紙の本
お清の方と汚れた方
2022/12/25 15:52
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
十一代将軍家斉の文政年間を舞台にした大奥に生きる女性たちの問わず語りによる連作短編集。
各エピソードの登場人物が、少しづつスライドしながら、他のエピソードにも関連してくる構成が、それぞれの物語を有機的に結び付け、さらに奥行を増す役割を果たしているのが面白い。
最初のエピソードに登場するお利久と同様、読者の我々も大奥での出世といえば、上様の寵愛をうけお子を産み、うまくいけばお世継ぎ争いにまで影響を及ぼすことなのだと思い込みがちだが、ここで語られるのはお手付き以外の「お清」とよばれる女性たちの生き方だ。
多いときでも、20~30名程度といわれるお手付き女性たちに比べれば、それ以外の女性たちのほうがはるかに多いのは言わずと知れたこと。
その中で、どう振る舞い、お役目をこなし、さらに自らの生を少しでも意義あるものにするかという問題は、大奥以外の現代の我々にも避けては通れない課題だろう。
つまらない許婚に親の言いなりに嫁ぐのが我慢できず、決まりきった人生から逃れるために、自ら大奥に飛び込むもの、また美しいが故に親に過大な期待を賭けられ、お手付きとなるために大奥に送り込まれたもの、逆に容姿に難ありで実家に居場所がなく、仕方なく大奥入りしたもの、紫式部のように学問に秀で兄よりも勝っていたため、男の面子を潰すからと実家から大奥に体よく出され、己の才のみを頼りに大奥での出世に邁進してきたもの・・・ととりどりな女性たちの生き様や想い、ふっと肩の力を抜いたときのつぶやきなど、そこには生の一女性としての屈託がよく表れている。
それに引き換え、お手付きとなったが、寵愛も長続きせず、お腹さまにもなれず、そのうち忘れ去られてゆく女性たちの哀れさがことさら身に沁みる。諦めや、生きがいを見出せないことからくる寂しさは、「お清」のものたち以上に彼女たちの心身を苛んでいるように見える。
大体、その呼ばれ方が「汚れた方」なのだから、その侮蔑を跳ね返して余りある栄華を極めねばとても身の置き所もないに違いない。
結局のところ、他人がどう言おうと自分の人生、自らの意思で切り開かねばならない。その意味では、最終エピソードの「お倫の方」の生き方が、制約の多い中でも、心の持ちようによっていかようにも紡いでゆけるものであるのが救いだった。生きながら大奥の片隅で朽ちてゆくだけではない彼女の人生に幸多かれと願いたくなる幕切れだった。
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大奥お仕事小説!大奥で箔をつけて
その後嫁ぐものもあれば
実家の事情で不退転の心で務めるものもいる
それぞれに事情があって
真剣に生きている女性たちばかりで
とても好感が持てる内容でした
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六篇の物語。
連作というには繋がりは緩やかだが、まだ大奥に入りたての女性が、少し時を経て、後進を導くようになっている。
そこに成長と、夢と、やりがいを見る。
「つはものの女」
本書の白眉。
「働く」女性には、心に残る文章がわんさかある。
なぜか?
それは、現代の女性たちが働く時、そこに気負いがあるからだ。
男に負けない、足元を見られないように、女を出すな、あるいは女をあえて出さねば。
少しでも弱みを見せたらいけない。
「刀を佩(は)く者をこそ兵」(160頁)そう思うから。
しかし女の戦い方はそうではないはずだ。
「兵とは何か。この太平の世にあって、刀を佩いて戦をする者だけを指すのではない。天下のためにお役に邁進するものは皆、柄じゃ。」(160頁)
「負けても良いのです。気負わずに生きなさい。」
「大義を忘れて、目先のことに囚われていては、お役は勤まらぬ。互いに、助け合い、信じることも肝要じゃ。」(161頁)
「働く」女性と私は言った。
それは会社員とか、自営業とか、そういう意味での働く女性という意味ではない。
誰かのために働いていれば、自分の目の前の仕事(掃除洗濯育児など全部!)に邁進している人すべてだ。
本書のエールは、そんな人たちへ向けられている。
「くれなゐの女」
おかめのような女性が美を求める話。
これは誰でも一度は思い当たるところがあるのでは?
どうせブスだし、ブスだから、これは強い呪いで私など未だ解けていない。
でも、「己のことを、醜いし、御末だし、と卑下しているのは謙虚なようでいて、その実、とても楽なのです。(中略)己の力を尽くした結果、人に笑われたとしても、あまり痛みは感じぬものです。(中略)恥をかくやもしれぬと怯えていることこそ、苦しいのだと、」(107頁)
他人の嘲笑をものともしない強さ、こうありたいものだ。
いきなり強くしなやかになるのは無理でも、明日から、少しずつ頑張ってみようか。
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とても良かった。
お手つきにならずに「お清」として大奥を支えた存在があったのを初めてしった。
短編の中のどの女性も芯があり、潔くとても素敵な女性達だった。
とくに夕顔さんは圧巻。
彼女のように優しく明るく前向きに生きれたらどんなに良いかと思った
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評価は4.
