紙の本
彼女をさがして
2009/01/27 08:28
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
わたし、一人称。あなた、二人称。彼または彼女、三人称。
子どもの頃、そう習った。
「私が昇一と最後に会ったのはふたりが小学校に上がる直前くらいのときだったろうか」という書き出しで始まるよしもとばななのこの本は、一人称の小説だが、題名は『彼女について』。
この彼女って誰なの? と、読んでいる途中で随分気になった。
物語の最後で、この「彼女」の正体がわかるはず(きっと)だが、この物語が、母親が父親を殺してしまうという悲惨な過去を持つ由美子という「私」の一人称の物語ではなく、すっと視線をいれかえると、昇一という優しい青年の物語に見えてしまうあたり、不思議な構造をもった物語といえる。
由美子と昇一は、母親が双子の姉妹でしかも魔女(といっても、「特殊な宗教みたいなものの教祖の娘」で、ホウキで空を飛んだりはしない)だという、いとこ同士。
由美子が久しぶりに東京に戻っていた「秋なかばのある夕方」、昇一が訪ねてきて、彼の母親が昇一に由美子を助けるように言い残して、亡くなったことを告げる。
由美子は母親が起こした凄惨な事件の真相がわからないし、そのあとの自身の記憶さえあいまいなままなのだ。由美子は、だから、こう思っている。
「私の淋しさは、確かにあったものがなくなったというものだから、きっとそれはどんな人生でも同じことなのだろうと思う。なにもなくさずに生きられる人はいない」(67頁)と。
そんな由美子を、昇一の母は助けるように息子に託したのだ。
そこから、二人の、由美子のなくなった日々をさがす旅が始める。
そのなかで、由美子たちの母親の関係や由美子をうつろにした事件のようすが少しずつ見えてくる。そして、最後に由美子は気づいてしまうのだ・・・。
彼らの旅をもう一度辿れば、謎解きのような文章が入念に仕掛けられていることに気がつくはずだ。
よしもとばななの巧みさである。
そして、謎がとけてしまったあとには、これらの言葉こそ、やさしい魔法のようにそこにおかれていることに気づく。
なくしたものをさがす旅の果てに、「彼女について」の本当の意味に、読者もたどりつくにちがいない。
◆この書評のこぼれ話はblog「ほん☆たす」で。
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冷静で何事も受け入れてしまう主人公、どこまでも優しくてマザコンの昇一、個性的でパワフルな双子の魔女。
どれをとってもよしもとばななの世界。
終盤に近付くにつれ、あぁ…言いたくても言えなかった事はこれだったか!と分かり、全ての辻褄が合うので納得して終了。
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2008.11読了。
“私、よく知りもしないのに、あなたのこととっても愛してるみたいに思う。
さようなら。
どうかあなたの人生が楽しいものでありますように。”
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ばななさんはあとがきで「つらいファンタジー」と言っていますが、たしかに、あまりにもあんまりな設定なんですが、どういうわけかそれでも救われるというかなかなか絶望しきれないというか、主人公をあきらめきれないというか、夢の中の夢であってほしいというか、ダリオ・アルジェントの『トラウマ』は見ていないけれど、萩尾望都の『バルバラ異界』に入り込んだみたいな、つまるところ、どこまでいってもやっぱりこの小説もばななワールドだったんですね。
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読み始め、色々考えて過敏になってる時期だったので、
あまりの描写の繊細さに、ウッ、つらい、と思ったけど、ゴロゴロうだうだしながら読んだ。
それなりに、なるほどーと思うけど、底の深さだけが分かるという感じがする。
ここから先に、今の私には分からない世界がたくさんあります、というような。
灯台の光みたい。
ばななさん作品の中でも、特にファンタジックに感じた作品でした。
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中盤、あぁこの展開はもしかして、と思い、実際にその通りになった。
