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商品説明
私立探偵・飛鳥井がサイコセラピスト・鷺沼晶子の依頼で、ストーカー、拒食症、家族破壊など日本の社会を揺るがす社会病理をヴィヴィッドに描く。笠井潔スペシャル・インタビューなども収録。『別冊文芸春秋』掲載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
笠井 潔
- 略歴
- 〈笠井潔〉1948年東京生まれ。小説家、評論家。「本格ミステリの現在」で第51回日本推理作家協会賞受賞。他の著書に「オイディプス症候群」「探偵小説論序説」など。
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紙の本
チャンドラーをハードボイルドの流れから外す、これって荒業ですよねえ、今までこんなことを書いた人っていましたっけ?
2005/03/30 21:24
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本格ミステリー・マスターズの一冊。
晶子が持ち込んだのは昔、ストーカーに付きまとわれ苦しんだ槇野百合佳が、相手が逮捕されたことで何とか回復したという矢先、男の執行猶予が切れ、百合佳へのストーキングが再開された「追跡の魔」1997。摂食障害で、晶子のカウンセリングを受けたことのある間宮梨紗が消えてから一週間が経とうとしている。彼女の周辺には男の影が、そして亡くなった父親には外国人の名前をもつ女が。資産家の娘に迫る危機「痩身の魔」1998。
それに、どちらかと言うと笠井のハードボイルド論とでもいいたいスペシャル・エッセイ「私立探偵小説と本格探偵小説」。これには、ハメット、ロス・マクという流れを明確にし、それに自分の作品の位置づけを絡め、チャンドラーをハードボイルドの流れから外すという目からウロコの論を展開する。
佳多山大地「天使の痂 笠井潔論」は、過去の作品のネタに触れているので要注意。スペシャル・インタビューは、笠井の一人舞台とでも言おうか、過去の読書経験から、学生?運動、そして新本格派の作家の見方など多岐にわたるが、全体に佳多山が目立たず、上手く笠井にしゃべらせているという印象。著作リストは、あれ、意外と寡作なんだなあと改めて認識。
巽探偵事務所の二代目所長でキャデラック・エルドラドを運転する50間近の飛鳥井と、有名大学文学部心理学科の助教授で、36、7歳と言ったセラピスト鷺沼晶子がシリーズキャラクター。とはいえ、二人の関係は、何かが起きるかなという読者の期待をよそに、あくまでクライアントと探偵の域を出ない。さすが笠井、名前がそのまま作品の潔さに繋がっている。
さてさて、笠井の年が分るなあと思うのが、事務所の床材をリノリウムと平然と書くあたりだろう。実は、この呼び方は戦前の探偵小説、例えば久生十蘭『魔都』や乱歩あたりも良く使うけれど、少なくとも1970年代以降の日本の建設業においては死後にちかい、とは建築をやっている夫の弁。その頃から、俗に言えばPタイル、塩ビタイルや、長尺シート、塩ビシートが一般的とか。ただし、現在は天然素材ブームで再び脚光を浴びているらしい、とはネット検索の結果、ただし輸入品。
ま、巽探偵事務所自体が古い建物であり、飛鳥井が海外に20年も居たことを考えれば、リノリウムという言葉を良く知っていてもおかしくは無いけれど、むしろ1970年頃にあったと言われる探偵小説ブームの影響をもろに受けている、と考えたほうが分りやすい。それは、笠井自身が現在の推理小説ファンの多くが、古典的ミステリではなく、ゲームやコミックス、そして1990年代の新本格の知識しかもっていない、これも時代であるという冷静な見方に呼応する。
とまあ、袋小路に入ってしまった私だが、この本の収められた二編はともに1990年代の末に発表された作品だと知って、うぉっと思ってしまった。この文春の叢書としては反則すれすれ(ま、そんなものはないだろうけど)ではないか。しかも、本来は三篇で考えられていたという。勿論、笠井としては書き下ろしを加えて一冊に纏めたかったらしいのだが、2002年に取り掛かったそれが長くなってしまい、この二編でとりあえず本にしたらしい。だから、スペシャル・エッセイという、このシリーズ初のものが付録に追加されたのだと思う。
それにしても、笠井と言えば早稲田の全共闘とばかり思っていたのに、高校中退だの、中学時代で主要な古典作品は全部読んだのと、何かアンバランスか記述に、まだまだ隠していることがあるんじゃあないの、早く告白しておしまい、と言いたくなる。ともかく、あと十年は書くそうだから、長編化してしまった魔の第三篇も、読むことが出来るだろう。仁義として他社から出すことはないだろうから、文春のこのシリーズがある限りは、素敵なデザインの本になるだろう。待ち遠しいものだ。
紙の本
社会派・笠井テイスト
2003/11/30 14:03
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:GG - この投稿者のレビュー一覧を見る
本格探偵小説の一つの達成として名高い矢吹駆シリーズの作者が、長大な伝奇SF小説の作者でもあり、メタ・ミステリーも実作する一方、思想評論・文藝評論の分野でも膨大な量の仕事をしていることはよく知られている。しかし、社会派推理小説をも書いていることは案外知られていないのではないか。
本書は私立探偵飛鳥井シリーズの三作目で、ストーカーとダイエットに題材をとった社会派推理小説が収められている。社会派といってもこの作者の手になるものだから、ある種の社会問題を声高に批判して事たれり、とするのではない。むしろ、社会問題やパズル小説的な設定は、時折挟まれる問題に対する探偵の見解を導くための器のように思える。
推理小説としては少しゴツゴツしているので、楽しめるのはロス・マクドナルドを意識した探偵の造形と聞いてピンと来るマニアか、他の笠井作品にかなり親しんでいる者だろう。
笠井ファンには巻末のロング・インタビューが本編以上に魅力的だ。極論すれば、ここだけでも本書を手に取る価値がある。