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ほぼ月に1回、メールで本ネタの通信を送ってくださる「ブックマーク」読者のKさんがいる(以前は、ハガキ通信だった)。いつも"本"にまつわる本や雑誌が紹介されていて、まめに本屋を見ておられるなあと思う。私がすでに読んでいるときもたまにあるが、たいていは、こんなん出てたんや~と初めて知る。
で、Kさんが紹介されている中から、ときどき読んでみたり、本屋で立ち読みしてみたり。このシンポ記録の本も、「本の学校」なつかしいなあと、図書館にあったのを借りてきた。
「本の学校」は、米子の今井書店グループがやってる事業である(今はNPO法人になってるらしい)。私は今井書店へいちど行ってみたくて、妹と米子方面へ行った折りに、米子の本店へ立ち寄ったことがある。もうだいぶ前に、初期の「本の学校」のシンポをまとめた報告書(※)を5冊セットで買ったことがある(たしか1万円くらいした)。長いこと本棚に置いて、ところどころ読んだ。手放すにはちょっと惜しいが、ウチに置いておくには場所ふさぎなので、何年か前に近所の図書館へもっていった。
『書店と読書環境の未来図』は、2014年と2013年のシンポ記録を収めている。
◎第1部 本の学校・特別シンポジウム2014春記録集
街の本屋と図書館の連携を考える
―地域社会での豊かな読書環境構築に向けて
◎第2部 本の学校・出版産業シンポジウム2013記録集
特別講演 人と地域から求められる書店とは?
第1分科会 若手社員が語る“取次で働く理由”
第2分科会 本を通じたコミュニケーションのあり方
第3分科会 学術出版と大学市場はどこへむかうのか
第4分科会 雑誌の新たな「作り方・売り方」を考える
どのパートもおもしろかった。第4分科会の"雑誌の新たな「作り方・売り方」"にも興味はあるが、とくに第2分科会の"本を通じたコミュニケーションのあり方"のところにぐぐっと引かれた。「猫町倶楽部」という読書会をやってる人と、気に入った本を持ち寄って交換する「ブクブク交換」をやってる人の話は、何をやりたくて何をやりたくないのか、続けるためにどうやろうと思ったのか、そこに共感した。
「ブクブク交換」を発案したテリー植田さんの話。
▼初対面の人でも、何かのきっかけで、仲良くなって、その関係性が持続していくみたいなシステムというか、環境を作れたらいいなと思っています。(pp.125-126)
▼私はその本がよかったよとお薦めしたい場をつくりたいのではなくて、その人がどういう人かというのをわかってもらう場所をつくりたいだけなのです。(pp.135-136)
これは、ビブリオバトルとの違いを問われての答え。
そして、「猫町倶楽部」をやってる山本多津也さんの話。
▼私が一番最初に読書会をやったときに決めたのは、長く続けようと思ったときに何が大切かなと思ったのが自分が嫌にならないこと。べつに金もうけでやっているわけではないので、自分が嫌にならない方法は何かということを最初に考えました。みんなの合議制で課題本を決めたりとか、そういうこと��一切やっていない。
自分が空いている日で、自分がやりやすい方法でやるということを最初に決めたんです。それで七年間、毎月やっているわけです。(p.133)
▼一昨年に町づくり補助金の申請を出したのですが、「読書会がなぜ街づくりなのか」ということで最初断られたんです。諦めずに「一過性のイベントだけやっているのが街づくりではない。そこに住んでいる人たち、市民の文化的リテラシーを上げていくことのほうが街づくりになるのではないか」ということを、熱くメールで送りました。それで補助金をいただいて「猫町倶楽部」のビデオなども作りました。(p.109)
ここのところは、なんというか、図書館的な発想があるなあと思った。(図書館が街づくり、と思ってる図書館員はあまりいないような気もするが)
雑誌の分科会のパートでは、継続して買って読んでもらうことについて話されている部分を、あれこれの雑誌のことを思い浮かべながら読む…といっても、ここで話してる人たちの「雑誌」は少なくても数千部、多ければ万単位の部数が出てるやつで、私が思い浮かべる雑誌とは桁違いだが。
▼田中─ (略)今までは、連続的に雑誌を買ってもらうために連載などを多数掲載するなど総合誌的に売ってましたが、部数がジリ貧でずっと右肩下がりでした。挽回策として、大特集主義へと方針転換しました。でもその大特集の内容に興味が無い、嫌いだという人は当然いるんですね。それで一部の読者に離反されてしまうということが起こり始めて、痛し痒しです。ビジネスとして年間トータルで考えると、大特集主義のほうが部数・売上げが稼げています。
本の内容だけでは定期購読は、なかなかとれないというのが前提になってきています。…(略)定期購読者には特典を大きく盛ることで長く購読を続けていただく取り組みをしています。(pp.206-207)
