紙の本
半世紀以上前の警察小説
2023/08/30 22:35
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
「生まれながらの犠牲者」を読むにあたって、そのテーマなど深い関係性のある本作を久々に手に取って見た。
1950年代の東部アメリカの比較的裕福な家の出である女子大生ローウェルが大学の寮の部屋から白昼姿を消すという冒頭からして、無駄な描写を一切そぎ落とした簡潔な文体がきびきびした印象を与える。
夜になっても帰ってこないローウェルを寮生の仲間が心配しだし、事件は警察の手に委ねられる。この流れも他の視点を排して淡々と進んでゆくのが、実際の事件でも野次馬的な他人ならいざ知らず、警察は日常の業務として決まった手順に従い、可能性を一つずつつぶしてゆくのだろうとこちらを納得させる。
派手さはないが、なぜかページを繰る手を止められないテンポの良さと次々と示される情報が新たな展開を見せる緊迫感は時代を感じさせない。こういう気分に読者を誘うのがやはり並々でない作者の力であり、実際の殺人や失踪事件の捜査の行方を素人推理をしながら日々興味深く追い続ける一般人の嗜好をよくつかんでいると思う。
面白かったのが、事件の発端となった寮の近くに不審者が現れ、それを見つけた寮生が電話で警察に通報する。そこから電話をつないだまま、署からの指令で現場に捜査官が駆け付け不審者を追い詰めようとする。寮生は窓から不審者の行動を電話で逐次警察に伝えながら、窓から見えない位置に不審者が移動すると友人に窓辺にいってもらい、彼女の見たものを口づてに報告し続けるというシーンだった。
現代から見れば時代がかっているが、携帯電話のない当時でしかありえない状況にも関わらず語り手の視点が次々変わることで、かなりスピーディな現場の動きが生の感覚でこちらに迫ってくる。今でもそう感じるのだから、当時の読者はとてもハラハラさせられたにちがいない。
やがて有力な証拠が容疑者の身辺から発見される。最後の決め手に欠けていた状況が一変し、これを容疑者に突き付けてぐうの音も出ないように追い込もうというところで幕切れとなる。このエンディングもなかなかだ。容疑者の葛藤や解決後の刑事たちの総括や述懐も必要としないことこそが、この作品を警察捜査に的を絞った一流の警察小説に仕上げている所以だろう。
紙の本
新訳版のいいところ
2015/02/23 05:13
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
読みかけで何年もほったらかしのものもあれば、比較的買ったばかりなのにサクッと読んでしまうときもある。 なんなんでしょう、この違い。
自分の記憶力について考えていたせいかも。 これは以前に旧訳を読んでるし、犯人は○○だったよな・・・というのを確かめたかった気持ちもあり。 この表紙の場所は△△△が見つかった場所かな、とか。
1950年3月、マサチューセッツ州。 カレッジの一年生、18歳のローウェル・ミッチェルが寮から姿を消した。 自らの意志での失踪なのか、何らかの事件に巻き込まれたのか? 警察署長フォードをはじめとした警察官は総出で捜査に当たるが、2週間が経過しても手掛かりはなにも浮かばず。 一体ローウェルの身に何が起こったのか?、という話。
一時期、ヒラリー・ウォーはまとめて読んだので、地の文などもっとそっけない印象が残っていたのですが(たとえば容疑者を取り調べる場面では、テープ起こししたもののように会話だけが続いたりとか。 あれは『事件当夜は雨』だったか?)、「あれ、フォード署長ってこんなお茶目な人物だったっけ?」とびっくり(唯一の大卒というキャメロン刑事とのお互いあてこすり会話が面白い)。 そのあたりは新訳による読みやすさによるものと思われます。
そして2014年の視点から見たら、「あぁ、DNA鑑定したら一発なのに!」と思えてイライラしたり(すみません、『CSI:科学捜査班』の見すぎです)、逆に「無許可で容疑者の家探しなんかしたら公判に持ち込めないよ!」とハラハラしたり・・・ほんとに時代を感じましたよ。
でも、<組織だった地道な捜査&リーダーシップとチームプレイ>という現在までに出来上がっている警察小説の雛型は存在し、探偵小説が隆盛していた中で“警察小説の里程標”と呼ばれる意味もわかります。
他の作品も、読みなおしちゃくなっちゃいますね。
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●宮部みゆき氏推薦──「『捜査小説とはこういうものだ』というお手本のような傑作」
1950年3月。カレッジの一年生、ローウェルが失踪した。彼女は成績優秀な学生でうわついた噂もなかった。地元の警察署長フォードが捜索にあたるが、姿を消さねばならない理由もわからない。
事故か? 他殺か? 自殺か?
