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紙の本
神州纐纈城 (河出文庫)
著者 国枝 史郎 (著)
武田信玄の寵臣土屋庄三郎は、夜桜見物の折、古代中国で人血で染めたという妖しい深紅の布、纐纈布に出遭う。その妖気に操られ、庄三郎は富士山麓の纐纈城を目指す。そこは奇面の城主...
神州纐纈城 (河出文庫)
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商品説明
武田信玄の寵臣土屋庄三郎は、夜桜見物の折、古代中国で人血で染めたという妖しい深紅の布、纐纈布に出遭う。その妖気に操られ、庄三郎は富士山麓の纐纈城を目指す。そこは奇面の城主が君臨する魔界、近づく者をあやかしの世界に誘い込む。“業”の正体に圧倒的な名文で迫る、伝奇ロマン不滅の金字塔。【「BOOK」データベースの商品解説】
信玄の寵臣・土屋庄三郎は、深紅の布が発する妖気に導かれ、奇面の城主が君臨する富士山麓の纐纈城の方へ誘われる。〈業〉が蠢く魔境を秀麗妖美な名文で描く、伝奇ロマンの最高峰。【本の内容】
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紙の本
霊峰のもと暗黒の物語が開幕する
2008/03/25 23:15
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦国時代は甲州、偶然から血で染めたと言われる纐纈布を手に入れた、武田信玄家臣の土屋庄三郎は不思議の縁で富士の裾野に引き寄せられていく。そこにはどんな恐ろしい秘密が隠されているのか。大正14年に書かれて未完ながら、禍々しく蠱惑的な伝奇小説の傑作。
まず武田家や家臣団の雰囲気が、信玄その人の人格と相まって、厳格だが家族的で自由闊達で、いかにも戦国で勝ち抜く強者とはこうであるかと、ここで既に面白い。当然家臣一人一人も個性的だ。信玄に向かってズケズケ物申すが、それは当然実力の裏付けがあり、信頼できるものだ。さらに庄三郎を探索に出るのが、忠臣に思わせて実は裏がある設定もいい。
続いて悪役に正体不明の人々、曰くありげな人斬り陶器師、能面彫りの美女、人知れぬ異教の教団とその教主、富士の隠れ家に住む上杉謙信の家臣、放浪する美男美女の夫婦連れ、そーしーてー恐るべき纐纈城主!次から次へと怪し気な人物テンコ盛り。ただ怪しいだけでなく、深い陰翳と驚異に満ちた過去、歴史の底から湧き出る因果を抱えており、その境遇のもたらす複雑な心理と行動が真に迫っている。この説得力が物語に引き込む大きな力の一つだ。それらの人々が絡み合ってもつれ合って複雑怪奇の関係を紡ぎ出す。遂に纐纈城主が動き出すや甲府を恐怖のどん底に落し入れ、そこへ全国に名を轟かせる剣豪が割って入る。
どこまでもおぞましい物語の背景で、富士周辺の自然の瑞々しい描写が、人間世界の無常を対比させて切なさを盛り上げる。草原、川筋、折々の花々、月の光。いやもう、その情景だけでうっとりしてしまう、独特の世界を作っている。
すごいシーンの途中で未完なんだけど、もうこの展開がどう続こうと、続くまいと、読み手としては十分に満たされてしまっている。だから未完であっても傑作だと言えてしまう。それには独特の文体、血湧き肉踊る、血迸り肉爛れる、それでいて糜爛でなくサラサラと流麗な文体も大きいだろうが、やはりなにより人間描写の並々ならぬ力強さが、現代にあっても追随を許さぬトリップ感を与えてくれる。