悲しいといえば悲しい結末だけど、それでも妙にすがすがしく、微笑みたくなった。
登場人物が語る言葉の一つ一つ、描写の一つ一つがとても丁寧で、それだけで愛しくなり、この作品を生み出したばななさんに感謝したくなった。
自分を自分たらしめているもの、成長していく中でかかわってきた人達や環境や景色やさまざまなもの。
それらを丁寧に描いた作品だったと思う。
本当に愛情があれば、それを素直に信じられる心をもっていれば、奇跡はきっと起きる。
そんな気がした。
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読み終わっての感想‥ファンタジーだったのか!あまりにも現実的すぎてファンタジーと思えなかったから、最後の展開にびっくりしました。
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この作品にかけられている帯の文章とカバーの絵が、
不思議で美しくて、そしてなぜか哀しい感じが
大変心ひかれた。
読み進めている途中でも、
度々謎めいた場面や文章表現に対面し、
なんとも言えない違和感を覚えた。
常に足元がふらついているような不安な感じと、
この先には何が待ち受けているのかと
「終わり」に辿り着いて全てを知りたい気持ちと、
それに近づいていくのが怖いような気持ちで、
大変不安定な想いでこの作品の世界を彷徨った。
後半に全ての謎が明らかになり、
ああ、そういう事か、と作品の内容だけでなく、
本屋の台に積み上げられていたこの本を見た時に
私が感じた印象、この本の外見が放っていた
オーラの理由も納得した。
仕掛けが分かって、
物語にかかっていた「魔法」がとけた時、
自分も少しだけ予想はしていたものの、
それでもやはりショックで、
とても哀しい設定だと思ったが、
ヒロインの由美子ちゃんが無邪気で可愛くて、
自分に与えられた運命に対して前向きであり続けた事と、
彼女と一緒に旅をするいとこの昇一君が
マザコンで不器用だけど、
ひたすら由美子ちゃんに優しくあり続けた事で、
「「救われないお話」になるかもしれなかったお話」が、
最後は穏やかな良い気持ちで、
「救われたお話」に昇華していった。
とても不思議な物語の終わり、
遺されたものが絶望ではなく、
温かな優しい希望であった事が本当に良かったと思う。
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後半、そうきたかという展開。不思議な物語なのだが、読み終えるとそれが必然のように受け止められる。
球に閉じ込められた彼女の、表紙のイメージがぴったりきた。
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不幸な境遇の元で育った由美子の前に、ある日突然現れた昇一。
優しく、そして温かい雰囲気に包まれた彼の登場で、幸せな展開を予想していただけに、思いがけない結末には、正直驚きを隠せなかった。
しかし、残念という思いは確かにあるけれど、それでも、心の中に残るほっこり感はとても気持ちがいい。
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初期のころの吉本ばなな、がだいすきで、それはまだ宗教だとかスピリチュアルなものものがおおきくでていなく、でも、よわい人のためのような本だったから。
すこしまえのよしもとばなな、は、ハワイ、沖縄、などの癒しの空間での人生を休憩して、そして再出発する、すこしつよくなりたい人のためのような本だった。
これは、どちらでもなく、でも、どちらでもあって(というか、いつでもよしもとばななは精神のことを柱としているようなイメージで)、はじめて、ほんとうのこの人のファンタジーであるような気がする。
いままでも、さくひんに幽霊や現実世界ではないばしょはたびたびでてきたけれど、それでもなんだか現実的だった。これはさいごまで読めば完全にファンタジーで、だけど、そのうえによしもとばななの精神論がのっかっているようで、あたらしいさくひん。
由美ちゃんと昇ちゃんがどんどん惹かれあっていくのに、それでも過去がわかってくるにつれてみえていなかった真実がちかづくなんともいえない緊張感がこわかった。
すべてがわかったとき、ああ、そうなのか、とその緊張感がとぎれてさいご、本を閉じたあとも涙がとまらなかった。
由美ちゃんはこれからどこへいくのだろう。私は後ろ髪をひかれるおもいで昇ちゃんを見おろすあの空間にとりのこされてしまった気がする。