雲をつかむような事件を、地道な聞き込みと推理・尋問で見事に解き明かしていく。
巨匠が捜査の実態をこの上なくリアルに描いた警察小説の里程標的傑作! 解説=川出正樹
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警察小説として名高い本書ですが、宮部みゆき氏の推薦の言葉にある通り「捜査小説」の方がしっくりきます。
一人の女学生の失踪事件をしつこいほどに徹底的に捜査する過程を、じっくりと楽しむ1冊でした。
現実的な捜査ですから当然聞き込み、考察、捜査の繰り返しでとっても地味。
サプライズや派手な演出はなく、個性的な登場人物もいません。
しかし、ジリジリと真相に迫っていく過程は楽しく、地道に積み重ねたものが結実するラストは気持ちいい。地味ながらしっかりエンターテイメントをしていたと思います。
途中がたるくなりますし、人間ドラマも何もないので退屈な面もあるんですが、余計なものを全て排してひたすら捜査過程を描くというのはなかなか斬新な1冊なのではないでしょうか。
個人的にはフォード署長とキャメロン巡査部長の掛け合いが、もっと軽妙で楽しいものであったらなぁと思います。
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新訳で出たので読んでみた。
こんな話だったのかw
警察の捜査小説の元なんだけど、リアルタイムで読んだら衝撃だったろうなぁ。
今は当たり前の分野だけど、これが描かれなかったらヴァランダーもフロストもフレンチ警部もなかったかもと思うと感慨深いわ。
そしていろいろ荒いけど、警察小説ってやっぱり性に合ってる。読んでいて楽しいよ。
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失踪当時の服装は
「64」を読んで警察小説がむしょうに読みたくなった時にたまたま見つけた小説。
女子大生が謎の失踪を遂げ、地元警察のフォード署長がその行方を探すというあらすじでトリックはなし。
部下キャメロンと毒舌の応酬を繰り広げながら少しずつ地道に彼女の足取りをつかんでいきます。
地道に足を使って追っていく、それだけの物語なんだけど、証明したりマスコミの名の下知る権利というノコギリを振りかざす記者や被害者の弱った気持ちを食い物にしようとする私立探偵から、被害者の家族を守っても、苛立ちをぶつけられたり捜査の妨害をされたりしてやってられない状況が続きます。
この踏んだり蹴ったり感は64に通じるものがあり。
ラストシーン、えっそこでおわるの!とびっくりしたけど、この小説は犯人の物語なのではなく、警察の捜査の物語だからこれでいいのだろう。
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淡々と、細かい部分を確認し、じわじわと周囲から追い詰める。根気良く、とことんまで調べつくし、犯人にたどり着く。
その結果が、最後の一言に全て集約される。
堪能させていただきました。
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ハードボイルド探偵小説に対する最終兵器か。警察捜査小説 Police procedural の里程標的傑作だそうです。たしかに面白い。新訳になったので読んでみました。でもこんなに怖い話だったのか。もちろんひとかけらのネタバレも許されない作品。新ジャンルが生まれたところにも立ち会えます。
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警察捜査小説の嚆矢ということですが、時代の違いや、国の違いも有り腑に落ちない所もあった。
ただ、圧倒的な執念と推理力で、犯人を追い詰めていくフォード署長を中心とした警察官の姿には心を打たれた。
犯人は早い段階で目星がついたが、この小説は犯人当てより、その過程を描く事に主眼があるので気にはならなかった。
それにしても、犯人の女性をたらし込む技術は羨ましい。具体的な事は書かれてないがあやかりたい。
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地味、地味、ひたすら地味。
でも面白い。一気に読めた。
地道な捜査だからこそ?一緒に捜査しているような錯覚に。これは結末にたどり着くまで中断できません!
