紙の本
篠田節子『聖域』『ゴサイタン』に勝てるか、っていうのが新興宗教ものの一つの指標なんですが、そこには及びませんでした。文學はやっぱり女性かな
2007/09/22 18:56
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
新興宗教もの、っていう分類は乱暴なんですが、このての予知能力をもった女性が出てくる話となると、私は即、篠田節子『ゴサイタン』を思い出すんですね。無論、その前出た『聖域』でもいいんですが。どちらも甲乙付けがたい上出来の話なんですが、じゃあ、貫井の本はそれらを越えるのか?ってことになります。
出版社のWeb上の案内は
「事故で妻と娘をなくした雪藤の運命は、美少女・遙と出会って大きく動き始める。新興宗教をテーマに魂の絶望と救いを描く傑作長篇
デビュー作であり出世作でもある『慟哭』から早や14年。このたび刊行される『夜想』は、作者自ら「『慟哭』の主題に改めて挑んだ」と語る作品です。『慟哭』は新興宗教を扱った衝撃的なミステリーでしたが、貫井さんは「オウム以後、新興宗教をどう描くかをずっと考え続けてきた」とのこと。本作に賭ける並々ならぬ気合いが窺えます。
事故で妻と娘を喪い、絶望の中を惰性で生きている主人公・雪籐(ゆきとう)。ひとりの女性に出会ったことで動き始める彼の運命は……。ミステリーの手法を通じて“絶望と救済”を描き続ける著者の、畢生の傑作。(II) 」
です。主人公の雪藤直義は32歳、妻子・真沙子と美悠を交通事故で亡くし、その悲しみから抜け出ることの出来ません。自動車販売の営業をしているものの、そのせいで失敗続き、ダブルブッキングや客との約束を忘れ、周囲に迷惑をかけっぱなしで、周りもそろそろ我慢の限界に達しようとしています。
そんな雪藤が、客先に謝罪に行った帰り道、落し物をした彼に、泣きながら声をかけてきた女性がいました。彼の定期入れに触れたせいで「ちょっとシンクロしてしまって」と言った彼女は、雪藤に涙のわけを問いただされ「あまりにかわいそうなので」といいながら、足早にその場を去っていくのです。
彼女の一言が気になって仕方ない直義は、自分のカウンセラーである三十代前半であろう、美貌の北條怜子に相談を持ちかけます。怜子の危惧した通り、謎の女性にとり憑かれた雪藤は、女と出会った場所を毎日のように訪れ、再会を果たそうと執念を燃やします。そしてやっと出会うことが出来たのが、喫茶店《ジャスミン》でバイトをしている女子大生天美遙でした。
彼女は幼い時に母を病気で、そして医者であった父を事故死で失っていたのです。これが一つの流れ。それに可愛がっていた娘に家を出て行かれてしまい、娘を探して上京する子安嘉子の話が絡んできます。彼女は、娘の亜由美が付き合っていた相手のタカヨシが居酒屋で働いていたことを手がかりに・・・
こうかくと、ミステリですが、話のメインはやはり新興宗教が生まれ成長し、それが本来の姿から離れていき、分裂していく姿にあるのでしょう。無論、それだけではないのですが。ま、篠田節子の作品には及ばないとは思いますが、とって悪くはありません。マジメに宗教に取り組んだ作品です。ただし、「“絶望と救済”を描き続ける著者の、畢生の傑作」は褒めすぎ。
全67章で、初出は「別冊文藝春秋」第261号~第269号に連載されたもの。装幀 関口聖司、写真 松尾哲です。
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迷いなく五つ星をつけます。
1ページ目から惹きつけられる本ってあるんですね。
人が絶望を感じるほどの深い悲しみを経験したときの生き方・考え方について。
普通の人が、ある日をさかいに精神的破綻をきたし、そこからころがるように落ちていくさま。
幼き日から自分の特殊な能力に気づき、自分の意思なのか意思でないのかそのはざまで、まわりからどんどん救世主のようにたてられていく人生。そして自ら選んだ人生。
宗教団体、あるいはそれに似た組織に対する人々のとらえかた。
『名作「慟哭」から十四年。ふたたび〈宗教〉をテーマに、魂の絶望と救いを描いた雄渾の巨篇』
と帯には書かれていて、宗教をテーマにってところで少し手に取るのをためらうんですが、決してそれだけではない様々な要素が盛り込まれています。
ラストから7ページ目。これは貫井さん自身の考えがそのまま反映され、描かれてるんだろうか。
一気に読めるので、皆さんこのラストまで、最後まで読んでみてください。
