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東京大学名誉教授・青山学院大学教授(当時)の渡邉昭夫氏(1932-)による「日本の近代」シリーズ第8巻は、高度経済成長の後に続く昭和の終わり。
【構成】
1 「戦後」の終わりの始まり
2 経済大国日本への挑戦
3 高度成長のあとにくるもの
4 急転する国内政治
5 胎動するアジア・太平洋の時代と日本
エピローグ 二十一世紀への序奏
「日本の近代」は日本の近現代史の通史を扱うシリーズとしては、秀逸な企画であり水準も高い。特に御厨、北岡、五百旗頭、猪木といった文章の巧い執筆者が描く時代イメージは、読者の理解を助けている。
そこにいくと通史の最終刊(第9巻以降はテーマ史)にあたる本書は、やや硬質で他の巻に比べればやや読みにくい部分がある。
それは本書が扱う時代が、もはや「大きな物語」が終わろうとしていたことに起因するところが大きいだろう。
佐藤政権のブレーンたちによる「Sオペレーション」という次世代構想のプロジェクトは、来るべき1970年について予想する。
「東西関係、南北問題、中共の地位、ド・ゴールの政治生命、国連の威信、NATO、日米安保体制、自主防衛、国家予算の規模、社会保障制度の占める比率、与野党の比率、その他全ての1970年像を的確に想定し、それから帰納的に1964年を考える」
後の時代から振り返れば、「戦後」は1968年から1972年にかけて明確に変容・溶解しはじめた。これをもって「戦後の終焉」とするか、あるいは本書のように「戦後の終焉の始まり」とするのか。
著者が、沖縄返還を本書の冒頭に持ってきたのは、終わろうとする「戦後」的な枠組みについての定義を示すことが、1972年以降の世界を語る上で必要不可欠だからであろう。その点で言えば、本書の前半3章は「戦後」を象徴する高度成長の限界点を考えるヒントが随所に見える。
ただ、「小さな物語」が集合する1970年代・1980年代を描くに、自民党の権力闘争をもってするのは、やや問題の矮小化につながっているように感じた。