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紙の本
猪瀬氏にしてはじめてできた大仕事であった
2006/04/30 17:54
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家の猪瀬氏は、今年になってから『道路の決着』(小学館)という本を出しており、この3月に文庫化された本書(単行本としては2003年の11月に出版)は、内容的にいささか古くなってしまった。記述の大半が、2002年12月6日に道路公団民営化委員会が、小泉首相に対して最終答申を出すまでを綴ったものなので、なおさらである。これは時事的な話題を扱う本にはつきものである。
しかしながら、権力の構造的問題をあばく書としては、少しも価値が下がらない。むしろ、年数を経て文庫化されたことで、あの時代の空気を思い起こしながら、現在とを照らし合わせて読む、という新たな読み方を可能にしてくれる。
それにしても、道路という利権に群がる様々な人々や組織を解体し、真に国民のためになるようにすることのなんと大変なことか。道路族議員、国土交通省の役人、旧道路公団の面々、旧道路公団のファミリー企業、地方自治体の長…。
高速道路があまりにも甘い汁を提供し続けてきたため、その汁を吸って生きている人たちを排除して、無用な国民負担をなくしていくことが、本当に大仕事になってしまうのだ。道路建設が国民の税金や、利用者の払う通行料を原資としてなされるのだから、従来の方法が破綻している以上、国民本意の姿に変えていくことは当たり前のことのはずなのだが。
この大仕事ができたのは、「作家」を生業としている猪瀬氏にしてはじめてできたのがよく分かる。道路利権につながる人には、とうてい無理なのである。その象徴が道路公団民営化委員会の委員長であり、日本経団連名誉会長である今井氏である。産業界の側にいては、どうしても役人に懐柔されてしまうことが、本書を通じて描かれている。
多くの人や組織を敵に回し、時にはメディアにさえも翻弄されながら、幾多の交渉を通じて妥協点を見いだしていく猪瀬氏の姿勢には、ただ感服せざるを得ない。
メディアが伝える情報の不正確さのせいで、猪瀬氏もまた毀誉褒貶を免れないのであるが、このような書を通じて、国民には知り得ない権力の構造をあばき出した努力は高く評価していいのではないだろうか。
本書が2003年に書かれて以降、民営化委員会の委員はほとんどが辞任し、事実上空中分解してしまった。しかし、とにもかくにも道路公団は民営化され、借金返済の意識を持たせることはできた。ただし、2006年の2月に道路族や国土交通省の役人は、しぶとくも9342kmの高速道路全線建設決定にこぎつけてしまった。権力おそるべしである。
本当は、国民が本書によって提示された視線を自分のものとして、事態を見つめ続けていれば、こうはならなかったのであろうが…。今や、道路公団民営化の顛末は風化し始めており、人々の記憶には、昨夏の郵政民営化のことばかりが焼き付いている。
役人相手に仕事をし、辛酸をなめている人たちには身にしみる書であろうが、これは一般の国民こそが知っておくべき事であろう。これから進みゆく少子高齢化社会では、税金の使われ方がかつてなく厳しく問われるはずだからだ。