「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
小説「死の棘」後、さらに精神病棟内での目を覆うばかりの酸鼻な有様を克明に記録し、二人が病院を出て妻の故郷である奄美大島に落魄の身を休めるところまで書き継がれた日記。夫婦の壮絶な葛藤の記録。『新潮』掲載。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
島尾 敏雄
- 略歴
- 〈島尾敏雄〉1917〜86年。神奈川県生まれ。九州帝国大学東洋史科卒業。作家。著書に「夢の中での日常」「出孤島記」「死の棘」など。
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
棘の痛みを分ち合って・・・
2005/06/15 14:07
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:碑文谷 次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和29年9月30日から始まり、昭和30年12月31日に終了するこの日記には、極言すれば何のドラマも物語りもない。心を病んだ妻「ミホ」と彼女を受け入れようと努力する「ぼく」の日常が、例えば次のように延々と繰り返されるだけである。
「朝方ミホ反応的。」(頻出するこの反応的とは、「オトウサン、他の人に対しては些細なウソさえきらうあなたが、ナゼ私ニハウソヲツクノデスカ?」などと絡むことを指す)
こうして1日が開始し、その終わりに
「ミホ寝つくまでの薄氷を踏む思いの時間。やがてミホ眠りに堕ちてゆく時の僕の安堵。」
翌日は、「ミホ上機嫌。ずっと続いてくれますように。」とかすかな光の指す場面があったりするが、「ミホ朝又発作おこり、気分こじれ、ぼくは堪り兼ね昂ぶりおさえきれず、早朝の近所を歩いてくる。」と振り出しに戻るのが大部分である。
ミホがここまで病んだのは、どうやらかつての「ぼく」の不倫に起因するらしいが、日記にその詳細が思い出とか自省とかの形で触れられることはないままなので、読者は凄惨な二人の葛藤の真っ只中で、ともかく今日という一日が無事終わることだけを願う気持ちで生きてゆくしかない。そして次第に、夫婦という人間関係から生じる孤独感と共生感の振幅を味わうことになろう。そして、他人同士がかけがえのない信頼を通い合わせられるのは、結局は夫婦という関係を通してだけではないのか、という一点に導かれるであろう。