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商品説明
吉村昭の世界を一冊に。単行本未収録エッセイ集。歴史証言者の、こだわりの世界と記録の軌跡。【「BOOK」データベースの商品解説】
場所、記憶、追悼、取材、披露宴、相撲、家族、病気、万年筆、紀行、そして青春…。歴史の証言者・吉村昭の、こだわりの世界と記録の軌跡を綴った、単行本未収録のエッセイを収載。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
吉村 昭
- 略歴
- 〈吉村昭〉1927〜2006年。東京生まれ。学習院大学中退。小説家。歴史文学、記録文学の第一人者。吉川英治文学賞、菊池寛賞、日本芸術院賞など受賞多数。著書に「ふぉん・しいほるとの娘」ほか。
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紙の本
履歴書に偽りなし
2011/07/23 08:51
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は吉村昭さんの『冷い夏、暑い夏』を自身のベスト本のひとつだと考えています。
この一作だけでも、吉村昭さんの作家としての在り様が信じられますし、吉村昭さんという作家が好きでもあります。
この作品は吉村昭さんの弟の死を描いた私小説風なものですが、吉村さんの作家としてのすごさはそれを単に肉親の死という情感で描かなかったことで、吉村さんが得意とした硬質な記録風作品に仕上げていることです。
自身の肺結核を描いた吉村さんの初期の作品はまだ文学臭が立ち込めたものでもありますが、それらの短編に登場する弟の姿と『冷い夏、暑い夏』に最後の姿をとどめる弟の姿はまったく違います。
初期の短編に登場する弟は文学という創意でまとわれていますが、『冷い夏、暑い夏』の弟にはそういう余分なものが削ぎ落とされています。
吉村昭さんはその死後(吉村さんは2006年に亡くなりました)も、記録文学の第一人者として、多くの人々に記憶される作家にちがいありません。
そんな吉村さんが遺された多くの文章のなかから単行本未収録エッセイを集めた一冊が本書です。
本のタイトルの『履歴書代わりに』というエッセイはありません。この本全体が吉村さんの「履歴書代わり」となっています。
そもそも作家とはその書いた作品が自身の履歴そのものです。
だから、自身の青春期を綴った「私の青春」という文章だけでなく、吉村さんがこよなく愛した長崎という町のことを書いた数編のエッセイもまた吉村昭という人物の履歴なのです。
自身の好みも欠点も赤裸々に描く、特に吉村さんの場合は創意というやっかいなものを極力排した文章を特徴とした作家ですから、そういう点では「履歴書に偽りなし」ということになるのだと思います。
人は物語に多くのものを求めます。
心の鼓動であったり鼻の奥をツンと突きさす悲しみであったりします。
それを創るのではなく、それを表現することに徹した作家、それが吉村昭という作家だったのです。