紙の本
もうやめてくれ
2019/07/20 16:31
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
潜水艦に恋をしてしまった鯨の話といえば、ほのぼのした童話のようだが、潜水艦の潜行している海というのも穏やかではないし、苦境に陥ってるとすればなおさらだ。それは昭和20年8月15日の直前のこと、日本軍の潜水艦は敵に一矢を放つか、逃げるかの瀬戸際にいたところだ。そんな人間の都合は鯨にはあずかり知らぬのであって、だがその呑気な恋心と裏腹に、彼は潜水艦の代わりとなって米軍の攻撃にさらされてしまう。
いつもオウムの鳥籠を持って防空壕に入る子供、大人がみんな死んでしまった後も、オウムの声と一緒にじっと待っている。
動物園の動物が皆処分される中を逃亡した象と飼育員、密かに山の中に隠れているが、どうにも食べるものはない。
そうやって、子供や動物たちが迎えた終戦の日は、はかない姿にしかならない。その日より前でも、後でも、その光景は同じだったかもしれないが、やはりその日が一つのカタストロフィの頂点ではあったろう。もうちょっとだけ生き延びることができれば、かすかにでもひらけた道が見えたかもしれない。その瞬間を越えることのできた人たちは、自分自身をたくましくして生き延びてきたろう。けれども、もっと弱い者たちはそこを越えられなかった。
そのことは、生き延びた人は忘れてしまうかもしれない。それを見ていた人たちが語らなければ誰も知ることなく、聞く人がいなければそんな記憶は失われてしまうのだろう。
満州から徒歩で引き揚げてくる人々の置き去りにした子供を拾った雌狼、お母さんの残してくれたお菓子のかけらを大事に持って防空壕でずっと待ち続けている子供、みんな歴史の記憶からはこぼれ落ちてしまう。
そういう悲劇は今でも世界中で綿々と続いている。
強い人たちが自分を守るためにすることは、弱い者たちを殺すことだ。
どうかあの小さな手を握った時のことを、時々は思い出してほしい。
空襲で燃えさかる炎の中でじっと子供を抱きしめていたお母さんが、この国にもたくさんいたことを。
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『おもちゃの兵隊の行進』を作詞した方の本。切ない童話でした…。鯨が戦艦に恋をしたなんて胸が張り裂けそうになりました。ぜひ、読んでもらいたい本です。
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戦争って何なんだろうと思った時に、それによって犠牲になるものは、こうゆうものなんだ、と教えてくれた本です。
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どのお話もあまりにも優しく、美しいがゆえに残酷です。
こんなに優しくも悲しい物語を綴ることができる人の心が抱く癒えぬ傷跡とはどのようなものだろうと想像するだけで胸が一杯になります。
残酷な描写が哀れを誘うのではありません。
美しく歌い上げられた綺麗な言葉が描く一つ一つに込められた悲しみと、優しい語り口で語られる残酷な物語が胸を打ってやまないのです。
これを読んで何度泣いたか分かりません。
読むたびに涙誘われます。
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なぜ童話にしたか。
戦争を知らない世代の子どもたちでも読めるように、だ
私も小学生のときにはじめて読んだ。
あまりの衝撃に今でも内容をはっきり覚えている。
ただただ悲惨、ほんとうに。
凧になったおかあさんや、戦艦に恋した鯨の話はとくにつらかった
途中で読みたくなくなった、それでもやっぱり私たちは目をそらしてはならないのだと思う。
震えた。
一生忘れられないだろう童話だった
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最初の二篇がとてもすき 絶対にこの雄クジラはしあわせだった 切ない目に遭うに決まっているこのタイトルで、作者はこの雄クジラを幸せにして下さる。死は救いだ、生まれ変わった雄クジラが幸せな一生を送れますよう。
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次の世代にどのように戦争を伝えていくのか。童話という手段は有効なのか。読む前はそのような疑問があったが、読後は童話だから戦争の真実を伝えられないのではないとはっきり理解した。むしろこの「戦争童話集」は子どもたちに戦争の悲惨さやそのとき必死に生きようとした人達のことを強く印象づけるような童話である。