内容(BOOKデーターベース)
女の道は、つとめをきわめることなり―。己を磨きたて、美しく着飾り、上様の目にとまって寵愛を受け、子を授かる―。それこそが本望とされてきた大奥。だが、「汚れたかた」と呼ばれたお手つきとは対照的に、色恋はそっちのけで、仕事に生きた「お清」がいた。着物の善し悪しもわからぬまま、衣装係を命じられた女。苦にしていた巨体を役立てる職を見つけた女。文書係から代表役へと、出世街道を目指す女。大奥に“就職”した女たちの情熱と苦楽を描く連作時代短編集。
この頃の女性の生き方はまさに現代と通じるモノがある。側室の様に表向きは奉られても陰では汚れたモノと下げずまれる女性がいる一方、ご寵愛を受けることなど目もくれず、自分の実力をつけて今で言うキャリアウーマンとして生き抜く女性など魅力的な女性が描かれていた。
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“己のことを、醜いし、御末だし、と卑下しているのは謙虚なようでいて、その実、とても楽なのです。醜かろうと、身分が低かろうと、それでも己にできる精一杯をやると決めてみると、そのための道が見えてきます。” — p.107より
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2020年11月8日読了。江戸城の大奥に務める6人の女達にまつわる物語たち。性と欲望、権力の巣窟みたいなイメージがある大奥だが、故郷の家族のため・自分の殻を破るため・出世のためとそれぞれの目的のため人間関係を築き努力するヒロインたちの姿がとてもすがすがしい。性的要素やドロドロした描写が全くないのもいかがなものかとは思うが、一人称描写なのだから仕方ない、どんな世界にもそこで一生懸命生きる人々がいてそれぞれの物語があるものだなあ…と想像する。最初のエピソードの主人公が「巴御前」と呼ばれるところとか、心に残るシーンも多い。ただ一人称の文体が全部似ているので、6人(+α)いて全員同じ人が書いているように感じられるのはマイナスかなあ…。
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大奥というと、女たちの美と権力の巣窟というイメージが強いが、三千人を有するとも言われた大所帯を支えるには様々な職種の女たちがいたのだと興味深かった。
連作短編とあるが、まだまだ描き切れていない職種もあるだろうし、続きそう。
夕顔を越えるキャラが出てくるだろうか。
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旗本、庄屋や御家人等、身分はそれぞだが、様々な縁を頼りに、本人の意向にかかわらず大奥入りをすることになった女たちの6つの物語。
見目が悪くて婿の貰い手がいない者、器量よしで上様のお手付きになればという家族のもくろみによって入れられる者、嫁入りのための箔をつけたい者、若くして夫に先立たれた者などなど…。
大奥にはドラマで観る印象が強く残っていて、お互いを蹴落とす女の闘い、みたいなものがイメージの一番最初に来るけれど、ここに出てくる女性は、気負っていたり、自分に自信がなかったり。大奥の末端で、様々な経験や思いをして、真の自分を見つけていく。
ドロドロした話がほとんどなく、とても読み口がよく、読み終わりにすっきりした気持ちになれる、そんな物語でした。
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大奥の仕事内容がわかり、日々の勤めに誇りを持って仕事をしている。将軍に見染められたくて自分の醜さを醜くさせてアピールする姿に皆が揶揄しながらも笑い合う歪みあいがないのが読んでいて心地よい。短編だけど少し繋がっていて醜い人も将軍に声を掛けていただき、側室にはならなかったが出世し、将軍に近くなったと喜んでいる。
顔はどうしようもないので、他でカバーして楽しく生きていく事を教えてくれた。
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時は文政10年
家斉公の御世の大奥の物語。短編6作
側室40人の好色上様、そして飽きっぽい(-_-)
この作品は大奥で働く女達の物語です。
御手つきになる方はほんの一握りで、その他大勢の女の仕事は驚くほど細かく分けられていて、なかなか勉強になりました。
まあホントお金の無駄だとは思いましたけど笑
短編だし、読みやすいし、なかなか面白い作品です。
大奥お仕事小説でした♪(´ε` )
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美しく着飾り、上様の寵愛を受け、子を授かることこそが、出世とされていた大奥で「お手つきにならずとも、栄達の道あり」と仕事に生きた女達の、清々しい生き様。
あっぱれ!
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大奥というと華やかだけど将軍の寵愛を競うどろどろした女の世界、とイメージしてしまうけど、この作品で描かれているのは大奥を職場として働く女性たち。出身も旗本や御家人の娘から農家の娘まで様々、いろんな役目があり、先輩に助けられたり朋輩と仲良くなったり、必ずしもぎすぎすした世界ではないようだ。面白かった。
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大奥、と言ったら、アレですよね、男女のドロドロした、あるいは権力闘争の・・・。
なので近寄らずにいたのだが、永井紗耶子さんの作品をもう一つ読みたくなって、ここには大奥のお仕事が描かれているとわかったので読んでみた。
衣装を調達する係なのにセンスがまるでない人や、男性との交渉への適性とか、女としては大柄で嫁の貰い手がないと言われたため、力仕事のできる部署へ勤めた女性、大奥で年中行事が行われるときに踊りや劇を披露して楽しませる芸能係の女性など。彼女たちは、悩み、相談し、努力しながらキャリアを積み、自分の仕事を全うしようとする。その姿は、大奥という特殊な環境ではありながら、現代のキャリアウーマンたちと同じ。女性たちが生き生きと描かれて楽しめた。
女性たちが上様のお手つきではなく、純粋に仕事を求めている中に、1人だけ、それを望む女性がいる。
その女性を他の女性たちと対比させるのではなく、大奥の中でのムードメーカーとして描いているのが秀逸だと思った。
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とりあえず永井作品すべてを読破しようと思い、拝読。文章の上手さは流石で、非常に平易な言葉で書かれているので、時代小説を読んでいるのを忘れてしまう。家斉時代後半の大奥が舞台の短編だが、つながりも垣間見える。特に「くれなゐの女」「ちょぼくれの女」は傑作。権謀術数だけでない色々な役割に応じた大奥の実態がよくわかり、勉強にもなる。