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乃木を非常に暖かく描いている。乃木は毀誉褒貶の激しい人物である。司馬が『殉死』の中で描いた無能将軍のイメージが一般に膾炙している。しかし、もし乃木が無能な、外面ばかりを気にする、薄っぺらな人物だったら、昔、あれほど「乃木さん」「乃木大将」といって親しまれたであろうか。その答えを本書は、様々なエピソードや、乃木自身の日記をふんだんに用いて、冷静に記している。司馬作品では、死に向かう乃木の様子が、あまりに生々しく暗澹たる気持ちになるが、本書では乃木の「人柄」に実際に触れたような、爽快感を、読後に感じることができるかも知れない。もっとも、私は乃木が院長を務めた大学に在籍しているから、一層乃木に対する思い入れが強いのではあるが。
とにかく、重厚な書籍ではないので、一読をおすすめしたい。俯瞰すれば、乃木と明治という時代の関わり方を活写した好作品であるともいえよう。
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司馬遼太郎の「坂の上の雲」で無能というイメージが一般的な乃木大将。本当に無能だったのか?無能だけで切り捨てていい人だったのか?を問いなおすきっかけになる良書だと思う。
そのあまりにも高潔で有徳な生き様はただただ尊敬に値する。そして明治天皇崩御にあたり妻と殉死するその最期はまさに武士。人としての再評価だけでなく、軍人としての再評価も必要だと思う。
日露戦争、二百三高地で多数の死傷者を出したのは果たして乃木大将の無能さゆえなのかどうか。色々と気になるところがある。
児玉源太郎(有能な人物)は現代日本にいくらでもいる。乃木希典(人をそのために死なしめるほどの人格)がいないことが、現代日本が低迷している要因ではないか。 <巻末解説より>
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人っていうのは、みる角度によってまったく違う顔があるんだという当たり前のことに改めて気付かされました。
毀誉褒貶激しい乃木希典ですが、この本もまた乃木の新たな一面を知ることができる一冊だと思います。
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本棚から引っ張りだして電車の中で読み返す。
有能より有徳が尊いという福田さんの論は、たしかに今の時代だからこそ、うなづける。
ときどき読み返してみたい本。
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有徳な人になりきるということでしか、生きていられない、と思い詰めていました。
自分の人生のモティーフは学問だという意識が強かったのだろうか。
乃木は先日とは学芸、器材ではないという。学芸とは教養的な意味ではなく、むしろ軍事全般にかかわる専門知識全般を指しているだろう。
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「人間」としての乃木希典をよく分析していると思う。
好意的ではあるが、手放しで褒め称えている内容ではない。
短めにまとめられているので、飽きない期間にサラリと読める。
殉死は、自らに厳しくあった乃木将軍が最期に見せた「弱さ」だったのかなぁ…と思った。
かなり有名な人物である故か、歴史的背景はかなり省略されている。
なので、これ一冊ではヤヤ分かり難い部分も。
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乃木希典といえば…夏目漱石の『こころ』の中に登場する、『乃木大将夫妻の殉職』という時代背景が印象的で、乃木希典という名前だけはよく覚えていました。
本書が描き出した乃木希典の像は、従来のどの乃木希典とも異なっている。
司馬遼太郎が『坂の上の雲』で書いたような貶められた乃木像ではなく、また誠実で清廉なストイックな気質(実はこのストイシズムには、葛藤がつきものだった)が一人歩きを始めた結果生まれた乃木像とも違う。
著者・福田氏によると、乃木希典の異常なまでのストイシズムには、『立派で有徳な人』であろうとした、乃木自身の使命感のようなものがあったという。
その覚悟たるや並々ならぬモノを感じるが、乃木も人の子だったということだろう。
乃木希典を論考するにあたり、他の偉人との対比により乃木の人格を描く、炙り出しのような手法も大変な見応えがある。
著者は児玉源太郎を有能とし、乃木希典は有能ではなかったが、有徳であると断言している。
ここまでの論考は、なかなかスリリングであるものの非常に分かりやすくて良いと思うのです。
