紙の本
現代アートを「感じる」ためには、制作された時代の文化背景を「わかる」必要がある
2019/07/03 22:30
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投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
20世紀の初頭あたりから西洋美術には「わけのわからない」作品が登場してきます。私も幼いころからこうした現代アート作品に描かれているものが何なのか、画家はなぜこんなものを描いたのかと首を傾げ続けてきたものです。ある時は「わかる必要はない。感じればそれでよい」と自分を納得させようとしつつも、それでも多くの美術愛好家が「これは凄い」「これは素晴らしい」と太鼓判を押すさまを目にするにつけ、やはりこうした作品が「凄いこと、素晴らしい」理由を「分かりたい」と考えてきました。
この書は、そんな私のような読者に「わけのわからない現代アート」を少しだけでも「わかる」ようにしてくれる好著だと感じました。
著者の筆致は大変平易簡明です。
「現代アートでは、具体的に書かれた対象そのものではなく、そのうしろに潜んでいる、目に見えないもの――観念、概念、思考、世界観、疑念、ムード、感覚、感情、心理、心情、心象、印象、予感、それとなく感じられる気配といったものが真の主題となる場合がある」(74頁)
そしてそうした「うしろに潜んでいる、目に見えないもの」を見えるようにするためには、感性だけではダメであり、現代アートもやはりその作品が制作された時代の政治や経済、文化や思想の背景を知る必要が厳然とあるということです。
◇キルヒナーたちブリュッケの参加者たちに影響を与えたのはニーチェ。世の中が破滅へと進む今こそ新しい時代の価値を創造する必要があると主張するニーチェの思想に基づき、画家たちは「破滅」と「新生」をテーマとした作品を描いた。
◇デュシャンの便器を使った第一次大戦下の作品「泉」には、殺戮に狂奔する間違った世界を否定する考えが込められている。既存の規範を疑い、新しい社会を新しい考え方によって作り直すべきだとする思想を体現するため、狂言回しとして便器を使ったコンセプチュアルアート(考え方を問う芸術)を世に問うた。
◇現代アート作品が「無題」とタイトル付けされることが多いのは、鑑賞者の解釈を制限したくないという画家の意図があるから。アートから「意味」を積極的に剥がし、より純化、抽象化、観念化させようとする試みである。
◇しかし現代アートの抽象化が進みすぎると大衆から異議申し立てが起こる。わけのわからない浮世離れした芸術は疎まれた。そこで登場したのが、大衆と同じ目線に立つ「ポップアート」だった。
◇合理性と機能性を追求したモダニズムが行き詰まり、多様性や多義性、一見ムダと思える存在が見直されたポストモダンの時代には、現代アートは主たる方向性を見出せなくなる。フォーヴィスムから発した人間の内面を見つめる流れと、キュビスムから発した合理や論理の流れがハッキリとあった20世紀初頭と比べると、今はアートの流れは筋道が明確ではなくなった。
最後に今後の現代アート鑑賞のためのヒントとなりそうな含蓄のある言葉を引き写しておきます。
「現代アートに親しみ始めたからといってクラシックアートを捨て去る必要はまったくない。【……】新しい視線をもつことは、これまで培ってきたアート観を否定することではなく、新しいアート観を付け加えることである。それだけ、あなたのアート観は豊穣なものになるわけだ。喩えていえば、英語しかしゃべれなかった外国語が、フランス語もしゃべれるようになるみたいなものだ。フランス語ができるようになったからといって、英語を捨てる人はいないだろう」(31頁)
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●図書館にて拝借
●現代アートとは
大体1900年代からの美術をさす。
第一次世界大戦をはじめとして、世相が芸術家たちに多大な影響を与える。
はじめは大きく分けて2つの流れがあり、
フォービズム:人間の感情・感覚・内面を追求(マティス/カンディンスキー
キュビズム:存在の本質・法則を知性的に追求(ピカソ/モンドリアン
これに少し遅れて、
1920年頃はダダイズム:コンセプチュアルアート(デュシャン
→1935年頃のシュルレアリズム:超現実主義へ続く(マルグリッド/ダリ
1950年代は抽象表現主義:のちのちはインスタレーションへ(ロスコ
1960年代はポップアート(アンディ・ウォーホール
と枝葉を広げてゆく。
●「芸術(アート)」の定義とは
初頭、カンディンスキーは「芸術は作家の内的感動を表すもの」と定義づける
デュシャンがひっくり返した便器を「アート」として出した20年頃の定義は、「芸術は作家の考え方・コンセプト」だった。
シュルレアリズムになると「芸術は作家や人々の深層心理」となる。つまり「自分でも気づいていないこと≠感動」、やはりくねくねと変遷している。
50年代は、「芸術は啓蒙」物理的に大きかったり包み込むようなインスタレーションが流行る。
60年代のポップアート以降は「これがアートかはあなた次第」ディッキーやダントーという学者も言っていること。
●現在のアート・これからのアート
孤立化・孤独化・インプライベート・無言化
自分だけの世界を掘り下げる傾向にある。
●感想
アートの歴史がだいたいわかった。
宗教画の頃とつなげると、実はアートって昔の方がコミュニケーション要素が強かったようですね。
宗教画って、神との対話もしくは布教のToolだもの。(印象派とかはこの際とばします
それがだんだん、意思を持ち、その意思を伝えようとするという要素が1950年代までは強く出ていると考える。
しかし、ポップアート以降、段々と受身のコミュニケーションになり、今アートは無言化しようとしているのか!?
