紙の本
大きな時代小説はお見事というしかない
2018/11/10 08:19
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「越後屋、お主も悪よのう」と、手元に引き寄せた菓子折りの底にはびっしりと小判、にやりとするお代官、時代劇によくある場面である。
徳川八代将軍吉宗の時代に実際に大坂と江戸を震撼とさせた大贈収賄事件「辰巳屋騒動」、読んでいる時は全然わからなかったが、この作品の基となるそれはほとんど事実というから驚きだ。
朝井まかてさんはそんな事実を巧みに現代にエンタテインメントとして蘇らせたといえる。
物語の主人公吉兵衛は自身の遊びが過ぎて生家である大商家辰巳屋との行き来もままならない。そんなところに辰巳屋を継いだ兄が死んだという連絡。
あわてて行ってみると、跡をまかされるはずの養子の情けなさ。兄の娘があまりにも可哀そうでその養子を追い出し、吉兵衛は後見人として辰巳屋の跡を継ぐことになる。
ところが、そこに待ったをかけたのが、その養子。奉行所に申し出たが、吉兵衛の役人への心づけがあったせいか、吉兵衛の主張が通る。
しかし、単なる相続争いが江戸の目安箱に投げ込まれ、吉兵衛はなんとお縄にかけられてしまう。
そこに登場するのが、大岡裁きで有名な大岡忠相である。さらには公方様吉宗まで登場し、大坂での騒動は一転して日本全国にいきわたる大騒動になる。
だから、タイトルの「悪玉」はもちろん吉兵衛のことだろうが、いやいや本当の悪は吉兵衛に罪を押し付けたあいつか、いやいやそれに加担する吉宗か。
大きな題材を見事に料理した、朝井まかてさんの腕前に頭がさがる。
紙の本
善悪は立場によって
2023/11/01 09:22
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
世間では「善玉」と言われる大岡越前を江戸側に、不撓不屈の主人公吉兵衛を大坂側に立てることにより、真実は一つでないことを巧みに象徴している。大坂の上人の立場、江戸の武士の立場 この2つの立場の対比を鮮やかに描き出している。読んでいて、しっかりとした語り口 各所に張り巡らした伏線とストーリー構成の巧みさに惹きつけられる。しかもコノ作品は単なるフィクション時代小説ではなく、史実を下書きにした歴史小説とのことますます驚かされる。牢内の描写が真に迫っていて嫌悪感をもたらすほど迫力がある。
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いつもながらの文章の美しさは堪能できましたが、ストーリが好きでない。主題がはっきりしないので語りたいことがぼやけて散漫な印象。著者作品には珍しく凡庸な一作。
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さすが朝井まかてさん、読み応えがあり、どう展開していくか、先を予測しながらの物語でした。大坂は辰巳屋、辰巳屋の主が急逝し、その跡目にかかわる争い。死んだ主の弟吉兵衛36歳と養子で娘の許嫁の乙之助16歳(唐金屋から)の家内争いが辰巳屋と唐金屋の争いに、果ては大坂と江戸の争い、武士と町人の争いに。読みどころは沢山あるものの、全体のストーリー、特に結末については、首をかしげざるを得ない感がしました。そして、タイトルの「悪玉伝」、悪玉はいったい誰だったのか。私は吉兵衛ではなく乙之助の父親とみますが。
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初出 2016〜17年「小説野性時代」
大坂の辰巳屋疑獄事件を題材にした物語。
読んでいて、時の最高権力者に取り入って役所をねじ曲げた現代版の疑惑が想起された。
炭問屋辰巳屋の主人が急死し、弟で木津屋に養子に行った吉兵衛が葬儀の差配をしようとすると、大番頭から先代の遺言によるとして排除されるが、泉州の廻船問屋唐金屋から来た気の弱い婿養子が出て行き、遺言状は謀書とされて形勢は逆転する。
婿養子の名で民事の訴訟が起こされ、大坂東町奉行所は相続は正当は判決するが、唐金屋は将軍吉宗に取り入り、箱訴によって大坂東町奉行所の贈収賄事件に発展させる。吉兵衛は江戸に送られ収監されるが、贈収賄を認めない。吉兵衛は唐金屋と直接対峙し、遠島から所払いへの減刑を勝ち取る。
一方物語は評定所で事件を扱う寺社奉行大岡忠相の側から見た事件の様相も描かれ、幕府の最高首脳と唐金屋との間に江戸と大坂の金銀取引を巡る政策があったと匂わせる。
大坂商人の自由な活力と、その力に手を焼く幕府の様子がよく描かれた物語で、骨組みはしっかりしているし、なかなか読ませる。でも結末はちょっと甘いかな。
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時は徳川吉宗の時代。
大坂で実際に起こった江戸時代最大の贈収賄事件「辰巳屋騒動事件」を描いたもの。
上方の町人の間では当然のように行われる「ご挨拶」「根回し」として贈り物や饗応の風習が、幕府を敵に回す大疑獄事件に発展するとは驚いた。
元は単なる商家の相続争いなのに、放蕩息子へのお仕置きにしては随分と手厳しい。
「質素倹約」の吉宗の時代でなければここまでの騒ぎにはならなかったろうに。
大坂の常識は江戸の非常識…大坂と江戸の感覚の対比が面白かった。
そして現代にも通じる「忖度」。
