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紙の本
シックハウスが問題になったら、今度は異常なまでの自然素材ブーム。でも結局は建築業界の利益になることばかり。転んでもただ起きないとは、この業界か
2004/02/26 20:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「一時はシックハウス症候群とよばれた、新築の家に移り住んだ人々を襲う様々な症状。やっと解明され始めた病気のすがたを、様々な実例で教えてくれる」医学書。啓蒙書であり、科学書でもある。医学界の限界、それを乗り越えようとする人々の努力を描くレポートといったほうがいいか。
この本には、シックハウス症候群ということばが示すように、新築の家やマンションに移り住んだ人々が、突然頭痛やイライラ、脱力感、肌荒れ、鼻血に見舞われ、周囲の理解が得られないままに通学を断念し、あるいはローンを抱えたまま、新居を捨て実家に戻っていく悲しい実例が沢山紹介されている。
ただ、じつはこの病気が正式なものとしてはなかなか認められず、神経症として扱われていた事実や、原因が不明なままに病院をたらいまわしにされ、むしろ患者ののものが疑われ、社会からつまはじきにされていくという、読んでいて怒りを覚えるようなことも詳細に描かれている。著者は、それを丁度、水俣病が発生したときの行政や医学会の反応と同じと書く。
結婚して、新居を構えた途端に、家族全員が無気力になる。それを傍から見ている実家の親達は、原因を結婚生活や、こころのあり方に求めていこうとする。それを一概に批判することはできない。もし、わが子が症状をはっきり言えずに、ただ眠いとか疲れたとばかり言っていたら、まず「しっかりせんか」と言うのが普通の親だろう。
しかし、それが長く続き、しまいには体に例えば、肌が荒れ、鼻血が止まらず、発熱が続くとなったら、誰だって原因を探したくなる。それを医者が、とりあえず簡単な7分程度の問診で神経症と判断し、クスリを処方して終了、事態の改善が全く見られないとしたら、どうだろう。学校や会社にも公にしたくないような曖昧な病名。
結局、患者自身が周囲から疑われ、心労を募らせていく。本来は、そういう人々に最も優しくなければならない学校ですら、患者を理解しようとはしない。北里病院で、病気と判断されても、病人をからかうようにわざと刺激をあたえる小学校の教師がいて、さらにそれに扇動される形でいじめに走る生徒がいるというのだから、情けない。
いや、それを訴えに行くと行政のほうですら、そのことに関する知識が無く、逆に苦しんでいる患者自体を疑うというのだから、わが国の公害訴訟などは、一体何だったのかと言いたくなってしまう。なかでも凄いのは、学校の授業中に行われる塗装工事だ。せめて子供達が学校に居ない休日に、工事が出来ないのかという当然過ぎる疑問に、関係者が答えたのは「働いている人も公務員だから、休日は休む」という答えだ。あいた口がふさがらないとはこのことである。
なぜ、この本のタイトルが『化学物質過敏症』であって「シックハウス症候群」ではないのか。それは文中で触れられることはない。ただ、その根源にあるのが化学物質であり、それを多用する建築にあることは事実である。その点では、住宅だけでなく事務所や病院建築でも状況は変わらない。いや、病院などでは滅菌や消毒というさらなる危険が待ち受けている。
そういう意味で、建築は化学物質を規制なしに使っている点では、大いに問題があるが、その根源にあるのはあくまで化学物質の安易な使用である。ただ、この化学物質という言葉を使うこと自体、化学業界からの圧力で別な名前に帰られようとしているという。生徒を守るよりは、疑い苛める学校もだが、業界に簡単に擦り寄る行政という構図も、全く何のための戦後だったのかといいたくなる。目を瞑り、耳を塞ぐことでは何も解決をしない。あとがきにある、三人の座談会に救われたような気持ちになるのは私だけだろうか。カーソン『沈黙の春』の登場の意味をもう一度見直したい。
紙の本
専門家の検討に耐え得る証拠を
2002/12/05 14:34
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:NATROM - この投稿者のレビュー一覧を見る
化学物質のリスクを評価することは難しい。過小評価してしまうと不幸が起こるが、過大評価しても同じく不幸が起こるだろう。さて、本著作で述べられている「多種類化学物質過敏症」は医学界では公認されていない。たとえば、アメリカ医学協会は、「多種類化学物質過敏症症候群のはっきりとしたメカニズムや原因を確立したきちんとした対象群をもちいた研究はない」と公的に述べている(JAMA 268:3465-3467, 1992)。著者らは「化学物質過敏症には客観的な証拠も研究報告もある」と述べているが、参考文献は示されていない。著者の一人、宮田幹夫は二重盲検法で微量のホルムアルデヒドに対して反応した患者がいると書いているが、医学文献のデータベースではそのような報告は検索できない。グラフ入りでさまざまなデータが紹介されているが、どれも十分な証拠とは言い難い。
気密性の高い室内での空気汚染物質による健康被害(いわゆるシックハウス症候群)はある。化学物質に対する過敏性に個人差があり、他人には症状の出ない微量の化学物質に過敏性を持つ患者だっているだろう。これらの問題に対して対処する必要性は切に感じる。しかし、さまざまな症状を明確な根拠もなく化学物質に帰することは誤りである(「花粉症や不眠症やキレやすい子供も化学物質が原因かもしれない」という文句は本の売り上げには貢献しても、現実の問題解決にはなんら貢献しない)。対策を立てるには、疾患の原因を科学的に追求していく必要がある。科学的根拠の不在が「多種類化学物質過敏症」が公認されていない理由である。一般読者向けに化学物質の害を訴える本を書くのもよいが、まず、専門家の検討に耐え得るだけの明確な科学的証拠を提示するのが先なのではないだろうか? 著者らの今後に期待する。