紙の本
心の髄で読む。言葉にできないきもち。
2017/10/17 09:51
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年1番の本に出会えた気がする。この本がどのように素晴らしく、どんなに感動したか、それを伝えたいのに口に出そう、文字に起こそうとなると言葉がはらはらと砂のようにこぼれ落ちていってしまう。未熟な私にはそれをカタチにできる力が備わっていない。だからといって恥ずかしい気持ちは微塵もなく、それ以上にこの本に出会えた喜びで満たされている。今いえることは、心の髄で感動し受け止められたということ。言葉として紡ぐにはまだ時間がかかる。生涯、わたしは何度も読み返すだろう。いつか自分の言葉で語れる日が来ることを信じながら。
【再読】
読み手の心で物語の彩りは変化する。トメさんの言葉一つ一つが心にしみ入る。夏を見送る一幕。襟を正して最後まで労を惜しまずしっかりと見送る。それが風情。これは季節だけに言えることではないと思った。人々や物事、毎日少しずつ変わっていく。自分が少しでも手を触れた事や人、それらと別れる時が来たら私も労を惜しまず最後まできちんと見送ろうと思った。それが人情かなって。人生の標となる一冊。大切な事忘れてはいけない事が詰まってる。後はどう受け取り、どう昇華させるか。またその時がきたらきっと読み返す。私に必要な物語。
紙の本
温かな境界のような世界に浸る。
2016/03/18 06:09
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投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
楽しみにしていた木内昇さんの新刊。
期待した以上の読み応えに良い読書の時間でした。
時は江戸から明治に移り変わる頃なのだろうか、寂れた長屋に暮らす人たちの毎日がなんとも温かく、しっかり地に足をつけた暮らしぶりが気持ちよい。
魚屋の浩三は中学進学を希望しているが母親と兄の事を考えると言い出せない。
そんな浩三は、長屋の人たちに温かく見守られつつ励まされながら成長する。
長屋のトメさんと浩三とで能を見に行った場面は、生きる事の尊さ、生きていればこんな素晴らしい世界があるんだと、涙せずにはいられなかった。
そんなトメさんも誰の記憶にも残らずに元の世界に戻ってしまう。
浩三は見事中学受験に合格し、先輩の遠野さんと中学生活を楽しむ。
浩三は自分も気づかない気持ちを持ちながら長屋の齣さんの部屋で過ごしながら毎日を過ごす。
そんな当たり前の毎日も終わりが来る。
齣さんがこの境界の世界で過ごした時間が、何とも愛おしく感じる。
美しい文書で、この不思議で愛おしい世界を見事に書き上げた木内さん、ありがとう。
一作、一作、書いた作品が土台になって、新作が書き上げられたような出来映えです。
おすすめ。
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じわりじわりと境界線が滲んでいって、心細いような居心地がいいような不思議な空気感のお話。
浩三たち家族が逞しく活き活きと描かれているけど、齣江やトメさんには結構早い段階で悲しい予感を覚えて読み進めるのをしばらくストップしてしまった。
やっぱり最後はすごく切なかった。
謎が全部は明かされなくて、だから読後もしばらく浸っちゃうのかなあ。
浩一の和菓子屋のエピソードはあったかくて涙がにじみました。
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切なさと悲しみを足すと愛しさになるんですね。
お話の中に出て来るすべての人が愛しくて愛しくて。そっと抱きしめたくなるような一冊でした。
途中で、トメさんやコマさん(漢字が出ません!)がこの世のものではないということがうっすらわかってくる頃から、ページをめくる手が遅くなってしまいました。
なぜ?どうして?という疑問を明らかにするよりも、火鉢に寄りかかって舟をこぐトメさんと、日向で昼寝している浩三と、そして凛として針を動かしているコマさんの、三人のいるこの部屋がいつまでもそのままであって欲しいと、そう思ってしまって。いつまでもこの温かくて優しい空間で生きていて欲しい、そう思うとページをめくる手がゆっくりになってしまうのです。
でも、読み終わった今思うのは、この世のどこかでこうやって人生を生きなおしている人たちがいるんじゃないか、大好きだった誰かもどこかでそっとまたしばしの「生」を振り返っているんじゃないか、ということ。そう思うとなんだかちょっと嬉しかったりして。
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何度鳥肌が立っただろう
いやただの鳥肌ではなかった
体の内側までソワソワとする鳥肌を
何度感じただろうか
感動の数だけ名場面や銘文があるのなら
この作品のそれのなんと多いことか
前作「櫛挽道守」の感動いまだ冷めやらぬ中
“柔らかな”物語に包まれながら
心をゾクゾクと震わせて最終頁にたどり着き
浮世の感覚のまま読み終えました。
どうだ外国語!
