紙の本
少年の痛々しい孤独に寄り添いたくなる
2018/06/30 15:57
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
19年前、叔父のビリーが行方不明に。連続児童殺害事件の被害者になったと思われるが、逮捕された犯人は否認、ビリーの遺体は見つかっていない。 帰ってこない被害者に残された家族は心を閉ざし、やりきれない思いを抱えている。甥であるスティーヴンは、ビリーの遺体が見つかれば祖父や母の心の傷が埋まるのではないかと、このうちが“普通の家族”になるのではないかと考え、今日も遺体を探して荒野をめぐる(舞台はイギリス南西部のエクスムーア。ヒースがところどころに茂る水のにじむ荒野があり、犯人はそこに死体を埋めていたから)。
見つからない子供と残された家族の葛藤、どうにか見つけ出そうとする少年、という基本設定はジョン・ハート『ラスト・チャイルド』とほとんど同じ。
しかしディテールは別、こっちでは犯人は捕まっていて収監中。
ただスティーヴンはどうしてもビリーの居場所を知りたくて、刑務所の犯人に手紙を出してしまうという別方向にスリリングな展開に。分量も『ラスト・チャイルド』の半分だし、神がかった不思議な感じは出てこないし、むしろこちらのほうが読みやすいかもしれない。が、やはり母親は愚かだし、主人公にとっての親友は種類は違えどろくでなし。共通項が多いので近い時期に読むと印象がかぶるのは間違いなし。どっちを先に読んだかでかなり評価が変わってしまうかも。
で、私は後から読んじゃったわけですが・・・でも、よかった!
『ラスト・チャイルド』と違ってスティーヴンはちゃんと学校に通っているが、教師からもほとんど認識されていないし暴力をふるうとともにカツアゲも平気でするいじめっ子までいて、彼の孤独は深まるばかり。だからこそ荒野でシャベルをふるうことが彼の存在理由であり、居場所になってしまっているということになんか泣けてくるのである。
何度、「ちゃんとした施設に入れてあげてよ!」と思ったことか。
そして厳格で一家の不和のすべての元凶にも思えるスティーヴンの祖母(しかしほんとの原因は“事件”なんですけどね)の存在が物語を引き締める。彼女が目立ちするが故に母親の影が薄いというか、余計愚か者っぽく見えてしまうのが残念ではある。
スティーヴンと犯人の視点で交互に紡がれるこの物語、後半はスピーディーなスリラーへと展開しますが・・・幼児性愛者とか快楽殺人者ってのは更生などしないものだ、としみじみ感じてしまう(更生するような資質があれば怪物になるラインは踏み越えないんだろうが)。
しかしわかっているだけで6人の少年が殺されているのに(そして遺体が見つかっていないのが3人)、死刑判決じゃないってのが信じられない。イギリスっていまは死刑のない国だっけ?、と考えつつ、そして自分は“死刑のある国”に生きていることをごく平然に受け入れていると気づかされる。
正直、死刑制度の何が悪いのか、私にはわからない。
終幕での町の人々の行動には描かれている以上の謎が潜んでいるような気がするのだが・・・しかし祖母の登場により私はいきなり堤防が決壊したようにどーっと涙が流れた。嗚咽もなく、すすり泣くでもなく、ただただ涙だけが流れ続けたのだった。
すべてが片付いたわけじゃない、スティーヴンにはまた別の心の傷が残る。
それでも、彼が手にできたのは明らかな救いだった。
そのことに、安堵できたのでした。
こんなにも読後感のよいサイコスリラーはなかなかありませんよ。
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あの、途中に挟まれる挿話は本当に必要だったのだろうか。家族の再生とサイコサスペンス、どちらも描こうとして結局うまく描ききれなかったという感じの作品。もう少しどっちかにシフトしてたら……と、特に物語の端緒となる部分(往復書簡)はよかっただけに、ちょっと残念。
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幼くして殺された叔父の遺体を見つけようとする少年。貧しい家庭の様子、家族の愛を得ようとする彼の心の描写が、細やかで素晴らしい。祖母のため修理した手押し車は重要な役割でした。作品全体を覆う霧のような薄暗さが英国らしい。
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ムーアズ殺人事件を思い出すなあ、と思いながら読んでいたら、やはり著者はその事件の被害者の母親のニュースをみて、このようなストーリーだてにしたようだ。当該事件では、エドワード・ゴーリーも「おぞましい二人」という絵本を描いている。