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事故で妻子を失った主人公が特殊な能力を持った女性と出会って共に歩んでいこうとするが、男と女の求める物はいつの間にかすれ違っていく。そして…SFでもミステリでもない、強いて言えば恋愛成長物語?主人公の最後の「言葉」には落涙必至。最近の貫井はちょっとノってます。
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交通事故で妻と娘を亡くした雪藤は空虚で絶望な毎日を送っていた。ある日、定期を拾ってくれた女性が自分を見て涙を流す。見ず知らずの彼女が何故、自分を見ただけでかわいそうだと泣くのか。特別な能力を持つ彼女と、知らず知らずに宗教団体をたちあげてしまう雪藤。
新興宗教とはこんな風に出来上がってゆくのか・・。心を痛めるというのは、こんな残酷なのか・・と思いました。雪藤の話と平行して、娘の行方を狂気的に探す嘉子の物語が空恐ろしい。共通しているのは「愛する人」を失った人間の狂気。胸が詰まり、想像を絶する悲しみの物語でした。
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妻と子供を交通事故で死別した雪藤。
財布を拾った遙(美少女)が雪藤の悲しみを知る。超能力者だった。
叔母に育てられた思っていること
がわかることで煙たがれ、この力を隠していた。
アフリカの無医村で医師をしていた父だけが理解者だった。喫茶店でバイトをしながら
占い,人生相談をしていた。
この力を広める為に雪藤は自宅提供。
大きくなる組織。宗教ごろ。遙目当て
後援会開催中に遙が襲われ、顔を
遥の超能力に
娘を殺したことを悟った女に壇上で
顔面をきり付けられる。女は遙に相談
しにきた。何も判らないと言われるが
悟られたことがわかった。
行方不明の娘は自分で殺し家の庭に
埋めていた。
遙を探す、雪藤。やっと見つけた。
顔にキズのついたマネキンだった。
セラピストも実は自分の妄想だった。
傍らには死んだ妻がよく現れた。
そんな自分を組織の仲間が救ってくれ
救済活動を再開。
喫茶店のマスターが遙の場所を教えて
くれた。八王子の障害者センターで
資格をとる為に働いていた。
雪藤が会いに行く。笑顔に驚いた表情
の遙。今度は自分が遙を救う。
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雪藤ちょっと苦手で感情移入も出来なくて、最初からちょっと落ち着かない気分で読んだ。遙にどんどん依存していく心理描写がリアルだった。ラストは好き。読んでよかったって思える本。
2008.3.17
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雪藤が遙にはまっていく過程は、読んでてヒヤヒヤした。別に遥に問題があるわけではなく、彼女と関わると、真っ直ぐな彼らが傷つくのが目に見えてしまったから。案の定、活動が大きくなっていくうちに、活動の進む道は雪藤と遥の理想とはどんどんかけ離れていってしまう。自分の居場所がなくなっていくことに寂しさを感じ、どんどん遥とすれ違っていくのに戸惑いながらも遥を守ろうとする雪藤が切ない。彼らは「新興宗教」をするつもりなんかなく、ただ、他人を救いたいという気持ちだけだったのに、まわりがそれを許してくれない。ここで、「新興宗教」の内側と外側のギャップが見えてくる。いったい信仰とは、宗教とは、何なのか。貫井さんの作品は、最後どう持ってくるのかがわからないので、彼らの行く末を不安に感じたけど、救いのあるラストで安心しました。
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夜の闇の中で蒼ざめてふるえている魂たちへ−。事故で妻と娘をなくした雪籘の運命は、ある美少女と出会ってから大きく動き始める。新興宗教をテーマに魂の絶望と救いを描いた雄渾の傑作長篇。
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正直なところ、本当に贅沢で手前勝手な本音を言わせてもらえば、「うーん、途中から枝分かれしたパラレルなストーリーも読んでみたいなあ」と強く思ったので、物語の最終盤から結末に至るまでの流れには少し不満は感じるけれども、所詮それは極私的感性、つまり好みの問題であり、本質的にこの作品が高い品格を持つ逸品であるという観方は間違いない。
