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紙の本

無垢の可能性

2001/09/23 19:14

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:こふきいも - この投稿者のレビュー一覧を見る

 著者ウィリアム・トレバーはアイルランドの人気作家。テレビなどの他メディアでも活躍している。本書は彼の近作であり、映画にもなった。アイルランドの片田舎に住む世間知らずで気心の澄み切った17歳の少女フェリシアと、イギリスの小都会に住む孤独な肥満男の偶然の出会いと悲劇的な結末を、時間の経過とそれぞれの重要な過去の回想もまじえて描く。作者は、何を取っても対照的な二人をとくに性格や世間知の点から相違を際立たせ、男とフェリシアの破滅まで、乱れない筆致で追う。物語全体としては、とくに息を飲む、という物語り進行ではないし、それに似た場面も少ないが、二人の行跡、心の動きは迫真であり、何気ない散文から実感にいたるまで伝わってくる描き方が見事である。ただ、読者の意見が大いに分かれるであろうのは、先に悲劇的と書いた結末であろう。男は自らの宿業たる孤独とそれに足をとられた自らに、ある方法で決別を果たす。少女は自分の足をとられそうになった運命から脱出を図るが、その果てにある地平にたどり着くが、それがフェリシアの無垢からの決別のあかしなのか、成長なのか、絶望なのか、作者はあえて意見らしいものを述べない。物語のすべてはここに焦点をあわせられているのは疑えないが、そうであるからこそ、読者にもフェリシアにも、旅の決着点とは何なのか、と考えさせるのである。

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2008/05/26 15:55

投稿元:ブクログ

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