主人公が12歳の少年であるのに、少々過激な表現があったり、鬱屈した家族の姿が描かれたりしているのにちょっと違和感を覚えていたが、実際の事件からインスパイアされて書いたとなれば、それも理解できる。
何より、主人公の少年の心の傷が読んでいてつらい…。
犯人が撃たれる場面や、結末は少し唐突だし、読んで楽しい小説ではないが、寒々とした荒野、すさんだ犯罪者、少年のつらい心情など、巧みに描写されていて、引き込まれた。
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連続児童殺人事件の犯人と、少年の対決という物語で、よくある警察や弁護士などが犯人と対決するのとは少し毛色が違っている。少年の叔父が十数年も前に被害者になって、少年の家庭は息子を失って悲しみから抜け出せない、少年にとっての祖母と、父が居ない(なぜかは明示されていない)中、5歳の弟に母の愛情が向けられていると感じている主人公の少年にとって、叔父の遺骨の場所を見つけることが、暖かい家庭に変えることへの命題になっていた。
殺人事件によって家庭が崩壊している中、何とか改善しようとする、けれどどこにでも居そうな少年がいじましく、応援してしまう。
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「元気におなり。それ以上に大事なことなんて何もないよ」
『ラスト・チャイルド』(ジョン・ハート)に似ている。
というのが第一印象。
なんていうか、物語の筋がね。
そして、主人公のスティーヴンが可哀想過ぎる。
過酷な、というか、あのラスチャイよりかは幾分かましな気もするのだけれど、その内に篭ってしまっている、苦しさみたいなのは、なんだか、とても可哀想だった。
可哀想って客観的に見られるようになったんだなー。
途中の、兵の子が打っちゃったりのエピソードは、イキナリ過ぎて、ちょっとついていけなかったし。
最後に、いきなり、家族が1つになってる!?的なところも、早っ!!と驚いてしまったのだけれど、
ゾクゾクワクワク感はありました。
【1/17読了・初読・先生蔵書】
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獄中にある連続猟奇殺人犯人と12歳の少年との息をつかせぬ心理戦が見所のサイコサスペンス。
2010年のゴールドタガー賞受賞作品だ。
この英国推理作家協会が選ぶ賞に新人作家の作品が選ばれるのは異例の快挙だという。
サイコパスとの心理戦といえば「羊たちの沈黙」がまず思い浮かぶが、本書の焦点は異常性や猟奇性にはない。
そちらを期待していると確実に裏切られる。
ここで描かれているのは、それとは真逆の家族愛だ。
万人受けするだろうし、映像化のオファーもくるのではないか。
著者の真っ当な道徳心が感じられて好感をもった。
12歳のスティーヴンは、シングルマザーの母レティと祖母、弟の4人家族。
19年前にレティの弟ビリーが子供ばかり狙う連続殺人犯によって連れ去られ行方不明になってから、祖母は今でもビリーを待ち続けている。
ビリーの遺体さえ見つかれば、祖母もそれを受け入れ事件は終わるのではないか、我が家は普通の家族になれるのではないか。そう思ってスティーブンは今日もエクスムーアの広大な大地を掘る。
犯罪によってもたらされた遺族の悲しみは、他人の想像を超えて何十年はおろかときに世代を超えて遺族を蝕む。
ビリーがいなくなってから祖母はレティへの愛情にも興味を失い、嫌みをいうだけの扱いにくい人間になった。
レティはその祖母から捨て置かれたまま大人になり、子供にうまく接することができない。
それでも、スティーブンは希望を捨てられない。
自分が頑張りさえすれば、家族を蝕む不幸な空気も、貧困さえも変えられるかもしれない。
その一心で、傷つきながらも恐ろしい相手に一人で立ち向かっていく。
こんなスティーブンに思わず涙腺がゆるむ人もいるだろう。
それぞれの登場人物の心理描写がとにかく巧い。
物語序盤はゆっくりとしているが、ここで語られることは全て意味がある。イラつく方はしばし我慢を。
この著者、なかなかのストーリーテラーだと思ったが、演出にも手を抜かない。聞けば、脚本家なのだそうだ。
少しすれば完全にスティーブンに肩入れすることになるだろう。
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捜査ものではないし、牽引する謎があるわけでもない中で、物語を読ませる力はある。
ただ、筋にあんまり起伏がないし、主人公がいじいじしてるしで、のめり込んで読んでしまうような話ではなかった。
