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思考の運動、運動の思考
2004/03/24 21:10
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書のタイトルは、大胆にも『脱構築』である。デリダに端を発し、ずいぶんと人口に膾炙した間のあるこのタームをめぐって書かれた本書は、しかし「脱構築」について、何かがお手軽にわかる、つまりは現代思想マニュアル本の類ではない。確かにコンパクトで値段もお手頃だが、(必ずしもデリダを読んでいないと理解できないと言うこともないが)、いささか本格的な1冊である。ここでいう「本格的」とは、単に難しいとか、語学力や専門知識がないと読めない、などといったタイプの事態をさすのではなく、『脱構築』と題された本書が「脱構築」という志向の運動そのものを考えるための書物であることに由来する。
具体的には、「脱構築」の出自や位置などを含めた問題意識が示された「1」に続く「2」においては、「フェミニズム」「翻訳」「手紙」「エチカ」を主題とした議論が展開されていく。この並びにも明示的だが、「脱構築」とは、ある特定の主題・問題に対する特効薬でもなければ純粋に技術的な観念操作の問題ではない。今日的にせりだしていきている、従来の思想の枠組みをはみ出す様々な事態に、旧来の枠組みの安定した秩序に徴付きとして包摂しながら排除するのではなく、旧来の枠組そのものを「内破」する形で思考すること、その奇蹟=痕跡そのものが「脱構築」という思考運動である。いずれの、デリダの問題意識をよく引き継いだ議論だが、ことデリダ『たった一つの、私のものではない言葉』経由の「翻訳」の問題などは、今日的に多くの議論(例えば酒井直樹『日本思想という問題』『死産される日本語・日本人』など)と照応しながら、ひときわ高い水準を示していると言えよう。
「思考のフロンティア」を体感できる1冊である。
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