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紙の本
生命は死すべき運命にはない
2005/02/15 23:41
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:北祭 - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代生物学の進歩は驚くほどはやい。高校生の「生物の教科書」はつねに修正されねばならない時代である。ところが、その教科書には間違いや説明不足が山ほどあるらしい。ましてや文科省の検定制度にそう教科書が面白いわけもなく、これを放ってはおけないとの思いで著者は筆をとった。
本書は、生物学の基本知識をもつ読者に向けエッセイ調で自論(構造主義生物学による種の多様性や進化についての考察)を巧みに提示する。話題は生物学全般にわたる。免疫などの説明不足の章もあるが、「進化のしくみ」「生物多様性」「寿命と進化」あたりには心にのこる箇所があった。
自然選択の実証例として有名な「オオシモフリエダシャク」という蛾の話がある。イギリスの工業地帯において、もともと白かった蛾が適応的に進化して黒っぽくなったというもの。これを工業暗化といい、教科書には煤煙で黒くなった木の幹に蛾がとまっている写真がむかしからあった。突然変異により黒っぽくなった蛾は、白っぽい蛾よりも鳥に狙われにくく、生き残りやすいというわけである。
ところが、近年、これには疑問が呈されているという。蛾の写真は人為的なやらせの疑いありとのことである。じつは、オオシモフリエダジャクは自然状態では木の幹にとまる習性がないという。さらに、別種の蛾の幼虫に硝酸鉛やマンガン化合物をエサに混ぜて食べさせることにより、黒色型の変異を誘発することに成功した例があるというのだ。このことは、特定の物質が生物の表現型の変異にある方向性をもたせるきらいがあることを示唆する。自然選択の実証は想像以上にむずかしいもので、教科書の丸呑みでは済まされないようである。
また、高校の「生物の教科書」には寿命や老化についての記述はまったくないのだという。驚きである。命の神秘、儚さ、かけがえのなさ、を伝えるには避けられない命題のはず。ここで著者は生物の死すべき運命について論考をすすめる冒頭でこう語る。
「ほとんどの人はおそらく、生命は死すべきものだと信じているに違いない。私がここで、死すべき生物は実は例外で、地球上の大半の生物は死すべき運命にはないのだ、と記しても、にわかには信じないだろう」
地球上でもっとも成功し現存量の多い生物はバクテリア(原核生物)である。このバクテリアは遺伝的には死がプログラムされておらず偶発事故を除けば死ぬ運命にはないという。
それに対してヒトの体細胞は二倍体で、その分裂回数の限度を決定する遺伝子が存在する。分裂が約50回(ヘイフリック限界)を超えると寿命が尽きてしまうのだ。しかし、ヒトの細胞は巧妙に保険をかけていた。生殖細胞である。この細胞は減数分裂により一倍体にもどり、遺伝子を修復して分裂回数を見事にリセットしてしまうらしいのだ。不死の細胞にもどるのである。
人が人を傷つける、こういう時代であればこそ、「生命は死すべき運命にはない」という意外な言葉が、長く、尾をひく。