現代にも通ずる所のある乃木に対する幾つかの論考は、非常に分かりやすく読み応えのある一冊でした。
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軍人としての乃木希典ではなく、人間乃木希典が描かれている。
軍人としての乃木は無能であったとよく言われるが、人としてはなかなか魅力的な人物であったようだ。
奥さんにはかなり強くあたっていたようだが、部下にはとても優しかったらしい。重要な公務よりも部下が風邪を引かないか心配する姿などは、現代なら理想の上司として扱われそうではないか。
実は学者になりたかったのだが、肝心の学力も足りなかったなどという話も人間味あふれていて興味深かった。
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乃木希典の生涯をコンパクトに、旧からの批判とあわせてなおその魅力に迫ろうとしている。若いころを書いている部分は本人と同じくらい鬱々してしまい退屈を感じるが、病院のくだりなど思わずはっとするような「うつくしいひと」である部分が見えて、それだけでもこの煮ても焼いても食えぬような堅物の偉大さに触れる一瞬がある。要領の良くなっていく世に愚直といううつくしさがあるのだと思いおこさせてくれる。
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乃木希典の評伝です。著者の発言はいつも、二重にも三重にも戦略的な企図がはりめぐらされているのですが、本書はとくにそのことを強く感じました。
200ページに満たない小さな本なので、乃木の生涯を詳しく追うことはせず、乃木が「徳義」ということをみずからの生き方そのものとしようとしたことに焦点が絞られています。
いうまでもなく、そうした視角から乃木を見ることは、司馬遼太郎の『坂の上の雲』に代表される乃木の見方に対する異議申し立てとなっています。そしてそれを、乃木という人物の評伝を書くことによって実現しているところに、不思議な興味を覚えます。たとえば、乃木を愚将扱いする人びとの軽薄さや卑小さをえぐることによって、「徳義」を重んじる著者の立場を打ち出すこともできたはずです。むしろその方がずっと容易に違いないと思います。しかし著者はそうせず、乃木の生涯を読者の前に示すという方法を選びました。
興味を覚えるといったのは、そうした著者の態度と、演出過剰と思われるほどの端整な本書の文体に、同じものを感じたからです。本書が提示している乃木の生き方と、それを称えるする著者の文体は、著者と立場を異にする読者を、「ツッコミたい」という思いでうずうずさせるような装いをまとっています。著者のこうした「したたかさ」には、いつものことながら参ってしまいます。
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司馬史観による乃木希典像を改め、日本の進むべき道で彼が演じたことこそが美しく、評価すべき点である、という内容で、文献もなんちゅー数があるんでしょう、と思いましたが、ちょうどこないだ司馬遼太郎の殉死を読んだので、あとがきにある右派ぽい人の解説が、こうした乃木希典をめぐるアカデミックの動きがどのようなものであるか非常にわかりやすく書いてありますね。それにしても事象だけとってみれば名前が上がらぬ人物がこれほど長く議論の対象となるのは、当時殉死したことがいかにセンセーショナルだったかにおわせますね。
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日露戦争後の乃木将軍は、学習院院長として昭和天皇の指導にあたった。明治天皇の死を機会にみずからにけじめをつけたのだろうが、その威光は、昭和天皇を通じて、今も日本を照らしつづけている。乃木が無能な将軍であったことなど考えられない。無私の人、損得のない人は、その良し悪しはともかく、典型的な日本人としてその人柄をしのばせる。
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乃木希典(のぎまれすけ)
乃木神社に祭られている明治の将軍。
明治天皇が殉死された後あとを追って夫婦で殉死。日露戦争の旅順(りょじゅん)戦で九割近い兵士をなくした司令官。愚将と呼ばれる要素はあれど、殉死後に神社がたつほど国民や天皇から愛されたのは何故なんだろう。
生い立ちは不遇な人目線で読んでいたけど、中盤にやさぐれていてとんでもない女遊びをしていた時期もあり、なかなかの人物像。一方で 作者の言う通り現代の日本人にない愛国心がこの時代には確実にあり、そのなかで希典は殉死後に国民から慕われたんだろうなと思った。
そして乃木神社にまたお参りに行きたいなと思った。