- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
紙の本
一番寒くなる日々を前にして、はや待たれる桜の開花。戦死した教え子たちの供養のため、元教師が作り出したのが<陽光>という品種。その開発物語の絵本。
2002/01/09 14:20
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
どういうお話なのかまったく知らずして、表紙の美しさだけで手にとった。山本容子さんや、絵本作家として独自の世界を築いている南塚直子さんとおんなじ銅版画による絵本である。印刷でもそうだけれど、オンラインでも色の再現は難しい。この表紙画の下の方の枠の部分、鮮やかな桃色だし、花のモチーフのなかにかわいらしい小鳥が2羽遊んでいて、春を待つ部屋に立てかけておきたい、いい感じなのである。
表紙の印象からすると、もっと甘やかな内容のお話なのかなと思っていたのだけれど、意外にも、戦争によって人生を転換し、結果あたらしい桜の品種を生み出した人の開発を追ったノンフィクションなのであった。花の品種改良というと、私は読みさしにしてしまっているが、注目の作家・最相葉月さんの労作『青いバラ』がすぐ思い浮かぶ。そちらは比較的短い期間に形として結果が出てくる仕事だと思うが、こちらはいかにも「樹木」というイメージで、枝が繁って桜らしく咲きほこるまでの年月というものに、何とも言えない思いをもってしまう。そのことを視覚に訴える絵本で表現することの意味を、なるほどと受けとめることができた。
<陽光>という桜の名前を私は始めて聞いた。ネット上で調べたら、まだまだ希少品種らしいけれど、一般の園芸家でも庭に苗を持っている人もいたし、名所も何箇所か全国にあるようである。本に詳しい解説がついていないので、本名かどこまで実話かがはかれないのだけれど、青年学校の先生をしていた高岡さんは、開発に当たって日本じゅうの名木・古木を見て回った。
真っ先に心惹かれたのが沖縄で見たタイワンヒザクラである。沖縄は、教え子たちが何人か戦死した地であった。だから訪ねていったのだ。
日本は強い国だから負けないと信じていた高岡さんは、お国のためにがんばって戦ってきなさいと、校庭の桜の下で記念写真を撮って若者たちを見送った。帰ったら、またここで写真を撮ろうと励ましながら…。だが、犠牲多くみじめな敗戦ののち毎日届くのは、教え子たちの戦死の知らせだった。
自分の言葉を悔やみ、自分の生をもて余す高岡さんは、あの校庭へ出向き、満開の桜に接する。そして、教員をやめて、教え子たちの供養に桜の仕事を始めようと決意するのだ。沖縄から持ち帰ったタイワンヒザクラは暖かな土地でないと苗木が育たない。全国から取り寄せる苗で、桜づけの日々を送る高岡さんは女房、成長して造園業の跡を継いだ子どもに反対されながらも、供養のための桜という思いに取り憑かれる。
そして、2月初めに咲くタイワンヒザクラと4月初めに咲くアマギヨシノの難しい交け合わせに成功して、21粒の実を取ることにようやく成功。11本の芽を苗木に育て花が咲いたあと、1年待って強い花を選んで台木に接ぐ。決意から実に25年以上の歳月が流れていた。
ローマ法王と、世界じゅうの桜の名所に「陽光」は平和のシンボルとして送られたという。「花と散る」という言葉とともに、記憶しておきたい花の名前だなと思った。
1 件中 1 件~ 1 件を表示 |