この田中さんは、ハースト婦人画報社の販売本部長・田中精一さん。ここの前では、紙の雑誌の価値を向上させることで、書店の集客支援をできないかということを語っている。
▼佐藤─ (略)長く継続して買ってもらうということをやるのは結果的には雑誌編集の力以外ないのではないかと思っています。要は「編集部が読者を知り、読者はその編集長の顔が見える」ようなことで買ってもらう。つまり特集とか付録がいいから買ってもらうのではなくて、この雑誌が好きだから買ってもらうというところにまでいかないと、定期購読というのは難しいと思います。やはり編集長の顔が見えるような雑誌にすべきだとか、今、雑誌協会の雑誌再生委員がいろいろな提言をしていますが、まさにそこは読者の声があると思います。(略)…
二律背反的な言い方ですが、雑誌の読者を見てその雑誌を作るのですが、逆に雑誌の読者ではなく、「自分はこんな雑誌を作りたいんだ」と、編集長が表に出てくる雑誌というものが、今は支持される時代にきているのかなと思っています。雑誌の編集力があって、それに営業的なサービスとかお買い得感があると定期購読は進むのではないか。(p.208)
この佐藤さんは、小学館の取締役マーケティング局長をつとめる佐藤隆哉さん。小学館といえば、『小学○年生』の雑誌があるが(今��はもう雑誌があるのは1、2年生だけらしいが)、『小学一年生』の定期購読キャンペーンを全国の郵便局を使ってやってみた、という話がおもしろかった。年間1万円近くする定期購読の申込みが2600件もあったそうだ。内訳は圧倒的に地方比率が高く、書店のない地域の祖父母らが「孫に」というプレゼント利用であろうと分析している。
雑誌の売り伸ばしテクニックについては、2007~2008年の雑誌名人発掘プロジェクトが言及されている。『これで雑誌が売れる!』という冊子は、私も以前に読んだことがある。
雑誌の売上げは書店経営の大きな柱になるだけに、ただ「右肩下がり」だの「低迷」だの言ってても仕方がないのだ。
あとは、Kさんも通信で「エキサイティング」と書いていたところだが、シンポ・特別講演"人と地域から求められる書店とは?"で、ばんばん発言している菊池敬一さん(ヴィレッジヴァンガード代表取締役会長)と、成毛眞さん(HONZ代表)。
菊池さんは「委託販売制度…利益幅は二割なんてマジかよ…あり得ない」「粗利が二割で商売をやれというのは酷な話…犯罪的な祖利益」「四割取ってリスクを取ればいい」(p.53)と言い、「コンビニで本を買う悪いセンスの奴を相手にするなよ(笑)」(p.55)と極論も言う。
成毛さんは、大型店が売れ筋を中心に棚を組み立てていくことで、「大型店であるがゆえに本来「店頭在庫」があってもいいようなものを軽視しすぎている感じを受けますね」(p.58)と言っている。ついこないだ、たった2ヶ月前の新刊文庫が大型店の店頭にもない!という経験をした私は、そうよなーと思う。そうなったときに読者はどうするかといえば、結局買わないか、成毛さんが言うように「アマゾンで買い始めます」(p.58)ということになるのだ。
ほかに、第1分科会の取次の話のところでは、『ストーリーとしての競争戦略』という本の「全体で見たときの合理性・非合理性」と「部分で見たときの合理性・非合理性」を引いて、「一つの総合取次だけではなくて、例えば専門取次の存在であったり、一社だけではカバーできない部分を埋めて、むしろその多様性を保全したまま出版業界は何とか生きていかないと」(p.97)と日販の若手社員が語っていて、この本をちょっと読んでみたくなった。
大山での緑陰シンポは、その後、2006年から「本の学校・出版産業シンポジウム」に引き継がれているという。記録集も順に出てるらしいので、とりあえず図書館にあるやつをさかのぼって読んでみようと思う。
(11/10了)
※1995年~1999年の緑陰シンポの報告書
『'95揺らぐ出版文化 : 地域で描く21世紀への出版ビジョン 「本の学校」大山緑陰シンポジウム記録集 第1回』
『'96豊かな読書環境をこう創る : 地域から描く21世紀の出版ビジョン 「本の学校」大山緑陰シンポジウム記録集 第2回』
『'97本と読書の未来 : 地域から描く21世紀の出版ビジョン 「本の学校」大山緑陰シンポジウム記録集 第3回』
『'98 21世紀の読者を探せ : 地域から描く21世紀の出版ビジョン 「本の学校」大山緑陰シンポジウム記録集 第4回』
『'99本で育むいのちの未来 : 地域から描く21世紀の出版ビジョン 「本の学校」大山緑陰シンポジウム記録集 第5回』
※『書店と読書環境の未来図』を読んでいて気づいた誤字脱字余り字など
p.47 特に最近は小学館から新刊が出したものですから →新刊【を】
p.47 二ヶ月にに一回 →「に」1つトル
p.211 付加価値が高いので値段が高くも売れている →高く【て】も or 高く【と】も