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ヴァランダー警部シリーズである意味は薄いが・・・<現在>を生きるための物語
2016/06/30 19:50
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
いきなり分厚くなってます。 700ページ越え。
『白い雌ライオン』というタイトルですが、表紙はアンテロープですかね?
不動産売買の仲介をしている女性が失踪したと届け出がある。 ヴァランダーたちの願いもむなしく、数日後、女性は眉間を撃ち抜かれた死体となって発見される。 一体誰が何のために? その事件は、南アフリカ共和国で起きようとしている陰謀につながっていた・・・という話。
前作『リガの犬たち』もそうだが、これもスウェーデンと他国の関係や違いが描かれ、国際スパイ小説ばりの展開を見せるのでページをめくる手が止まらず。
ボーア人、という存在、初めて知りました。
選民思想はユダヤ人だけじゃなかったのね(いや、どの人種にもそういう特別な気持ちはあるのか)。
そして何故アパルトヘイトなんてものが敷かれたのか、更に撤廃への道がこんなにも険しかったのだということも。 当時、アパルトヘイト廃止のニュースを見ているはずなのに、まったくわかってない自分、どうよ・・・(ベルリンの壁崩壊もリアルタイムで『今日の出来事』で見たはずなんだけど、その背景を学んだのもまた映画からだったなぁ)。
ヴァランダー警部の出番は半分くらいですが、まぁ話の都合上そうなるのは仕方がない。 ラストシーンにも立ち会えない主人公ですが、世界規模の物語ではそうなってしまうのかも。 というかヴァランダー警部シリーズとして書かなくてもよかったのかもしれないと思えるほど、独立した話というか、南アフリカに力点を置きすぎたような気もしないでもないんだけれど、まぁでも読んじゃった(読まされた)んで。
事件のたびに異文化に触れて自分の認識はとても狭いものであると驚くヴァランダー警部は、自分の足元はだいたい安定してると思っている世界中の人たちの代表であり、またそんな人々が彼のようであってほしいという作者の気持ちなのだろうか。 だからヴァランダー警部の話を、こっちも読んでいたいと思うのかも。
面白かったです。 また勉強になりました。(2009年2月読了)
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困った中年警察官
2005/03/13 00:18
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投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る
クルト・ヴァランダー・シリーズ第三弾。今回、重要な鍵となるのは南アフリカだ。シリーズの舞台スウェーデンと南アフリカとの間にいったいどんな関係が? と思ったが、読み進むうちに、政治情勢によって利害関係が刻々と変化する、犯罪ネットワークの活動範囲の広さがわかってくる。いまや日本でも様々な国の犯罪組織の潜伏が報道される状況になってきているので、本書で指摘されている出入国管理の問題は、意外に身近なことかもしれない。
ヴァランダーは相変わらずダメ男である。私生活で不器用なのは、警察小説にはよくあることだが、彼の場合、仕事でも問題が多い。規則違反でも型破りな捜査で事件を解決するならカッコイイかもしれないが、そうはならない。容疑者に軟禁されれば恐怖に震えるだけだし、根拠のない確信で独りよがりに突っ走っては犠牲者を出してしまう。上司はもちろん、部下までもが頭を抱えるばかりだ。
ヴァランダー自身もタフではあるが、繊細で、自分の行動を客観的に振り返ることができるだけに、いつも後悔に苛まされることになる。このあたり、情けない中年男として共感を持つか、いい加減にしてよと苛立つか分かれるところだろう。
南アフリカといえば、人種問題を避けることはできないが、本書での描き方は、黒人対白人といった単純なものではなく、個々人の複雑な事情が語られていく。アフリカ滞在が長く、現在もスウェーデンとアフリカを行き来しているマンケルならではの視点が随所で活かされている。
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時代の変わり目に生きる我々に語りかける物語
2018/05/29 22:49
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
先にケネス・ブラナー演じるドラマを見てしまったので、本作品ではヴァランダーがスウェーデンを一歩も出ずに今回の事件に巻き込まれていったため、前作のような展開ではないのがちょっと物足りなかった。でも映像的には面白くても、このご時世世界中でおきていることにリアルに関われる人間がどれだけいるのか?と思うとかえって、その手の届かないところで起きていることが、案外無関係なに人にどれほど深く影響を与えうるのかというひとつの例示なんじゃないかとも思う。
始まりも終わりもはっきりとはわからないままに、世界の裏側で起きている事件が、政治的判断が、陰謀が、国際関係が、いつ自分に直接牙を向いて襲い掛かってくるかわからない。