珍しく先を急がれたのか、ちょっと強引な展開もあるが、世俗的な物言いをすると“正常”と“異常”の狭間を、傍から見ているこちらが身を竦めるほどに、危なっかしくフラフラと彷徨う主人公。
歩を誤って向こう側に落ちれば狂気の沼に呑み込まれてしまう、主人公のその綱渡りがまず、これでもかという具合に読み手に対峙してくる。
あーもうなんで分かんないんだよ、とか、なんでそんなことすんだお前は、なんてツッコミを幾度も心の内で入れなければならないほどに、狭窄した視野の中で猛進する主人公の振る舞いはしかし、その一方で「自分は“普通”だよ」、と何の疑いも抱かずに信じている私たちのアイデンティティに、「私は俺は絶対こんな風にはならない」とは決して言い切れないほどのリアルさを以て訴えかける。
単行本の帯なんかには、「再び宗教をテーマに云々」とかいった文句が書いてあったけど、純粋な意味で宗教をテーマにしていたなあと私が思う「神のふたつの貌」とは違って、ちょっとそういった次元で語られる性格の長編ではないと個人的には感じた。
仏教徒であろうが基督教徒であろうが回教徒であろうが無宗教者であろうが、その信心とは関係なくすべての人に問い掛けてくる小説。
純然たるミステリーを書く技術も傑出しているが、そんな漠としてつかみどころのない壮大なテーマを内包しながらも、これだけ読みやすく分かりやすく興味深く、そして高い品位を備えた物語を産み出す著者の才能に改めて気付かされた思い。
すべて読み終えた時に自ずと心に染み入ってくる「夜想」というタイトルも、抜群にいい。
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事故で一瞬にして最愛の妻子を失った青年
失意のどん底で出会った、「残留思念」を読むことのできる少女。
彼女の力を広めることに、彼は生きがいを見出す。
やがてくる破滅・・・
ラスト近くの、世界がひび割れる瞬間が怖いです
でもさすが!一気に読んじゃいました
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事故で妻子を亡くした男が読心力のある女性に出会って宗教のような事をして立ち直る。なんかドヨーンとする。
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雪藤と周囲の人間が、どんどん遙を崇め、のめり込んでいく描写が怖かった。あと、そこから生じる軋轢も。カリスマ性っていうのは、良くも悪くも怖いものだなぁ・・・。
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妻子を交通事故で失った一人の男が、超能力を持った少女に出会った。
男は、その力に感動し、少女の力を皆に伝えたいと考える。いつしか、新興宗教のような組織となり・・
初貫井さん。まあまあかな?
前半、新興宗教みたいな組織がだんだん大きくなっていくというストーリーが退屈でだれましたが、後半はなかなか面白かったです。
心に深い傷をおうとこんなふうに救いを求めて宗教にはしってしまうのかも・・わかる気はします。しかし主人公はやっぱりマジメすぎ。職場で盗聴するなどやりすぎ。人間マジメすぎ、ひとつのことのつきつめすぎ、走りすぎはよくないんだなあ ・・と考えさせられた一冊。
最後、人形を人間と勘違いするところまで追い詰められるのはゾクッ。一応ハッピーエンドになっているけど本当にこの二人はこれから大丈夫なんだろうか?と小説ではあるけど心配になってしまいます。
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なかなか面白かったです。
絶望の中にいる主人公が人の気持ちが読める力を持つ
遥と出会うことで人生が変わっていく・・という話です。
主人公の男性には読んでて若干イライラさせられるけど
それが人間かなぁとも思ってみたり。
最後の方はタンタンと進んで、一気に読んじゃいました♪
遥のような力を持つ人って本当にいるんだろうか。
疑問だなぁ。
なかなか印象に残るストーリーではありました♪
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目の前の事故で最愛の妻娘を喪った雪藤直義の定期入れを拾った天美遙と出会ったことから物語ははじまる。
天美は物にふれることによって、持ち主の気持ちを読み取れる力があった。
救いとはなにかというテーマ。
新興宗教はこんなふうにしてできあがってくるのかと思った。
天美がうけた傷は大きいけれど、希望を見いだせる終わりになっていてホットする。