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商品説明
憲法から見た現代日本社会論。日本国憲法を、人類社会の大きな流れのタテ糸(歴史)とヨコ糸(比較)の交叉の中に位置づける。「憲法から見た「東西」と「南北」」「日本の近代にとって「憲法」とは」ほかを収録。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
樋口 陽一
- 略歴
- 〈樋口陽一〉東京大学教授などを経て、日本学士院会員。憲法学専攻。著書に「近代立憲主義と現代国家」「比較憲法」など。
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紙の本
力のこもった入門書
2008/12/13 22:03
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
帯のコメントにあるように、「憲法から見た現代社会論」にもなっている定評ある入門書の一つ。
体系性にこだわらずに、樋口憲法学のエッセンスを盛りこんでいる。コンパクトだがなかみは濃いと思う。
「表現の自由」の価値についての説明がどのようになされているか、類書と比較することで内容の一端を見てみよう。
----引用開始----
1.民主主義政治体制の不可欠の前提であること。
2.表現の自由が、各個人の人格形成に有用なものであること。
3.「思想の自由市場」を成立させ、真理の発見と社会進歩に役立つ社会的に有用なものであること。
----引用終了----
↑『ベーシック憲法入門 第2版』からであるが、超簡潔である。
----引用開始----
1.民主制の維持という観点から見た場合、表現の自由は個人が政治に参加する上での必要な思想・意見・知識・情報を得ることを可能にするとともに、直接政治に参加し意思決定に関与するという点で、自己統治の価値を有すること。
2.個人の思想および人格の形成・発展を通して自律的な生き方を送る上で不可欠であるという自己実現の価値を有していること。
3.真理への到達の方法として、経済の市場との類推から思想の自由市場の必要性があること。
----引用終了----
↑『憲法入門 第3版』から。標準的な教科書らしい。
↓本書での樋口氏の見解。
----引用開始----
1.一般におこなわれてきた説明は、「民主的政治過程=表現の自由」論ともいうべきものである。かりに経済的自由への不当な制限がくわえられても「投票箱のプロセス」で矯正することができるのに対し、表現の自由が侵されると、民主的政治過程による矯正の可能性自身が否定されてしまうから、というのである。まことに、「今日の少数も明日は多数になりうる」という民主的政治過程は、表現の自由な交流があってはじめて維持されるのであり、その点で表現の自由が決定的に重要だということは、大いに強調されなければならない。
2.それと並んで、むしろ「自分自身が言いたいから言う」という要素それ自体を何より重く見る見地からは、「個人のアイデンティティ=表現の自由」論ともいうべきとらえ方が出てくるだろう。自分の言いたいことが人びとへの呼びかけとして民主的政治過程で意味をもつかどうかにかかわりなく、自分が自分であること自体へのこだわりことが、表現の自由の優越性を支える、というのである。
この二つの根拠づけは、それ自体として両方とも説得的であり重要であるが、他面、それだけでは二つとも不十分だ、という関係にある。いまの日本社会を見ても、裁判所の判決が、国民主権国家での多数意見形成にとっての表現の自由の重要性を説く一方で、関心をもつ国民の数が少ないことをもって事柄の「公共性が一段と低い」というふうな多数・少数意見観をもっている以上、「民主的政治過程=表現の自由」観だけでは不十分である。他面では、際限のないほどの私事暴露の商品化の傾向を見るならば、「言いたいから言う」表現の自由観だけが独走した場合に、どんな破滅的な効果が出てくるかを示唆しているだろう。二つの表現の自由観の結びつきが、重要なゆえんである。
----引用終了----
3の思想の自由市場については、後回しにしていることもあり省略した。
それはともかく、2の「自分自身が言いたいから言う」のだ、といった表現による説明のしかたや、「民主的政治過程」との調和を説くところはとてもよく腑に落ちる。
このように、重点的な項目にこだわりをみせる入門書は好きだ。
ほかにも、樋口節を各所で聴くことができる。たとえば、ドイツと違ってなぜ日本の憲法では国民に憲法尊重義務が課されていないのかといった話なども、興味深い。
力のこもった入門書である。