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著者 W.パウリ (著),内山 龍雄 (訳)
相対性理論 上 (ちくま学芸文庫 Math & Science)
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評価内訳
2011/10/26 13:19
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パウリの排他律で有名な,あのパウリの著書。一般相対論から五年,弱冠21歳の学生だったパウリが相対論を解説したものだ。数理百科事典用に書かれたもので,それまでに出た相対論関連の主要な論文の内容を網羅しており,アインシュタインも激賞したという。新理論を打ち立てた,というのとは質こそ違え,これほどの仕事を若くしてこなすなんて,まさに天才だ。 大学で物理学を修めた友人にこの間久しぶりに会った。その時彼が言っていたのだが,相対論が出た当初,理論はそれほど洗練されておらず,もっと泥臭いものだったという。それが多くの学者によって研究され,今の綺麗な理論体系ができあがっていった。パウリのこの本でも実に多くの研究が引用されており,多くの人が相対論誕生の産婆役となり,理論の整理,発展の功労者となっているのに気づかされる。フィゾー,エトベシュ,マイケルソン,モーレーらによる実験結果の蓄積,ポアンカレ,ミンコフスキ,ローレンツ,ラウエ,プランク,ゾンマーフェルト,ワイル等の数学者,理論家による研究,シュバルツシルトやエディントンによる理論の応用,実証…。 特殊相対論発表後,多くの研究者が重力も扱える理論を模索した。いくつかの新理論も提唱されるが,実験によって否定されるなどして失敗した。結局,等価原理を提出して一般相対論への突破口を開き,正しい重力方程式を導いたのは,特殊相対論の産みの親アインシュタインだった。しかし,当時の百家争鳴の状況を見ていると,そのことが単なる偶然に思えてくる。特殊相対論をつくった人間と一般相対論をつくる人間が一致する必然性はまったくなかった。なぜよりにもよって,数学音痴のアインシュタインだったのか?彼はミンコフスキ空間の重要性さえすぐには理解しなかったという。まさに事実は小説より奇なり,感心するほかない。 このパウリの著書を邦訳したのは,理論物理学者の故内山龍雄。訳者が相対論を深く理解しているため,原著よりも分かりやすいと,「相対性理論の考え方」で砂川重信が絶賛している。内山博士は,日本における相対性理論の権威。有名なアインシュタイン第一論文を邦訳し,解説を加えたのも彼で,これは岩波文庫のロングセラーになっている。彼の文章はなかなか毒があって面白い。毒といっても別に単なる皮肉や無意味なぼやきなどではない。読者に迎合しない,学者の矜恃が感じられるいい文章を書くのだ。例えばこのパウリの訳書では,序において,開口一番こう言っている。古今東西,外国の学者の著書を翻訳するような学者は,二流の学者と相場が決まっている。だから,本来なら教科書の翻訳などプライドが許さない。しかし,このパウリの著作は,非常に内容が素晴らしく,日本語で読めるようにすることは,後進を育てるうえで大変有意義である。だから,訳すこととした。それで二流のそしりを受けようとも本望である。 ところどころに出てくる訳者註は結構な分量で,理解を助けてれる。何しろ翻訳時点ではパウリの執筆から半世紀も経っている。この間に学問は発展し,用語や表記法の変化もあるわけで,その点もフォローされている。パウリの教科書はもはや古典,とはいえ内山博士に��訳を決意させたことからもわかるように,ただ科学史の研究対象にとどまるのではなく,現在にも通用する内容と考えてよさそうだ。翻訳はかなり思い切ってやっているようで,註にはさりげなく著者を批判している箇所もある。「この部分の原書の式変形は煩雑なので訳者が書き替えた」として勝手に内容に手を加えている部分もあれば,「磁界は単位磁荷にはたらく力と考えればよい」旨の原著の記載をつかまえて,「パウリともあろう人がこんな言葉をつかうとはなさけない。」とダメ出しもしている。
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