「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
「世界には、言葉(ロゴス)で解けない謎はない」 仕掛けられたバラバラ死体、衆人環視の死、狂ってゆく女たち、敵を求める男たち、そして…。哲人「ホームズ」が解く不可解な連続殺人の推理劇。朝日新人文学賞受賞第一作。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
柳 広司
- 略歴
- 〈柳広司〉1967年三重県生まれ。2001年5月「贋作「坊っちゃん」殺人事件」で第12回朝日新人文学賞を受賞。他の著書に「黄金の灰」がある。
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
哲学者が出てくるからと言って、空理空論で人をケムリにまくことはありません。それが嬉しいです。これって本邦初の試み?
2005/11/17 19:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
《1891年に『アテナイ人の国政』とともに発見されながら埋もれた文書《クリトン文書》、それはソクラテスの友人が書き記した推理日記だった》
謳い文句は哲学推理、確かに文中に引用される様々な語句や思考も含め、本邦初形式の推理小説といっていいものです。珍しいもの好きの読者に格好の作品かもしれません。中で繰り広げられる哲学論争も、決して空虚ではありません。ただし、魅力的な女性がいない点は、さすが同性愛で有名な(?)アテナイ、寂しいものです。
クリトンから見たソクラテスは、人口に膾炙される、平穏に暮らす人々の隠れた無知を執拗に暴きアテナイで虻のように嫌われる人ではありません。道端に立ち尽くすような奇癖こそあるものの、ごく普通の人間なのです。ただし、彼には類(たぐい)稀な推理で事件に光を当てるという特技があります。たとえば、アテナイのアゴラで起きた泥棒騒ぎ。それが鎮まったとき、広場に掲げられた訴訟板上の蝋に描かれていた文字が一瞬にして溶けて消えてしまった不思議。ゼウスの怒りの故ではと畏れられた事件の真実。
アガトンの屋敷で開かれた宴会、アテナイきっての粋人パウサニウスや、喜劇作家のアリストパネス、在留外国人で開業医のエリュクシマコス、彼の元に出入りする貴族ポロス、スパルタ風を奉じる若者カリクレス、彼らが語るピュタゴラス教団。秘儀により奇怪なダイモンを呼び出し、クロトナの支配権を握ったと言う謎の教団。ホムンクルスを再生させる秘密などを語った宴会の翌日、ポロスが死んだ。カリクレスに娘ミュリネを嫁がせたラケス将軍。娘の幸せを願う老人を悩ますもの。
これはほんの触りの紹介に過ぎません。アテネを巡る政治情勢、風俗、様々な祭り、貴族たちの生活などが詳しく描かれながら、町に連続して起きる悲劇の謎が、ソクラテスの手で明かされていきます。ワトソン役をするのが友人クリトン。巻末に多くの参考文献が挙げられていますが、本当に上手く小説に溶け込ませたものだと感心します。
肝心の推理部分が平均的なもので惜しい気がしますが、日本人にとって馴染みの少ない時代に真っ向から挑んだ姿勢は立派。正直、曽野綾子の『狂王ヘロデ』などより中身がいっぱい詰まっている気がするのは私だけ?