ヴァランダーが嘆くように、我々も今まで安全・安心と思っていた自分の属する世界がある日突然、隕石に衝突するように崩壊してしまうかもしれない不安の中に生きているのだと思う。最近普通に生きるのが難しいと感じてしまう。
そういう漠然とした不安をさらにかきたててくれた作品だった。
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社会情勢を軸に描くシリーズだが、本作品はその特徴が色濃くなっている。スウェーデンが舞台なのだが、南アフリカの人種差別が物語の根底にあるので、序盤は相当な違和感があった。視点もスウェーデン側と南アフリカ側に分かれており、両者はなかなか交わろうとしない。しかしストーリーの拡がりと比例するように南アフリカの人種問題がじわじわと効いてきて、国際謀略という派手なテーマに取って代わろうとする確かな感覚があった。
今回のヴァランダーは気の毒としか言いようがない。事件への巻き込まれ方が半端ではないので、それが逆に不自然にも見えたが、彼の思考が徐々に病んでいくさまは説得力があったと思う。インパクトの強いキャラが何人かいるためヴァランダーの存在感はやや劣るかもしれないが、シリーズを通して確実に成長しているのがよくわかる。
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【所持有無】×
【読了日】090108
【キーワード】スウェーデン 警察小説 ヴァランダー アフリカ 暗殺者
【所感】シリーズもののひとつ。良心のある警察官は良い。アフリカの黒人迫害、衝突を題材。意欲的だが、中だるみ…。
【備考】
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ヴァランダー警部が働くイースタの管轄区域とは縁が深いでもない“謀略”が、「女性の失踪」という事件を切っ掛けにヴァランダー警部の身に降りかかる災厄となっていく…何か凄い展開である…
凄く引き込まれてしまった…
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ヴァランダー刑事3作目。2作目に続いてこれも舞台が壮大。田舎町の殺人から南アの秘密結社のマンデラ暗殺計画、と無理なく繋がっていきます。著者のアフリカへの造詣の深さが生かされています。主人公の刑事は前作よりさらに事件に振り回され傷ついてしまいました。立ち直れるのか、早速4作目を読もうと思います。
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スウェーデンの南端の街、イースタを舞台にしたヴァランダー警部シリーズ第3作。ヴァランダーは、不動産業を営む女性の失踪事件を担当する。やがて彼女は遺体で発見されるが、その近くの民家では謎の爆発事件が起き、不可解な遺留品が発見される。一方、遠く離れた南アフリカでは、とある陰謀が動き始めていた―。
ようやく読み終わりました。文章は読みやすいのですが、何せ分厚い。電車の中で読もうと思っても、バッグが小さいとうっかり持ち歩けないのです。
警察小説というよりは、国際謀略小説ですね。スケールが大きい。田舎警察とはいえ、イースタは国境に近い交通の要所なのですね。ミステリを期待すると「ちょっと違う」と思うでしょう。最初にヴァランダーが担当していた失踪事件の真相は、第2章でさっさと種明かしされてしまいます。第3章から後は、ヴァランダーと旧ソ連工作員の対決になり、そこに娘のリンダも巻き込まれていきます。
南アの陰謀事件の方は、首謀者の思惑通りになりかけますが、ほんの偶然の出来事から事態は急展開。そして最後の場面で、冒頭に起きた失踪事件に関するちょっとした謎が明かされます。この「謎」のことはすっかり忘れていましたが、風呂敷を畳むというより落穂拾いのようなラストが良かったと思います。謀略の嵐を過ぎて、ヴァランダーも田舎警察の警部に戻ったのだな……と、ちょっと安心。
ところで、前作『リガの犬たち』に登場したバイバ・リエパが名前だけちらりと出てきましたが、彼女の再登場はあるのでしょうか。
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スウェーデンのミステリ。
警部クルト・ヴァランダーが主人公のシリーズ3作目。
ここから分厚くなってます。
イースタはスウェーデン南端の田舎町だが、交通の要衝にあるため、国際的な事件も起きうる。
思いも寄らぬ南アフリカの陰謀に巻き込まれる。
南アフリカでの人種問題をさかのぼるプロローグから、重厚に書き込まれています。
国際的なベストセラーになった理由がわかる気がしました。
ヴァランダー個人は妻に出て行かれたのはもう諦めたが、次の一歩は踏み出せず、落ち着かない精神状態。
ストックホルムに住む娘のリンダが心配でいつも会いたがっているのだが、なかなか上手くいかない。
捜査のためにストックホルムに出向くと、リンダがすっかり大人の女性になっていることに気づかされる。
画家の父親はすこし呆けかけているような兆候もあるのだが、家政婦と結婚すると言い出して、ヴァランダーを焦らせる。
ごく普通の主婦が3日、行方不明に。
おそらくもう死んでいるだろうと感じながらも口には出せず、捜査に取り組む署員。
捜査していくと主婦にも意外な側面があったりはするのだが。
ヴァランダーは事件にのめり込むことで突破口を見つけるタイプ。
