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商品説明
【新田次郎文学賞(第25回)】天才クライマーに降りかかった悲運の死。標高7000mの北壁で、彼が見たものは何か。すべての謎は、あの山が知っている! 表題作ほか全3編の山岳ミステリーを収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
黒部の羆 | 5-88 | |
---|---|---|
灰色の北壁 | 89-166 | |
雪の慰霊碑 | 167-240 |
著者紹介
真保 裕一
- 略歴
- 〈真保裕一〉東京生まれ。「連鎖」で第37回江戸川乱歩賞、「ホワイトアウト」で第17回吉川英治文学新人賞、「奪取」で第50回日本推理作家協会賞・山本周五郎賞を受賞。
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紙の本
山岳冒険小説の醍醐味
2006/08/05 19:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いやぁ、面白かったです。今まで読んだ真保作品では、ベストです。
実は、私は冒険小説の大ファンですが、山岳小説は、あんまり読んでいません。
というのも、ロープの使い方が、よくわかっていなくて、
細かい登山のノウハウがよく判らないから、、、。
一般の山岳小説で別にそんな専門知識が必要なわけでもないのですが、
これで、山のことを知っていると、もっと楽しめるのだろうなぁ、、と
思うと凄い悔しくなるのですよ、、。
それは、さておき。
本作は、真保さんの、短編と言うより中編といってもいいぐらいの
山岳小説を三篇収録した、連作集です。
「黒部の羆」「灰色の北壁」「雪の慰霊碑」
どれも、いいです。
山に登る理由、男の心意気、成功への嫉妬心、人生での色んな出来事。
全てを絡めて、スリル万点に、心の琴線に触れるように描かれています。
大体、連作集や、短編集って、表題作がベストなのですが、
「黒部の羆」も良かったですね、、。
勿論、ロープの使い方なんて、判っていなくても、
きっちり、楽しめます。
というか、今回は、そういうことより、
いかに、登場人物たちの心情へ感情移入させることが、
読者のハートをつかむかみたいなことの方が、重要なんだと
理解しました。
ハラハラどきどきと、いうより、心にうったえかける
心情面重視の山岳冒険小説でした。
紙の本
少しは登場人物の“情熱”を見習いたいものだ・・・
2005/05/09 02:13
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
3篇からなる山が舞台の中編集である。
氏の代表作である『ホワイトアウト』のように犯罪小説ではない。
当然の如く男たちのロマンと矜持が熱く描かれている。
3篇に共通している点は女性が絡んでいる点。
そう、“山も愛し女性も愛した男たちの物語”である。
冒頭の「黒部の羆」は県警の山岳救助隊を辞め、現在は山小屋の管理人をしている“黒部の羆”と呼ばれる男が遭難した大学の山岳部員2人を助けるべく山に入る。
青春時代の苦悩に悩む2人の大学生の山での行動シーンがリアルで読者に訴えかける。
冬の登山ってまるで人生の分岐点の象徴であるかのようだ。
極限状態におかれた時にきっと人間の弱さや本性が露わになるのでしょうね。
最後にわかる展開(結末)も意外で唸らされること間違いなし。
★★★★
次の表題作となっている「灰色の北壁」が秀逸。
前述したロマン・矜持・恋愛がわずか80ページ余りにぎっしり詰まっている傑作である。
小説家の“わたし”が雑誌に書いたノンフィクションの部分(太字)と現在の部分の配置が絶妙である。
読者も太字部分の説明がわかりやすくて物語に容易に入り込めるのである。
亡くなった刈谷、刈谷の妻、御田村、御田村の息子の4人の心理描写の把握に読者は手に汗を握らずにいられない。
刈谷が山頂に着いた時の気持ちってどうだったのだろう。
そして残された者たちの現在の心境は・・・
心の“葛藤”を想像しただけで武者震い物である。
願わくばもう少し味付された長めの作品とならなかったかなという気がするが贅沢かな。
★★★★★