時代は違っても金や権力が絡むと「よしなに図る」人は何処にでもいるものだ。
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徳川吉宗の治世下に実際にあった辰巳屋騒動と言う一大疑獄事件を題材に描かれいます。記録上は家産二百万と言われた辰巳屋から木津屋に養子として出された吉兵衛が、兄の死後に実家・辰巳屋を養子・乙之助を追い出し乗っ取った事になって居ます。その後、乙之助が大坂町奉行所に訴えるものの敗訴。さらに江戸の評定所に訴えたことから、大坂町奉行所における収賄事件が表ざたになり、さらには江戸でも収賄が発覚し、天下を揺るがすような大事件になりました。
朝井さんは木津屋吉兵衛を主人公に、史実の裏には別の力が働いていたと言う立場で描いて行きます。
歴史の新解釈をつけることが朝井さんの目的なら、やはり少し穿ちすぎだと思います。でも、朝井さんが造形した、兄の死を契機にそれまでの遊蕩から足を洗い、最後は一人で幕閣に立ち向かう吉兵衛は魅力的です。そして吉兵衛を取り巻く人達もそれぞれ個性的で見事です。我儘・気儘な幼い後妻・お瑠璃も魅力的。
一人の男の成長と男意気の物語として読み応えがありました。
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まかてさんの時代小説は、相変わらずの読みごたえ。特に牢屋の描写がエグかった!
『光圀伝』の樽ネズミを思い出しました。
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大坂の炭問屋の主・木津屋吉兵衛は、切れ長の目許に高い鼻梁をもつ、三十六の男盛り。学問と風雅を好み、家業はそっちのけで放蕩の日々を過ごしていた。そこへ実の兄の訃報が伝えられる。すぐさま実家の大商家・辰巳屋へ駆けつけて葬儀の手筈を整えるが、事態は相続争いに発展し、奉行所に訴状が出されてしまう。やがて噂は江戸に届き、将軍・徳川吉宗や寺社奉行・大岡越前守忠相の耳に入る一大事に。真っ当に跡目を継いだはずが謂れなき罪に問われた吉兵衛は、己の信念を貫くため、将軍までをも敵に回した大勝負に挑むが―。
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辰巳屋の跡目をめぐっての騒動.相対で済むところが大阪の奉行所だけでは収まらず,果ては公方様の含むところもあり江戸での大岡裁きへと武家をも巻き込んでの大騒動.腹黒い唐金屋を相手に牢の中で頑張り抜くのは良かったが,この主人公吉兵衛がそもそも悪いのであって,その自分勝手さにはいらいらさせられた.そして,思いの外目的のためには容赦ない吉宗公の冷たさにがっかりしたり.真実はわからないが,このような解釈もありかなと,さすがの朝井まかて氏です.
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読み終わってから辰巳屋疑獄事件というのは実際にあった事件と知った。読み終わってからで良かった。結果を知っていたらこんなにハラハラ出来なかったろうから。作者は吉兵衛に最後希望を与えてくれたがそれまでが事実であったかどうかは分からないが、読者には救いとなったと思う。
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痛快時代小説。
とある商家の跡継ぎ問題に大岡越前や徳川吉宗らが出て来る。
売られた喧嘩はとことんまで買わせてもらうで!
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江戸時代、江戸の武家社会と大坂の町人、商人社会との対立と文化、思考の違いを小説として描いていると言えるだろう。
八代将軍吉宗の時代の話である。将軍を始め、我々にも馴染みの深い大岡越前が登場する。私たちが知っている大岡越前の「弱きを助け、強きを挫く」というキャラクターではなく、老齢になり中心的なポジションから外れていく、また高齢になり体も思うに任せず…という風に描かれ、大岡越前とはいえ人の子だと感じさせる内容になっている。
大坂の商家のお家騒動が江戸幕府までを巻き込み、武家社会の根底を揺るがすような事件となっていく。江戸時代の経済問題、商家の世間を生き抜いていく知恵、罪人として牢屋に入れられるとどのようなことになるのかなど、エンターテイメントの作品の中で当時の社会や文化を細かく描写して面白い。
主人公の吉兵衛が最後まで諦めず、ある意味、武家社会に勝っていくというエンディングは胸のすく思いがした。
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最初はなかなか入り込めなかったけど、中盤からは一気にでした。
朝井さんの表現って情景を思い描き安いので、後半もはまってしまい、怖かったです…それこそ臭いなんかもリアルに感じてしまった…
最後の希望を感じさせる終わり方、好きです。
強いよね。
読んでよかった。手元に置いておきたい本になりました。朝井さんのはそんな作品が本当に多い。
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表紙に一目惚れして読むことに。
悪玉伝、否、上方商人の酔狂伝という印象。
つい伏線の忠相(大岡越前守)に肩入れして読んでしまった。