容疑者の一人と深く関わることになる。
南アフリカ共和国での出来事も緊迫していて、迫力。
ひどい人種差別が長く続いた後、変化が訪れようとしているが、それに対する抵抗も大きい。
権力を握るボーア人(オランダ系入植者)の生活ぶりがリアルなので、ネルソン・マンデラ暗殺を狙う動きも説得力があります。
1993年発表当時、マンデラが27年間の投獄から釈放されたという時期から隔たっていないリアルタイムだったことも、力のこもっている原因かも。
ソ連の崩壊も、世界を動かしていたのですね。
南アフリカからは遙かに遠いスウェーデンがなぜ関わるか、ということにも理由はちゃんとあるのです。
暗殺のために雇われた殺し屋マバシャは、アフリカのズールー族の出。
異国をさまよう男の心象風景に深みがあります。
ヴァランダーの家族まで巻き込んだ対決と銃撃戦へ。
作者は何年もアフリカに住んで仕事をしていた経験があり、帰国後にスウェーデンの人種差別が悪化していると感じたとか。
それも実感を伴った描写に繋がっていると思います。
2004年9月翻訳発行。
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スウェーデンの片田舎で起きた犯罪と南アフリカで密かに進行する要人暗殺をうまく絡めて上質なミステリーに仕上げるマンケルの腕は確か。
魅力的な脇役も多く、病んでいくヴァランダーを心配しながらページを進めていたら、700ページがあっという間。
展開がサスペンスっぽくなっているので、いつもよりは物語に動きがあって派手だ。
たまにはこんなヴァランダーもいい。
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90年代初めに書かれたもので、前作「リガの犬」もそうだったが、この「白い雌ライオン」も当時の社会情勢で、実際に起こり得ても不思議ではない、むしろ実際に似たような話がいくつもあっただろうと思う。当時の南アフリカの情勢からすると。
娘リンダとの距離が縮まり、交流できたことで、胸いっぱい幸福感に酔いしれるカワイイ中年男。それにしても部下に、自分の父親に電話させたり、この手はこれからも使えるかもしれない、とか、どんだけ甘えてるんだこの男。男は社会全体で甘やかされているがこれは20年ほど前に書かれたものなので、同じスウェーデンとはいえ、「ミレニアム」その他の小説とはだいぶ時代が異なり、今の日本よりちょっと進んでいるくらいの男女同権。ああ、いるようなあこういう人、と、ダメ男だけどなんだか憎めなくて苦笑してしまう。いちいち大げさなんだよ、と突っ込みいれながらも、本人大真面目だけどなんだそれと思うような言動とかにくすりと笑わせられる。
現在「笑う男」を読んでいる最中だけれど、
次作「目くらましの道」が図書館から借りれず、上巻だけでも買うべきかどうか迷っている。順番を飛ばして読むのは避けたい事態。
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スウェーデンの片田舎のヴァランダー警部シリーズ3作目。どんどん壮大な話になっていっている。今回は南アフリカでの暗殺事件に絡む。最後の結末を本人がしっかり知らないで終わるのもなかなか。
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陰謀の結末は最初からわかっているだけにそこに至るまでどう読ませるかが、作品の鍵になる。何の罪もない善良な主婦の悲劇から始まり、南アフリカの陰謀が平行して進む。冷徹で無慈悲なロシア人が最後までふてぶてしく悪人なのが印象的。サスペンス色濃いシーンの書き込みが少しわかりにくかったのが難点。面白かったのは間違いない。
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不動産屋の女性が行方不明になった事件を皮切りに、空き家が爆破され、中から黒人の指が見つかった。これらの事件がどう繋がっていくのか、南アフリカとロシア、そしてスウェーデンの関係は?刑事ヴァランダーシリーズ、3作目です。今回もとても面白く読みました。ヴァランダーが精神的に追い詰められ、最後は辛そうな感じでしたが、次回できっと復活してくれるはず。
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このシリーズがなんで肌に合うと感じるのかわかった。
ヴァランダー警部は常に、自分がこの仕事に向いていないと感じている。
若くなく(この作品では40代だ)、こんなことを言う。
「おれは警察官以外の仕事のことをこのごろしょっちゅう考えるようになっている」
結婚にも失敗した。孤独で、大した希望もない。そんな、中年の諦念と焦りと哀しみとが、見事に描かれていて、読んでるこの中年男に響いてくるのだ。
今は亡い先輩の言葉との間で、ヴァランダーは揺れている。
「おまえさんは一生涯警官だろうよ。もうわかってもいいころだよ。じたばたするな」
ただ、このシリーズ三作目は、これまで読んだふたつにくらべると、息もつかせずページターンさせるほどじゃなかった。つまらなくはないけれど、マンデラとデクラークの暗殺計画という話の枠が大きすぎて、ちょっと持て余しぎみな感がある。
妙に丁寧に(読者にむかって)状況説明してくれるゴルゴの依頼者のように、なんだか冗長だ。
べつの巻に期待しよう。