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神に愛されていない者たちの物語。彼らは愛を取り戻すために、彼らなりのやり方で苦行と変わらぬ努力を積み重ねる。湿地と曇天の英国が精緻に描かれ、崩壊してしまった肉体が、精神をも腐食させている、そんな家族の物語。少年期の鬱屈と、連続幼児殺人犯の屈折を見事に書き、最後にその二人の運命を交差させる筆力を認めるものの、スカッとはしない読後感。面白いのだけれども。
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最後に連続殺人犯と少年の邂逅までは一気に読ませる。子供の繊細な心理と殺人犯の異常な心理が絡み合って面白い。ラストが物足りない気がする。
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毎日のように、荒野に行っては掘り続ける12歳の少年スティ-ヴン。
母の弟が殺されたことから暗くなった家庭を救いたいと願って。
19年前に母レティの弟ビリーが11歳で行方不明となり、祖母は心を閉ざした。
レティは弟と一緒に母も失ったようなもので、今もピリピリした所がある。
1年後に連続児童殺人犯が逮捕されたが、ビリーの遺体は見つからなかった。
せめて遺体が発見されれば、祖母や母の気持ちに区切りがつくのではないかとスティ-ヴンは望みを託していたのだ。
イングランド南西部のシップコット村。
スティーヴンは叔父が死んだことは知っていたが、事情を知ったのは3年前。
友達のルイスが教えてくれて、エクスムーアを掘ることを思いついた。ヒースやハリエニシダが茂る広大なムーアを掘ることにルイスがすぐ飽きた後も、スティ-ヴンは事件のことを調べ続ける。
ブラックランズというのはムーアの一部の名前。
無邪気な5歳の弟デイヴィー。
デイヴィーの方を可愛がりがちな母。
幼なじみだが横暴な所のある友達ルイス。
学校でのいじめっ子達。
目立たないスティーヴンの作文をほめてくれた先生。
時々現れる母のBFのなかで一番好きだったジュードおじさん。
日常的な描写も過不足なく、一方では刑務所や地元の悪などのとんでもない現実も。
スティ-ヴンは、収監されている犯人に手紙を書くことを思いつく。
埋めてある場所を教えて貰おうとしたのだ。
書くのも難しく、内容によってはすぐ刑務所から送り返され、なかなか届かない手紙。
長い刑期を勤めている犯人アーノルド・エイヴリーは、頭文字だけの短い手紙に興味を覚える。
模範囚としての出獄をめざしていたエイヴリーだが、実は全然反省していない。
差出人が少年だということに気づき、事態は危険な方向へ…
事件によって3代に渡って破綻した家庭。
一途な思いで動いた少年の心は通じるか?
スリリングな展開で、読み応えがあります。
ようやく解決に向かうときに本当に嬉しくなります。
作者はイングランドと南アフリカで育ち、脚本家となる。
小説はこれが最初。
2010年1月発表。2010年10月翻訳発行。
CWA(英国推理作家教会)賞ゴールド・ダガーにノミネートと書かれていますが、その後受賞したようです。
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少し内向的なスティーブ君がやられたらやりかえせが信条の自分には合わず。。
全体的に消化不良の感はあるけど、小奇麗にまとまってたかな。
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家族がばらばらなのは誘拐されて殺された叔父のせいだ。
12歳の少年スティーブは家族の絆を取り戻すために叔父の死体を探している。やがて服役中の犯人と文通をすることになり…。
スティーブがいかにも12歳の少年で、苦笑したり胸が痛んだり。
年相応の浅知恵で必死に壊れた家族を元に戻そうとする健気さが生む物語。
多少安直に進行する場面もあるけれど、ミステリというよりも少年の物語として読めばそれも許せるかな。
犯人に内面だけでなく、鬼気迫るような外見の描写があれなもっと緊迫感が出たようにも思った。
何にせよデビュー作がこれならこの先に期待する。
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主人公の少年が受けているイジメがひどい。服役中の犯人が動き出すまでは、フード3人組のイジメ(というより盗みと傷害)にイライラして本を投げつけたくなった。スティーヴン少年、まだまだ青いし頼りないけど、いいヤツすぎるよ……。
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期待したほどではなかった。静かなトーンの話だったことと、舞台田舎だったのであまり海外ものという雰囲気が感じられなかった。