 歓
- 略歴
- 〈野崎歓〉1959年新潟県生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京大学大学院助教授(言語情報科学)。著書に「フランス小説の扉」がある。
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紙の本
伝説の巨匠ジャン・ルノワールの亡命以後の波乱の半生を、遺された貴重な書簡を基に綴った生きた映画史。
2001/06/22 12:17
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投稿者:橋本光恵 - この投稿者のレビュー一覧を見る
サイレントからトーキー、テレビへと、第二次大戦をはさんで激動の時代を、フランス、アメリカ、インド、イタリア等、世界を股にかけて映画を撮り続けたフランスの巨匠、ジャン・ルノワールのハリウッド亡命以後の半生を綴った伝記である。それはまさに父である印象派の画家オーギュスト・ルノワールの漲る色彩美さながらの彩りに満ちた人々との友愛の記録でもある・・・『極北の怪異』(1921)等で知られる「ドキュメンタリー映画の父」ロバート・フラハティやジャンの『トニ』(34)『ピクニック』(36)で助手を務めたルキノ・ヴィスコンティ、そしてジャンを精神的父親と崇め惜しみない愛情を注いだフランソワ・トリュフォー等の監督や、『夜間飛行』のサン・テクジュベリ、『北回帰線』のヘンリー・ミラーといった作家たち、そしてジャンの『恋多き女』(’56)で主演を担ったイングリッド・バーグマンをはじめとする女たち・・・との豊饒な“愛”の交流がここにはあり、それらを通して見えてくるジャンの映画観、人生観が読む者を幸福感に包み込むのである。国も性別も越えてひたすら“生きる歓び”を追求した創造主ジャン。この書が単なる伝記というよりもドキュメントとしてのリアリティを持っているのは、ジャンが遺した貴重な書簡を基に綴られているためだ。
元々、文筆を限りなく愛し、66年には「生命感にあふれ返った書物・・・一挙手一投足、ことごとくが生きる歓びを表しているような本」と著者である野崎歓が絶賛している『ジョルジュ大尉の手帳』という小説まで刊行しているジャンは、生涯の間に膨大な手紙を書いており、その貴重な手紙が『書簡集』として、94年にまず英語版、98年には仏語版で刊行された。著者はこの文化史の至宝ともいえる『書簡集』の一部を編訳といういう形で99年に『フランス』誌上で連載し、その時体感しながら誌面には収まりきらなかったジャンの友愛空間を、存分に書いてみたいという欲求から実現したのがこの書。映画同様の豊かな感情の海を友たちに向けてたゆたせるジャンの文面はそれ自体で充分魅力的だ。「君の手紙は九月の灰色の空にさした一条の光」(ルキノ・ヴィスコンティ宛)「あなたからの手紙はまるで朝露のようです。夜の悪夢を拭い去ってくれるのです」(テレビで放映されたジャンの『小劇場』を観て感動したトリュフォーからの手紙への返事)等々。殊にトリュフォーに宛てた晩年の手紙には、ジャンの心からの吐露が鏤められその心情を思い知ることができる。「官能万歳。脳味噌くたばれ。」・・・著者は“書簡”という強烈なドキュメントを前にしてたじろくことなく、自ら心酔するジャンに対する思い入れを消化しながら程よい距離をおいて、“書簡”の行間を滑らかに埋めてゆく。「よき友と一緒にいて、沈黙のうちに心と心のあいだに同じ律動を通わせる、この目に見えない流れを感じ取る」ような幸せなひとときを、この書も溢れ持っているのである。 (bk1ブックナビゲーター:橋本光恵/評論家 2001.06.23)