デザインという分野にコミュニケーションを全て任せ、完全なる自らの感覚世界に埋没したら、アーティストってますます生き辛くなる。
カンディンスキーのコンポジション?
マティスの緑のすじのあるマティス夫人の肖像
マルグリッドの光の帝国
など、高校生の時に出会って好きだった作品に久々に会う。(本の中だけど
マティス「私は物の特色を強調し、その結果、物の魅力を失う危険が生じても、たじろがない」に賛成。
絵を描くときは、肌色の奥に何色が潜んでいるのか、透明な水の色をじっくり見ると何色が混ざり合っているのか
そんなことを考え感じ見極めて描くように、と教わった。
入門書だけど、自分の現代アートに対する理解を交通整理してくれたので★4つ
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最近読んだ、集英社新書の西洋美術史本2冊が非常におもしろかったので、私の中の芸術に対する知識欲求を満たすべく、本書を手にした。現代アートは学生時代はさっぱりわからんモンだったけれど、最近は感覚的に面白味を感じることがあるので、それなら本書で現代アートについて学んでみようか、、と思った次第。
前述の2冊に比べると、著者の「美術大好き!大好き!」という気持ちがあまり伝わってこなかったものの、系統立てて説明がなされているので、「あーなるほどな」と思った。
プロフィール欄には、主宰WEBサイトのURLも載っているので覗いてみたところ、なかなか興味深いHP&ブログだったりするので、もっと情熱いっぱいに現代アート作品を説明してくれるようなムックみたいなのを出せばいいのに。まぁ情熱いっぱい系というのも好き嫌いが分かれるところだけれど、私はそういうのが好き。
http://www4.ocn.ne.jp/~artart/
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現代アートは、ザックリ言うと、弁証法的なモノ?
アートとは何か、ではなく、いつアートか、である。
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・現代アートは、伝統に縛られない マティス フォービズム、人間の感情や感覚といった内面の追求←セザンヌ
・現代アートは、美しいとは限らない ピカソ キュビズム、存在の本質や法則を知性的に追求する方向性
・現代アートには、知識が求められることがある カンディンスキー 抽象画の元祖 青騎士
・現代アートは、知識なしに感性で見てもよい
・現代アートは、上手下手に捕われないで見ると良い場合がある キルヒナー ブリュッケ
・現代アートでは、物理的なモノそのものより「考え方」が作品の本質になることがある→コンセプチュアルアート ex. デュシャン「泉」、宮島達夫
視覚が主役でないアート、考え方という目に見えないものを表現したアートの誕生 ex. ダダイズム
キュビズム=知性的なアプローチで絵画を描いていた 絵画やオブジェをツールとして知性そのものを表そうとした=ダダイズム
偶然や無意識をアートに取り入れる→シュールレアリズム
・現代アートには、作者の主観を表現していないものがある ex. ピート・モンドリアン
・わかったような、わからないような作品こそ、鑑賞を広げ、深めてくれる ex. ルネ・マグリット→シュールリアリズム 詩的
・現代アートは、知識や意味にこだわらず、もっぱら感性で見られることがある ex. マーク・ロスコ ある種の感情の表現、抽象表現主義
・現代アートの一方の主役は、実はあなた自身である ex. アンディ・ウォーホール アートという概念を根底から揺さぶる企み
・現代アートは、新しい「気づき」を与えてくれることがある
・現代アートには、成立する時空が限られたものがある ex. リチャード・セラ「傾いた弧」
・現代アートには、あえてタブーを犯すものがある ex. セラーノ「ピス・クライスト」
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複雑で多様で意味不明な現代アートってよくわかんない。
どうみればいいの?って聞いたら、「好きに観ればいいんだよ。」
自分が言われたわけじゃないけどどこかで聞いたことのあるフレーズ。
しかし実際は作品に意味を求め「好きに観ればいいんだよ。」を実践できてはいなかった自分がいました。
さまざまな現代アートの基点となった代表作品を挙げて「解説」というよりは「観方」を指南。
章読みすすめ、一冊を終えるころには自ら「好きに観ればいいんだよ。」と言えるようになっている。
凝り固まった肩の力を解きほぐしてくれ
読み終えた時には現代アートを鑑賞しに出かけたくなる。
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勉強させていただきました!