日本語はこんなに素晴らしい物語を紡ぎだせるのだ!
と一人虎の威を借る狐になっている自分がいます。
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素敵な本だった。
文章がとてもきれいで少しずつ、大事に丁寧に読みたくなる本だった。
時空を超えた不思議なあたたかい話だと簡単にいえば、そうなのだけど、もっとこう心に残る懐かしい感じ。
うまく言えないけど、とにかく素敵な本だった。
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読み終わってみれば、ややファンタジーが混じっているのかもしれないが、登場人物がしっかりした実在感をもっていて、不自然さは全くない。
人々がそれぞれに対して持つ想いがしっとりと描かれ、読了後しみじみとした余韻を味わえる。
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人情話のような、パラレルワールドのような、優しい言葉に翻弄されていく連続短編集。
そこに存在しなくなっても、覚え続け、思い出すことの優しさが感じられた。
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この世の中にある次元というのはひとつきりじゃない…すごーく不思議でモノクロなイメージがつきまとうお話がラストははっきりした彩りをつけた感じです。
夏だけが終わる、なんて不公平…その表現が深い。
夏蜜柑を見たらこれからちょっと切なくなりそうででも決してさみしさだけじゃなく生を重ねていく未来に繋がる物語です。
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この世の中のは、自分が知りえない世界がある
時空が交差して、並行して、霞んで見えたりする
先を知って生きるのは辛いんじゃないのかな
特に、人の寿命を知って生きることは辛い
わたしは、もし過去に戻れるのなら
今のわたしの記憶はなくしてしまいたい
この本の中にしかない世界に思いっきり浸りました
とてもとても好きな本と出会ってしまった
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今の自分と、ここを通っていた頃の自分は随分隔たっている。うろたえているふうな、喜んでいるふうな、そして胸のずっと奥底で泣いているような顔。とてつもない不安。答えなんぞ分からない。だけど進む。生きるっていうことはそういうこと。ちょっと不思議な世界。だけど、それ以上にめずやかに感じたのは、今の世の中には決してない、人肌の温かみと人情。不思議な違和感の正体が実はここにある。
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長屋に暮らすお針子の齣子、そこに入り浸る老人トメ、魚屋の二男坊浩三。三人を取り巻く人々の日常を描いた、少し不思議な話。とにかく、余韻が素晴らしい作品。読書をする楽しみを存分に味あわせてもらった。
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長屋の人情話ものかと思いきや、時空を越えた不思議なお話でした。何とも古めかしい情景がより一層情緒を掻き立てるといいますか…現代を舞台にしたら絶対成り立たないんじゃないかと思う。初めのうちはそういう筋立てと分からなくて何だか退屈な話にも思えるけど、最後まで読むと分かります。しっとりと切ない、よいお話でした^^
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この作家の作品を手に取ると、好きなお酒か、カクテルかをゆっくりチビチビ楽しみなから読みたいと思ってしまう。
短編集かと思いきや、全てつながるタイムトラベラー?の話。 時代は、明治に入り日清日露戦争前の江戸の名残を残すころ。
長屋の仕立て屋のお駒さん宅日露集まる人達で、物語が進む。魚屋の女将さん、息子が二人、トメ婆さん、糸問屋さんの若旦那、不思議な集金人雨降し、、、。
序盤に、長屋の人達が能を観に行く。
それが大きな布石。魚屋の次男坊、浩三が中学に行きたいと思っている。それを長屋の仲間、家族が支える人情編を展開。魚屋の長男が月の晦日に楽しみに通う和菓子屋親子も人情編の良い味付け。
話は、浩三が知り合った中学の先輩が登場すると、ぐっとタイムトラベラー物語になって行く。
折角、花伝書まで出したから、タイムトラベラーと能の幽玄をもう少し書いて欲しかったけど、雰囲気は出てた。
ふわり、さらりとした日本語で、不思議な世界を描くから、余り理屈を書くと不味いのかしら?
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浩三の暮らす路地裏の長屋には、お針子で暮らす齣江や皮肉屋の老婆が住んでいた。影と話ができる浩三が出逢う不思議な世界の物語。行間から情感があふれる静謐な雰囲気の漂う上質な人情物。