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語り口調はとても柔らかでおとぎ話のようですが内容は胸の詰まるものばかりです。
どれもよかったのですが、オウムの話が特に印象的でした。
身構えなくてもすんなり読めるので多くの人に手にとってもらいたい作品です。
著者のあとがきも作品に込められた思いが伝わってきてよかったです。
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野坂さんは「蛍の墓」のイメージが強くて、痛くて読めない気がしてた。この童話は、黒田征太郎さんとの絵本と映像でみた事があったけど、改めて文庫で読んでみると印象が変わった。
優しいんだけど、重い。童話調でなんかかわいいとこもあるんだけど、やっぱりずんって重いお話。でもすごく大切なお話。
声なき声をすくいあげて書かれたわたしたちが忘れちゃいけないお話。
小学校の教科書に載せてほしい。
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同じ書名でも、此方は自分に合う。昭和18年頃、動物園の動物を全て処分せよという命令が下る。ライオン、シロクマ、ヒグマ、ワニなどの猛獣に睡眠薬入りの餌をやり、それが最後の晩餐。寝ている間に首に縄を巻き付けておいて、彼らが起きたら、勝手に暴れて窒息死。長くてその間7分だったという。最後まで残ったのが象で、仕方ないので餌をやらずに餓死させることにした。死んでいくまでの描写がなんとも・・・。動物全殺命令は空襲になったら動物が暴れて危ないからという理由だったが、真の目的は別の処にあった。是非お読みいただきたい。
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「昭和二十年、八月十五日」で書き起こされる12編の戦争のはなし。平易な文章を心掛けたとは著者のあとがきだが、大人のための戦争を忘れないメッセージが込められた小説だ。悲しい結末が多いのに、不思議に涙することなく読了。そういう意味で「童話」という表現は合っていて、カラリと乾いた悲劇に浸ることができた。他の著作も読んでみたい。
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小さい潜水艦に恋をしたでかすぎるクジラの話
青いオウムと痩せた男の子の話
干からびた象と象使いの話
凧になったお母さん
年老いた雌狼と女の子の話
赤とんぼと、あぶら虫
ソルジャーズ・ファミリー
ぼくの防空壕
八月の風船
馬と兵士
捕虜と女の子
焼跡の、お菓子の木
著者:野坂昭如(1930-2015、鎌倉市、作家)
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「火垂るの墓」「おもちゃのチャチャチャ(作詞)」「黒の舟歌」などの野坂昭如さん(1930.10.10~2015.12.9)「戦争童話集」、1975.7刊行、1980.8文庫。8月15日から始まる12の鎮魂の童話集。前半6話はオウム、象、狼、あぶら虫などの生き物と人間を描いた悲しい、読むのが辛い、泣けてくる話。「雌狼と女の子」「赤とんぼとあぶら虫」が印象に強く残りました。後半6話は、童話というよりリアルな感じの戦争話でした。
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戦争の記憶が、社会から薄められてきた今、読む。
映画、蛍の墓を見た後のような、ズッシリと心に重い塊が沈んでいるのを感じる。
一体的に語られない、一人一人の様々な8月15日があったんだと。
漫画のペリリューも読んでいるからか、あの一日が境になった人もいれば、知る術もなくそれまでの時が繋がったままの人も多くいる。
生きながらえた方々にとっても、亡くなられた方々も、一人ひとり、別。
この感情を表す言葉が見つからない。
当時から今の間に無くなった言葉なのか。
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戦争になって僕らが得をすることはない。
その痛切な想いだけが、戦争を遠ざけるのではないだろうか。
遠ざけて、遠ざけて、いつか歴史の彼方に「戦争」が忘れられる日がくるといいのだけれど。