つたえたいことはいままでとかわらないのに、よしもとばななのあたらしいせかいをみた。
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悲しくて辛かったのは全部過去で、現在にはずっと優しさが満ちている。すこし悲しいけど決して寂しくはない。
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悲しいファンタジー。
彼女の話は生と死がいつも組み込まれてて
ぎりぎりのところで生きているのに、強い主人公がいつも出てくるイメージ。
幼いのに世の中のことを分かりきって冷めた目で見ているような。
ちょっとくせがあって読みにくいかなあと思っていたのだけど
読み進めていくと、そこには間違いなくばななワールドが描かれていました。
母親が双子といういとこ同士の由美子と昇一。
幼いころに母親たちが絶縁してしまったため、長いこと会うことがなかったのに
ある日昇一が由美子の元を尋ねてきます。
昇一の亡き母の遺言、「由美子ちゃんを救ってあげて」という言葉を頼りに。
ある事故で両親を亡くしている由美子。
何も不便なく暮らしていると思っていた彼女は昇一の好意に甘え、過去を辿る度に出ます。
曖昧な自分の記憶をつなぎ合わせて、過去と決別するために。
救われない話なのに、どこか救われた気持ちになる。
どんな過去でも、どんな親でも、簡単に許せちゃうものなんでしょうか。
それは主人公の由美子ちゃんの素直でキラキラした気持ちがそうさせているのかもしれないし
彼女のことを愛してやまなかった周りの人の愛情によるものなのかもしれないです。
曖昧な感想になってしまいました…。
意外な結末が待っているため
読み終わった後、もう一度最初から読み直したくなると思います。
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今までとは少し違う、苦しくて苦しくて、ページをめくる手を何度も休めてしまうようなお話。
だけど、最後には・・・これは、大きな愛の物語だった。愛の物語。それだけでいい。
ホ・オポノポノのイハレアカラ博士にも取材をしているらしく、まさに苦しみの記憶をクリーニングしたら、大きな愛が待っていたというような・・・。
「人間は、いろいろな気持ちがあって、いらいらしたり、変な人間に見えたり、でもよく見ると大丈夫だったりしているものじゃないか。一貫性は求められていない気がする。だからこそ、底のところでは一貫性が絶対必要だけれど。でもそれだって、意識してあるものじゃないだろう。強い人がいつも強いっていうこともないよ。」
「抱きしめられたこと、かわいがられたこと。それからいろいろな天気の日のいろいろな良い思い出を持っていること。おいしいものを食べさせてもらったこと、思いついたことを話して喜ばれたこと、疑うことなく誰かの子どもでいたこと、あたたかいふとんにくるまって寝たこと、自分はいてもいいんだと心底思いながらこの世に存在したこと。少しでもそれを持っていれば、新しい出来事に出会うたびにそれらが換気されてもよいものも上書きされて塗り重ねられるから、困難があっても人は生きていけるのだと思う。土台なのだから、あくまでそれは上に何かを育てていくためのものなのよね、きっと。」
「過去を捨てたおばさまの魂は丸く大きく磨かれてきたようだった。その努力は直感にしたがっているだけのものだったけど、決して間違っていなかったのだと私は思った。」
「そうか、ピクニックそのものよりも、そのイメージで人は活気付くんですね。イメージが全てなんだ。でも、イメージ以上のものを知るには、今の瞬間にぐっと参加することしかないんだ。」
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14歳の時に家で起こった凄惨な事件を過去に持つ由美ちゃんを救うため
叔母(母の双子の姉)の遺言によっていとこの昇一と共に過去に向きあうとする数日間のお話
最近幼少の頃に特殊な環境にあった人の話が多いけれどこれは悲しすぎない?
最後にどうしてタイトルが『彼女について』なのか合点が行った…
由美ちゃんが淡々と納得してるところが魅力って言やぁ魅力なんだけどねぇ
生と死については実際そんなに特別なことじゃなくておおよそこんな風に受け止めるものなんだろうと思うし
魔女がいたって驚かないけどばななちゃんってどうしてこの話を書こうと思ったのかな?