近代になればなるほどうーん、と悩んでしまう事が多かった。
けど今の世は物が作りやすいなぁと思う。
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平易な言葉で分かりやすく現代アートを紹介した本。たっぴーの資料にあったので読んでみました。
しかしやはりと言うべきか、現代アートは理解出来なくて当然、感覚で捉えようという結論なのですね。
絵(若しくは彫刻)の前に立って、うーむと唸りながら思案する。そこに現代美術の意義を見いだすような境地に至るまでには、本を読むだけではない実地訓練が必要そうです。
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非常に読みやすかったです。
ああ、なるほどな〜。と感じたり、おお、凄いな。と考えさせられたりしました。
現代アートが分かりたいというか、理解したいというか、そういう方は読んでみると良いんでないでしょうか?どんなものか雰囲気だけでもつかめると思います。
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2010.04.26 読了
なんとなく新書が読みたいな~と思っていたところに、日経アソシエの読書特集で見つけた本。アートってなんか難しい?と思ってとっつきにくかったのが、読み終わったらちょっと身近に感じられる気がしてきた。それだけ得られれば私はOKだ。
以下アマゾンの内容紹介
本書が喝破する、現代アート7大わからないとは?
本書を読めば、現代アートの謎解き、鑑賞ノウハウ、ものの見事に、わかります! たとえば一九一七年に発表されたデュシャンの『泉』。この作品は工業製品である便器がそのままアートとして出品されたものだ。仲間のアーテストたちにも「はたしてこれはアートか?」と理解されなかった作品が、なぜ今現代アートを代表する作品といわれるのか?さまざまな作品を俎上に載せながら、現代アートの「わからない」をごくフツーの人の立ち位置に立ち、難解な解釈から解き放たれた「よくわかる」現代アートとの付き合い方、鑑賞法を探り当てる。初心者だけでなく、アート鑑賞の新たなノウハウにも学びが得られる一冊である。
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まさにアート初心者向け。教養としていいかな。各作品が各章ごとに示され、読者の考える時間を取ってから作品、作者、表現方法の説明などが入っているのでおもしろく読めた。
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現代アートがなんなんじゃってのが解りやすくまとまっていた。
ただ、アートや美術に興味があって、いくらかの知識があって
現代アートって物に興味があるんだけど、なんだかわかんないなー。
と感じている人むけでした。
一般の人にはちょっとわかりずらいと。
多少の歴史と美術の意味みたいなものが必要。
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本当にわかりやすかった!
アートの価値は うまい、下手 だけじゃない。
考え方 も大事な要素なんだ。
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これをさらっと読んだ後に、難しい学術書読むことをおすすめ。とても読みやすくなります。
時代背景や社会と、面白いようにリンクしているな、というのが全体を通しての感想。
19世紀までは、偉そうに上から目線だった芸術も、現代アートでは、個人が芸術だと判断しないと芸術になれない。
個人。
今の世の中を象徴しているようで、面白いです。
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現代アートについて
わかりやすく書かれた本。
ピカソ、マティスなんかの有名所
私の好きなマグリットやロスコ
あと、作品は知ってたけど、背景を知らなかったデュシャン
少なくとも
この本を読んだら
誰でも現代アートに興味は持つようになると思う。
印象的だったのは、
私が思っていた現代アートの意義?が
真っ当だったって思えたこと。
デュシャンの考え方のアート
ロスコの感じるアート
そう、だから
現代アートが好きなの!
と、私の言いたかったことを体現してくれたような本でした。