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- カテゴリ:一般
- 取扱開始日:2012/03/29
- 出版社: 筑摩書房
- サイズ:19cm/346,11p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-480-01536-5
読割 50
紙の本
反原発の思想史 冷戦からフクシマへ (筑摩選書)
著者 絓 秀実 (著)
中ソ論争から、「1968年」やエコロジー、「宝島文化」を経て「素人の乱」へ。複雑に交差する反核運動や原子力の平和利用などの論点から日本の反原発運動を俯瞰し、「後退りしなが...
反原発の思想史 冷戦からフクシマへ (筑摩選書)
反原発の思想史 ──冷戦からフクシマへ
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商品説明
中ソ論争から、「1968年」やエコロジー、「宝島文化」を経て「素人の乱」へ。複雑に交差する反核運動や原子力の平和利用などの論点から日本の反原発運動を俯瞰し、「後退りしながら未来へ進む」道筋を考える。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
絓 秀実
- 略歴
- 〈絓秀実〉1949年生まれ。文芸評論家・近畿大学国際人文科学研究所教員。著書に「1968年」「革命的な、あまりに革命的な」「詩的モダニティの舞台」など。
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紙の本
反原発思想の分節化に意味はあるのか?
2017/03/05 18:49
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投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
フクシマ原発事故の衝撃は世界中に広がった。今なお廃炉の道筋は見えず、この先百年単位での人類の宿題が山積した。地元住民や国民に刷り込まれた「安全神話」は311の歴史的事実の前には何の説得力もない薄っぺらな嘘だったことが白日の下に晒されている。しかし原発推進の国策は改まっていない。また、多くの国民はその刷り込みに再び順応し始めている。だからといって原発問題の解決策や口当たりの良い方針及びその提示、そんなものは多分ないだろう、と著者はいう。著者は勿論原発推進者などではない。しかし原発問題の反動としての「反近代」への志向には抵抗すべきである、そのためには、「正しい」歴史認識が必要、ということで本書は書かれたのだそうだ。
預言者的市民科学者として311後注目を集めた故・高木仁三郎や、1980年代の反原発ニューウェーブの思潮を繙くには、1968年に遡らねばならない、と著者は主張する。この手の議論に私は詳しくないが、想像するに、著者本人の原体験に立ち戻ることが主観的に必要なのでそうしている、ということらしい。結局その旅に読者は長々と付き合わされることになる。確かに高木の思想信条に毛沢東主義が何らかの形でこびりついていたかもしれないし、表立っては宮澤賢治へのシンパシーも表明していた。宮澤賢治にはその後のニューエイジの旗手たちが抱いた共鳴もあったかもしれないし、アナーキズムとエコロジーの結びつきから1980年代以降のサブカルチャーが表出しており、その担い手たちが反原発運動を主導した、という歴史的事実はあるかもしれない。現代思想をリードした一方の大物である吉本隆明は早い段階で原発推進を表明していたという歴史的事実も抑える必要があるかもしれない。いくつかの事実誤認は散見されるものの、断片的な情報それ自体は興味深いものではある。しかし、著者はその思想潮流を辿る道草を楽しみながら、私のような無知な読者を敢えて置いてけぼりにした。(これが意図的なものであることはまえがきに宣言されている。)結局この挑戦(本書読破)は相当苦痛なものだった。著者は歴史を遡りながらその思索を巡らせていたはずなのだが、本書スタイルが時間順序の通りの叙述を貫いている点にもその原因があるかもしれない。そこで読者には、1990年代を記述した最終章から読むことを私からお勧めしたい。個別現象の原因を知りたければ、その前の章を読む、という変則的な読書の方が、おそらくは苦痛なく読める。興味が湧かなければ、そこで読むのを止めても一向に構わない。(私もそうしただろう。)
最終章にある、「脱」原発運動は新自由主義経済下では第三国への原発輸出圧力になる、という指摘は、一面として当たっている部分があるかもしれない。とはいえ、そこで吉岡斉の「脱原発論」を脱構築主義、と切って捨てたところで生産的な議論は始まらないのではないか。反原発運動の思想背景やコンセプトの純粋培養化や分留化を図って、雑多な反原発運動の意味分節化を執拗に繰り返す著者の意図を最後まで理解できなかった。運動を強めるには、分節化ではなくて統合化の努力の方が恐らく大事だ。大抵の左翼的運動が、些末な思想や基盤の違いで内部分裂を繰り返し自壊した歴史を、結局著者自身が学んでいないようにも見える。
なお、歴史を語る上で現代を評価するためには今少し時間が必要だったが、本書出版は残念ながらフライング気味であった。表面的な新自由主義の下で、原発産業の大手東芝は、逆に目下倒産の危機にある。原発輸出のビジネスモデルの前提が崩壊しているのだ。三菱、日立にもそういうリスクが潜在している。