ラストの「雪の慰霊碑」は前2作と比べてややインパクトが弱かった。
息子が遭難して死んだ山に挑む父親、彼を追いかける死んだ息子の婚約者と甥。
展開的にはサスペンスフルなのだが、親子愛を描きたかったのか恋愛面を描きたかったのかちょっと中途半端な感は否めない。
というか出来すぎてるような気がした。
★★★
全体を通して地味であるが緊迫感のある作品集である。
前作が少し評判悪かった実力派作家・真保裕一の面目躍如の1冊だと言えそうですね。
活字中毒日記
紙の本
「山岳ミステリー」!!この作品は真冬、豪雪の山奥。そこのダムを舞台にしたデビュー作『ホワイトアウト』という傑作冒険小説の類ではない。
2005/05/03 17:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「アルピニズム 、近代登山は、山に登ること自体に限りないよろこびを見いだし、登山が肉体と精神に与えるものを汲みとり人生のうるおいとすることを目的とする。宗教的な登山や戦争のための登山と異なり、登るという行為以外に目的をもたない点において近代登山はまさしくスポーツであり、ハイキングのような軽登山も高度の技術を要する岩壁登攀(とうはん)や氷壁登攀も登山である」
平凡社世界大百科事典より
多くの山男たちはこのスピリットで山と付き合っているのだろう。そしてより高く、より新しく、より困難な登山のなかに喜びと楽しみを求める。
そのテーマであれば山岳ロマンと言っていい、アルピニスト賛歌だが………。
夢枕獏の『神々の山嶺』では山は愛すべき山というよりは、人間を拒み続ける侵すべからざる神々の山であり、この不可侵の山と闘争する狂気のアルピニストを描いた傑作であった。
しかし、『灰色の北壁』の登場人物は愛すべきクライマーたちである。いや喜怒哀楽をわれわれと共有する普通の人々である。
山岳ミステリーと称された作品はこれまでもいくつかあったが、それらは山を背景にした犯罪を描いた小説であった。これはそれらともちがう。真保裕一の新しいジャンルであり、しかも全三編の短編集、いずれも粒ぞろいの傑作だ。
「黒部の羆」。
北アルプス、剣岳。ロープで繋がったふたりだけのパーティー。彼らは何のためにこの山に登ったのか。ひとりが白い急壁面で滑落し宙吊りとなって意識を失う。目撃者のいないドラマの展開。死を賭して、一人救助に向かうのは北峰ロッジの管理人、元県警山岳警備隊員。彼もまた運命的な山岳ドラマの経験者なのだ。
「灰色の北壁」
ヒマラヤ、カスール・ベーラ。この前人未到の「ホワイトタワー」を南東稜から無酸素単独で征服した男がいた、御田村良弘。そしてそこの北壁登攀こそが世界のアルピニストに残された課題であった。19年後、御田村の妻を奪った男、刈谷修がついにその北壁を単独無酸素で制覇した。しかし、山岳ジャーナリストの「私」は刈谷の写した山頂からの証拠写真に疑問符をつけたノンフィクションを発表する。汚名の晴れぬまま刈谷はカンチェンジェンガで死亡する。
「雪の慰霊碑」
息子は冬の北笠山で遭難死した。世間はそれを冷たく扱った。妻も死んだ。人生の折り返し地点はとうに過ぎた。会社にも家庭にも居場所を見つけることができなくなった52歳。山の経験がない父親にはただ一つやらなくてはならないことがあった。冬の北笠山で遭難現場を訪ねることだ。死を覚悟した登山と悟った息子の元恋人はその父を追う。彼女を慕う息子の従弟もまた山に踏み込んでいく。
岩壁からの墜落、落石、雪崩、疲労などの遭難シーン、山に立ち向かうプロセスは迫力にあふれている。
そして大自然の偉大さと対照的に人間の愚かしさが浮かび上がる。
人間に潜む野心、功名心、敵愾心、欲望、嫉妬、憎悪が暴かれれば、うわべのきれいごとは色あせ、醜悪なものが露呈される。それは純粋なアルピニストだと信じていた読者が目を背けたくなる事実だ。
そこがミステリーである。
アルピニスト賛歌ではない。
それでも最後は人間賛歌だ。
じわりと感動で目頭を熱くさせられる。
ヒューマニズムの感動なら「黒部の羆」
謎の意外性と男の真心への共感は「灰色の北壁」
彼はなぜ山に登ったか。女の愛の行方。残されたものは何もないはずのオヤジの決意。哀感が胸を打つ「雪の慰霊碑」
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