ノーバディノウズ

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投稿者：カフェイン中毒　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

メジャーリーグで活躍中の韓国系アメリカ人、通称ジャスティン・キング。
寡黙で愛想のない、けれど結果は残す優秀な選手です。
しかし誰も、彼のことをよく知らない。
交渉のすべてを任されている代理人ですら、彼の背景を知りません。
とてつもない金額での複数年契約さえ拒否し、野球などいつでもやめていいという姿勢のキングですが、
じつはそこには大きな秘密が隠されています。

キングは、逃亡中の日本人ではないか。
そんな謎に、鼻のきく幾人かが飛びついて行きます。
秘密を掴み、一攫千金を夢見る男。
その男の安否を気遣う、恋人や母親。
日本の新聞社に所属する記者と、その連れである元メジャーリーガー。

人を寄せつけないキングが、世間に知られないよう接触しているらしい怪しい男の存在もあり、
キングを取り巻く人たちは、命の危険を感じながらも、先へ進むしかありません。

緊張感が高まる中、キングの過去のエピソードが挟まり、
想像以上の壮絶さや逃げ場のなさ、そして努力の跡に胸がつまりました。

友情を描いた物語だと単純にも思えず、
けれど、たしかに存在する人との絆（キングに限らず）も丁寧になぞられた作品で、
程よい収まり具合が、緊張したまま引っ張ってこられた読み手には、とても心地良い。
野球に興味などなくても、充分に楽しめます。

大きな秘密というのは、共有する人がいてこそ、なんとか秘密でありうることが可能なのかもしれません。
人は、ひとりで何もかも背負い込めるほど強くはなく、
それらがさりげなく描かれていることに、心を揺さぶられました。

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者：かつき　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

メジャーリーグの本塁打王の正体に迫るサスペンス。
韓国系アメリカ人ジャスティン・キングは
３年連続のホームラン王。
ストロングタイプの彼は
メジャーな都市に本拠地を構える球団を毛嫌いし、
一年契約しか結ばない、無愛想な変わり者。

その彼が日本人だという噂を聞きつけた日本の新聞記者は
社命により、彼を日本の自分のプロ野球チームに
スカウトするように申しつけられます。
半分、脅迫してもいい、というのが御上の意向。

一方、ＮＹの邦人向けコミュニティ誌のカメラマンが
ジャスティン・キングに近づいて、消されてしまいます。
その日本人の彼女もまた、キングに近づいていきます。

という魅惑的な設定に惹かれて、
またメジャーと日本の野球の比較、日米文化論、
韓国と日本の確執、国際社会での日本人といった
さまざまな社会的なテーマを盛り込み
ミステリアスにジャスティン・キングに迫っていきます。

謎のジャスティン・キングという男の過去が
少しずつ明らかになるにつれ
そのストイックで、不運さえも跳ね返すパワーが
魅力的に描かれます。
この部分がいちばん日本人っぽい。

ひとつひとつのエピソードがしっかりと組まれていて
ゆるぎない物語の骨格を作り、最後まで引っ張られました。
野球を知らない人も楽しめます。

第１回（２０１０年）サムライジャパン文学賞大賞受賞作

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投稿者：kumataro　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

ノーバディノウズ　文藝春秋

　ＮＯＢＯＤＹ　ＫＮＯＷＳ　は、「（彼のことを）誰も知らない」ということです。彼とは、大リーグのホームランバッターであるジャスティンキング３２歳、韓国系アメリカ人を指します。
　読み始めの感想です。小説家の文章ではありません。ジャーナリスト（新聞記者ほか）の文章です。わたしにとっては苦手な文体です。苦手な理由を書きます。おおげさな表現、残念な文体、文は報道用に定型化された形態となります。小説の世界で、その文体を用いると読者に真意が伝わりにくくなります。ビジネス文書なのです。本作品の場合もこの危惧（きぐ、心配）があてはまりました。事件が好き、ことに殺人事件が好き、人を評価することが好き、自分を高く見せるプライド（誇り、自慢）が好き。そして女性を性的な商品として扱う。第三章「接近」以下にはがっくりきます。作者のジャーナリストとしての意見が、複数の登場人物によって語られてしまいます。てんびんの左側には、主人公ジャスティンキングの気持ち、右側には作者のジャーナリストとしての自慢がのっかっています。右側の作者の存在のほうが重いのです。小説の作者には、自分を抑えて、登場人物にのり移って自分の意見ではないことを登場人物に語ってもらう「描写」が必要です。
　舞台はニューヨークですが、読んでいると、外国という雰囲気はありません。全体をとおして、日本の国土で出来事が起こっているようです。展開は日本映画「砂の器（うつわ）」パターンです。著名な指揮者には秘密の暗い過去があったというものです。
　カネとか、薬物とか、レイプとか、人種差別とか、事象は豊富ですが、一般人はいいプレーを見たいだけです。ボールパーク（野球場）は、お年寄りからちびっ子まで、親子連れ、恋人同士などが集まるところなのです。