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紙の本
自分が何もできないこのもどかしさ
2001/01/23 11:33
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投稿者:青月にじむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
全てがアメリカがいいとは言わないけれど、今の日本の教育が、人間を圧し潰しているのは確かだ。私自身、校則が厳しい高校に行っていたのだけれど、それも「卒業までの我慢だ」という風にしか考えられなかった。それがどういった意味をもつからこうしていかなければならない、と、自発的に考えつく前に「規則」が子どもたちを待っていて、がんじがらめにしてしまうのだ。子どもを守るはずであった校則が、いつしかその目的を忘れ、教師が楽をするために作り変えられていく。そして、それに何の疑問も覚えない。いじめを告発する? そんなことをやったって、倍になって仕打ちが返ってくるだけさ。先生方だって助けちゃくれないし、生徒だってその辺は心得ている。いじめてるんじゃなくて、かわいそうだから「遊んでやって」るんだ。
昨今、尋常でない事件が頻発し、その度に警察の初動捜査のまずさが浮き彫りになってきている。「殺人事件でも起きないと、事件として取り扱えない」という現状はこの物語の中でも変わり無く、伸一は極限まで精神を追い詰められてしまうのだ。
何がいけないのか。学校教育、警察組織、司法、子どもたち。そして、これらが怖いのは「最悪の状態」にならないと何も動かないという事実なのだ。世の中はあきらめの空気に包まれていく。私も明らかに、この空気の中にいる。
このもどかしさ、情けなさ、救いの無さ、そういったものが渾然一体となって、私に襲い掛かるのだ。
この話は中学生を話の中心に持ってきたことで、一種のビルドゥンクス・ストーリーとしても存在しており、雄一郎はこの葛藤を経て、ひとつ大人になっていく。アメリカに帰って楽しく過ごせば、彼のことだ。世の中の役に立つ人間に育っていたことだろう。そこで敢えて日本に居残ることを選ぶ。最初のうちは彼の、「日本ってクレイジーだよ!」というようなステロタイプな反応にうんざりしていたのだけれど、楽な方に逃げるだけでは成長が無い、と現状に立ち向かう力強さは頼もしい。
いじめを巡る心理の描写に所々秀でる点がある。雄一郎が、そんなに弱い存在と知られたくなくて「苛められているのか?」という問いにも「それほどでも」と否定する場面、助けを求めながらもそれを受け入れてもらえない伸一の葛藤する場面、などなど。
いじめは(そして万引きは)、軽い気持ちで、ふざけの延長線上でできてしまうところが怖い。それは「子どものやることは別」と、良くも悪くも一人前に扱わない社会だからこそ起こる現象なのだろうか。境界線が見えなくなってきて、子どもはそれに甘え、大人も見てみぬ振りをしてしまっている。人間としての価値をどこに見るか、そこから考え直さなければいけないのだろうか、この世の中というものは。
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