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誠実な詐欺師 (ちくま文庫)
雪に埋もれた海辺に佇む「兎屋敷」と、そこに住む、ヤンソン自身を思わせる老女性画家。彼女に対し、従順な犬をつれた風変わりなひとりの娘がめぐらす長いたくらみ。しかし、その「誠...
誠実な詐欺師 (ちくま文庫)
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商品説明
雪に埋もれた海辺に佇む「兎屋敷」と、そこに住む、ヤンソン自身を思わせる老女性画家。彼女に対し、従順な犬をつれた風変わりなひとりの娘がめぐらす長いたくらみ。しかし、その「誠実な詐欺」は、思惑とは違う結果を生み…。ポスト・ムーミンの作品の中でもNo.1の傑作として名高い長編が、徹底的な改訳により、あざやかに新登場。【「BOOK」データベースの商品解説】
〔「トーベ・ヤンソン・コレクション 2」(1995年刊)の改題改訳〕【「TRC MARC」の商品解説】
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紙の本
トーベヤンソンのムーミン以外の本。なんでいままで読まなかったのかと思う
2015/08/22 10:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
「そういえば、ムーミンシリーズ以外読んでいなかったかも」と読み始めた本。かつて漁で賑わった村だが、今は、短い夏の観光客用ボートとかぎ針編みのベットカバーがささやかな収入源のどこか北の村が舞台。息が詰まるような閉塞感を感じつつも惹かれてゆくのは、主人公たちから発せられる(多くは、モノローグのカタチで)セリフである。人が生きてゆくうえで、細心の注意をしていかなければならない真実のコトバがそこここにちりばめられているような…・
おそらく、何度も読み返すことになりそうな本。
紙の本
ムーミンの作家による大人向け文学作品。北欧の小さな海辺の村で繰り広げられる、少し変わった個性たちのぶつかり合いとふれ合い。
2007/05/18 20:38
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ムーミンシリーズ」の作家としてトーベ・ヤンソンの名前には何回も触れてきたけれども、そのムーミンを含めて、この作家の作品を読むのは初めて。テレビアニメのムーミンは放送当時とても楽しみに見ていて、奇妙で変わったキャラクターたちのそれぞれに今でも愛着を持っている。ムーミンのような児童文学でなくても、何かああいった不思議世界の出来事が書かれた幻想性のある小説を大人向けにも書いているのかしらと思い、「トーベ・ヤンソン・コレクション」からの改訳文庫化の1冊を読んでみた。けれども、そういう方面、つまり幻想味への期待からはやや外れる内容であった。代わりに見つけられたのは、「群れ」から外れる人間たちの孤独を描く、物悲しいような文学世界であった。
観ていない人にたとえで説明しても困った話ではあろうが、読んでいて思い出されたのは、スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督の映画である。それもベルイマンが結構年を重ねてからの作品に趣きが似ている気がした。
ベルイマン映画では年配の数人が登場し、その人たちの内面葛藤がじっくり描かれる。そして、人物たちの間に「心理戦」とでも呼ぶべき感情のやりとりがある。それにカメラをすえ、じっくり炙り出すように映像が作られている。その作られ方、表現のされ方が似通っているように感じられた。ただ、この『誠実な詐欺師』では、「心理戦」のような場面が後半になって出てくるけれども、決してベルイマン映画のように、きりきりと糸を張っていくような空気を漂わせない。そこはそれ、登場する人物たちがやはりどこかムーミンたちのようにほのぼのしたところもあって救われる。戯画的とまではいかないが、ややデフォルメ気味の物語調の人物たちなのである。
誠実なる詐欺師はカトリという娘だ。夏場の避暑とボート製造で成り立ち、冬場は雪で閉ざされてしまう海辺の小さな村に、彼女は住んでいる。少し知的障害のある弟といっしょに雑貨店の屋根裏に世話になり、何とか生計を立てている。だが、雑貨店の店主は彼らをどうやら追い出したいようなのだ。数字に強い彼女は、これからどう生きていけばよいのかという人生設計を立て始める。
描かれているのはとても狭い空間だ。最初は「村」であるが、次第に「屋敷」内部のことに話が移っていく。村には、隔年に絵本を出版する人気絵本画家が住んでいる。カトリが「めしのタネ」として目をつけたのが、その老女性画家アンナなのである。カトリは、村人との付き合いをほとんどしていないアンナの屋敷に機知を働かせてもぐり込み、才覚を働かせて資産を増やそうとする。
生活のため、そして弟の自己実現のためのお金を得る目的で、知恵を使ってアンナの資産を増やしていこうとするカトリに対し、資産と地位がすでに掌中にあるアンナは、森に囲まれた静かな生活だけを願う。しかし、孤高で生きるにはすでに年を重ね過ぎている。カトリとアンナの間にはぎくしゃくした葛藤が生ずるが、アンナはカトリの弟とのコミュニケーションに安らぎを感じていく。
読んでいる間、物語は私の手の上にあるような気分にさせられる。書かれている世界がとても小さな空間であるため、北欧の小村という見知らぬ世界のことでありながら、ちまちまと動き回る人物たちが「物語世界」という小さな箱の中にいるまますべて見えている気になるのだ。だが、人物たちの葛藤はその箱の中の物語にふさわしいように収斂されていくという形では収まっていかない。また、物語は1つの筋を追っていくだけでもない。カトリとアンナの関係を変質させていく事件が起こり、カトリの弟の夢についてのエピソードも並行して進んで行く。キャラクターそれぞれが尊重され丁寧に描かれる、ムーミンと同じタッチの筆により……。