ナチズムの美学 キッチュと死についての考察 （ちくま学芸文庫）

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投稿者：L療法　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

補註で補えるのだが、英語版では多数の加筆と一部の削除がある。
本書はオリジナル版に依ってるのだが、加筆に結構意味があるんで、本文にそれを織り込んでもらった方が読みやすかったかも。

キッチュの性格。
そのキラキラとした、ある意味安っぽい、強さ。
単純化は、創作することと強い関連を持つ。
ナチスの物語に重ね合わせる仕草、神話的（つまり語られた）過去への回帰は、創作に生きてみせたってことだろうし、その行いは、キッチュなものとならざるを得ない。


ヒトラーという人物、魅力的であった人物について語るとき、創作物は奇妙な態度をとる。
魅力的人物であったことは、多くの人々をとらえたことからも間違いなく、そのことを、創作は伝えて然るべきなのだが、現れるのは戯画的人物であり、何かのヴェールに覆われている。
このことは、虐殺についてもそうだ。
虐殺否定論者、歴史否定主義は、自身を擁護するために、奇妙な破綻した理屈を繰り返す。
この奇妙な仕草に似たものが、ナチスの悪を描き出すときにも生じるようである。
おそらくは、閾値を超えてしまうのだ。
悪を認めることは、批判的であれ困難が付きまとう。


ナチズムという、強い誘惑。
知性と、近代的なものを否定する情動。
誘惑を退けるためには、まず知ることであり、ふざけたりせず真摯に向き合い、考えることだろう。

愚かしさは常に私たちを引き入れようとするが、暗がりに足を取られぬためには、強い影が生じるとはいえ、灯りが必要である。

ナチズムは特別ではない。