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地道な捜査が実を結び、真相が明らかになる……のはいいのだが、その捜査方法が旧態依然としている。つまりは違法捜査で、なんとも言い難い。
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ある美人女子大生が学生寮から謎の失踪、幾日か過ぎる。地方警察官の地道な捜査といったら、すぐに思い出すのは松本清張さんの初期作品の新鮮さですけどね。
「構造がいたってシンプル」で淡々と物語が進むのに、読むのが止められない、というのは惹句どおり。清張さんにはにじみ出る暗さがありましたが、こちらは深刻なストリーなのに淡々としていて、しかもその当地の警察署長と巡査部長のキャラクターがだんだんに濃厚になってくるのは、ほほえましいものがありまして、のちの「警察ものの」お手本でもありそうです。アメリカミステリーの古典(1952年)でしょう。
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『生まれながらの犠牲者』の巻末解説で、本書にも言及されていたので購入。新訳が出た時、買おうかどうしようか迷っていたやつだ。
前述の解説でも書かれていたように、本書と『犠牲者』とは、構成やストーリーの展開など、様々な部分が共通している。が、同じような内容でも全く飽きさせないのは、矢張り端整なミステリだからではないだろうか。なんというか、派手さは無いけど、安心して読んでいられる。
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さすがに、時代が変わっちゃったかなーという印象。
この町の警察署長は、もはや、警察だか、街を牛耳る(自分は正しいと思い込んでいる)暴力団だかというレベルwで現実味がない。
とはいえ、たまたまこの本を読んでいた時、TVで「ランボー」をやっていて。それを見たら、少なくとも80年代の前半くらいまでは、「この町では、俺が法律だ/正義だ」みたいな警察はアメリカでは珍しくなかったのかもしれないなーと思った。
★3つは、この手の小説の先駆ということで、かなりオマケw
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米マサチューセッツの女子寮からふっと消えてしまったのは、美しく聡明で落ち着いた女正徒だった。気まぐれというのも彼女に合わない、深い付き合いのボーイフレンドもいなかった。
すぐに帰ってくるだろう、突然消えた娘は周りの願いむなしくいつまでも帰らなかった。
全寮制のカレッジからいなくなった18歳、美しく聡明な娘は失踪か誘拐されたのか殺人か。
1952年発表の警察小説の嚆矢となる本格推理小説だという、ここから「警察捜査小説」が始まったということだが。今も全く古くなく優れたミステリの一つのジャンルをしっかり守っている。そんな警察小説は嬉しくて読まずにはいられない。かっちり出来上がっていてエンタメといえど少し姿勢をただして読むような力がある。
正しく犯人当てのフーダニット小説で、そこに特殊な背景や、人間関係があり、警察側には頭脳明晰のボス警察署長フォードがいて、脇に切れるが少し癖のある嫌味な奴や凡庸に見えて細かい気が付きよく働く部下が定石のように揃っている。気の利いたウィットに富んだ会話もよくできている。読んでよかった☆5つの名作だった。
ところが、読み始めてすぐ、あ!と気がついた(まだ一ページ目なのに)これではないか。彼女はこうしていなくなったのではないか。この何気ない一行が気になった。
捜査はなかなか進展しない。同室の寮生も、少し気分が悪そうで途中で授業を抜けたということしかわからない。
部屋からは着替えが少し無くなりハンドバックも見えない、出かけたらしいが姿を見たものもいなし、駅でも見かけられていない。
もう調べ尽くし訊き尽くし打つ手もなくなった。
だた一つ、一冊の日記帳を穴のあくほど読んでいた署長が疑問を持つ。
読みながら次第に思い通りの方向に進んでいくと、読者として緊張する。この小さな一言の手掛かりは、あそこに続くのかな。
しかしそうやすやすと問屋は下ろさないだろう。もし私の推理通りなら、なんと巧みに話を膨らまして警察官たちをへとへとになるまで働かせることか。親の嘆きの深いことか。
寮長の驚きや関係者の保身や男友達の慌てぶりや、すり寄ってくる記者たちや。
これで決まりかと思う容疑者たちを追い始めると、私の推理も揺らぎ始まるが、容疑も晴れて解放されてしまうとひょっとしたらひょっとして推理通りかも、、、と何か緊張して、またドキドキ緊張が始まる。
と、こんな感じでこの作品は心臓に悪いほど楽しませてくれた。久しぶりの大当たりで作者にはその話の迷路を構築した力に改めて驚いた。