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紙の本
今、最も刺激的な発言者で、最も旺盛な読書家の山口昌男の原点が蘇る
2000/07/10 20:49
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:井出彰 - この投稿者のレビュー一覧を見る
わが国の文化人類学は、山口昌男によってその学問的地歩が固められたといってもいいが、昨今の氏の発言は一層多岐に亘り、一層刺激的・魅力的になっている。近著『「敗者学」のすすめ』(平凡社)でも、従来鎖国や制度にしがみつき、とるに足りない旧守派と歴史上から無視されてきた徳川幕臣たちの数々を掬い出し、彼らが持っていた教養や倫理・文化意識や生活システムに注目し、返す刀で薩長によって主導されてきた今日までの近代日本の足跡へと批判の矢を向けている。例えば、山本覚馬なぞといった名前を聞いた人は何人いるか。山本は戊辰戦争のとき会津藩士として官軍と闘い、薩摩藩の捕虜となり幽閉された。拷問されたのか、目が不自由、下半身不髄となった。が、彼の知見は人を動かし、維新後、近代化・都市化を進めようとした京都を文化都市造りへと変えさせていった。彼の存在がなければ今日の京都はなかただろう、といった具合である。
山口にはアフリカやインドネシア諸島をめぐるフィールドワークの報告を兼ねた著書が沢山ある。が、何といっても95年に刊行された『「敗者」の精神史』と『「挫折」の昭和史』の二冊の大著によって一躍、彼の博覧強記ともいえる知の宝庫が、現実に突き刺さった。舞台は満州。明治、大正、昭和の戦前期、野心に燃える一旗組が新天地を求めてわれもわれもと海を渡った。そこでは実業はもちろん映画、絵画、スポーツ、音楽。ありとあらゆるジャンルで狭い国土の中で閉じ込められていたエネルギーが解き放たれ飛び舞った。人間と人間が絡み合い、謀り事も含めた人間臭さが漂う上に、フランス文化やイギリスの文化が成立した。アヴァンギャルドの芸術が語られモダン芸術が花開いていった。山口は驚くべき読書量と膨大な資料の検証によって、それらを跡づける。
この昭和の記念碑的ともいうべき二つの大著を読み終わったとき、それが単なる物語や歴史の記述だけではなく、彼の長年積み上げてきた文化人類学的手法によっていることが分る。外地・満州での増成されたダイナミズムは、閉塞された内地に環流された。軍部主導によって窒息死寸前であった内地、日本に風穴を開け、酸素を送り続けた、と表現してよいのか。
山口の多義的視点が、純粋主義とでもいうのか、平板で単線的だった、わが国の思考回路を変えた。歴史学、民俗学、地理学など文化人類学と隣接する学問だけでなく哲学、社会科学など全ゆる分野に変容を迫った。
中心と周縁、聖と俗、秩序と混沌、内と外、日常言語と詩的言語。一方を選び他方を排除する従来の思考を越えて、すべてを呑み込んだ。75年刊行された『文化と両義性』は、その山口の思考の原点である。山口の思考が歩いてゆくと、平板だった風景が山あり谷ありのおもしろい風景に変貌し、モノクロームで描かれた世界が、あざやかな天然色に染め上げられた、と中沢新一はふり返っている。その古典ともいうべき『文化と両義性』が装いを新らたに、「岩波現代文庫」として蘇った。読むべし! (bk1ブックナビゲーター:井出彰/『図書新聞』代表 2000.7.11)
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