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創造的進化 (ちくま学芸文庫)
創造的進化
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紙の本
自然科学系の私でも面白かった哲学書。「現代科学が置き去りにした考え」に気づかされる所も多い。
2011/12/26 18:20
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本職の研究者が一生を賭けて論ずる哲学書の評を門外漢が書くのはおこがましいのであるが、本書は畑違いの者にも結構面白く読めたので、紹介したい。
19世紀科学の台頭に向き合ったベルクソンの、三大主著といわれる『時間と自由』『物質と記憶』『創造的進化』。三作目にあたる本書には、胚発生のオーガナイザーやド・フリースの遺伝学まで出てきて、あの時代の科学をとても深く勉強していたのだろうということがよく分かる。文章も思ったよりも読みやすく、時には美しい。美しすぎる名句も多いので、読めた気になって早とちりしそうなところもあるのでそこは要注意である。
哲学者がここまで最先端の科学を把握して論ずることができたのも、哲学と科学がまだ近く、袂を分かち始めたころだったからかもしれない。ベルクソンはその「分かれ目」に立ちどまり、じっくり見すえていたようだ。それは、本書の第1章が「生命進化について 機械論と合目的性」というタイトルで始まることからも想像できる。そして、どちらの見方にも問題はあり、それを超えるためにはどうする必要があるのかを、執拗に論じている。
第2章「生命進化の分岐する諸方向 麻痺、知性、本能」、第3章「生命の意義について 自然の秩序と知性の形式」。ここまでがおおよそのベルクソンの進化についての論述である。
最終章である第4章は「思考の映画的メカニズムと機械論の錯覚 諸体系の歴史についての手短な考察、実在的な生成と擬似進化論主義」。前半は前二作で論じられた内容を踏まえないとかなりむずかしい。後半はギリシャ哲学から近代科学をへて、デカルトやスピノザ、カント、スペンサーの哲学まで位置づけてしまうので、これらを理解していないでいきなり読むのは辛い章だった。
4章は正直流し読みにしてしまったが、1-3章からだけでも充分「現代科学が置き去りにした考え」に気づかされる。それだけでも読む価値はあるだろう。
ベルクソンの想像した進化の道筋、精神の発達についての考えには、あの時代では間違っても仕方なかったことも多い。しかし多くの示唆的なものを見出すことができる。
20世紀の科学、特に生物学は「『とりあえずは』機械論でわかるところをとにかく知ろう。わからなくなるところまで進もう。」という考えだったように思う。そしてわからないことが出てくるたびに新しい理論を捻出していくうち、『とりあえずは』と進みだす際の荷物に入らなかったものもだんだんと記憶の彼方に忘れられてしまった。忘れた荷物の中には、もう必要のなくなったものも多いだろうが、もし今もう一度手にとることができたら、なにか使えるものもあるかもしれない。ベルクソンの本書には、そういう『とりあえずは不要」と現代科学が置いてきたものがあるように思う。自然科学系の人にも是非読んで欲しいと思った所以である。
哲学者にはそれぞれを特徴づける独自の概念が幾つかある。ベルクソンでは「純粋知覚」などがそれであろうが、これは科学者ならば「分からない」として未来の進展を待つような部分に思える。そこをなんとか独自の言葉ですぐにでも埋めてしまおうとする。分からないままに放っておけないのは科学者も哲学者も同じだろうが、こんなところに「哲学者と科学者の分かれ目」を見た気がした。それでもあの時代にこれだけを考えたのはやはり尊敬する以外にない。
科学の用語、特に生物学の専門用語が本書には多いので、哲学系の方が翻訳をしたためか、ところどころ違和感のある訳語があった。哲学用語は哲学者ごとにも定義が異なる部分がある。そして、翻訳の場合にはそこにさらに科学用語とは異なる訳語が対応する場合もあるだろう。このちくま文庫の翻訳はそれでもかなりわかりやすいと感じたのだが、フランス語の素養のある科学者に翻訳をお願いしたらどうなっただろう。今はなき、語学堪能だった日高敏隆先生なら、などと考えてしまった。