紙の本
魅力的な登場人物たち
2001/01/14 14:12
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投稿者:Achille - この投稿者のレビュー一覧を見る
1940年代のオックスフォード、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」稽古中に起きた、看板歌手の殺人事件。クリスピン作品でおなじみのフェン教授が事件解決に乗り出す、という正統派探偵小説。クリスピン1947年の作。
他のクリスピン作品と同様、トリックやミステリー的演出、という点については至ってオーソドックス。イギリス、オペラ、古典ミステリーという要素から、暗いイメージを持たれるかもしれませんが、個性的な登場人物(変人も多数)たちの感情の機微、情景描写のうまさといった点に絶妙な味が発揮されており、全体の雰囲気は実に洒脱なものになっています。
クリスピン自身が作曲家として活動していたこともあり、史実的設定、舞台上でのやりとりなどに不自然な点が無く、マニアックなオペラファンの人が読んでも違和感は無いはずです。(もちろん、オペラの知識が無くても読み進めるのに支障はありませんが。)
解決に向けてぐいぐい読み手を引っ張っていくというタイプではなく、魅力的な舞台の中に心地よく身を浸すような感じで読んでいける1冊です。ストーリー中にはどこかロマンティックな要素もあり、推理小説好きな彼女or彼氏にプレゼントするのにも向いていそうです。
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ミステリ云々の前に物語としてとても光っていると感じた。3組の男女の恋物語を縦糸に、本格ミステリの横糸を編みこんだというか。なので普通に話を読み進めていっても面白い。
もちろん密室トリックや伏線の絡ませ方も一級品。まあちょっと密室トリックが分かりにくいってのもあるけど、第二の殺人に関する伏線、道具の使い方、そしてその皮肉さと素晴らしかった。あとは相変わらずのユーモアとスラプスティック。面白かった。
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『大聖堂は大騒ぎ』では、なんだかおかしな人物、という印象だったフェン教授。本書では芯のあるところも見せて、ぐっと魅力あふれるおかしな人物である。うっかりすると惚れてしまいそうだ。が、この生活感のなさにもかかわらず、どうやら細君がいる模様である。
そのフェン教授、今回は不可能殺人の謎に挑む。被害者は誰からも嫌われている男。犯人を突きとめない方がいいのでは、という言葉に彼は「誰にも人の存在価値を裁く権利などない」と答える。素晴らしいセリフだ。そして、このセリフと本書の内容の一部を考え合わせたとき、本書は『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』(アントニイ・バークリー)への挑戦なのではないか、という推測が成り立つように思う(成り立つのは証明ではなくあくまで推測だ。いや、憶測かな?すごい弱気…)。しかし意図がどうあれ、楽しんで書いていることは伝わってくる。読んでいる方も楽しくなってくるほど。シリーズをさらに探してみよう。待ってろよ、エドマンド・クリスピン!
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解説がものすごく優秀。
ニュルンベルクのマイスタージンガーを知ってたらより楽しめるらしい。
ミステリの方もこういった事件構造はよだれがたれるほど面白い。作中にはられた伏線が効果的になっており各登場人物の行動が自然となっている。こういう小説が理想。
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オペラとミステリの組み合わせで思いつくのは、深水黎一郎『トスカの接吻』。
オペラに関する雑学は、分からないので読み飛ばしました…
ミステリとしては、それほど凝った作品ではないかな。それよりも各登場人物の恋愛模様が見所か。
著者が26歳の頃に描かれたということもあり、若さを感じられる作品。
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ワーグナーの歌劇の稽古中、歌はすこぶる上手いが人間として最低の男、ショートハウスの言動に悩まされる関係者達。初日があと一週間と迫る中、楽屋でショートハウスの首吊り死体が発見される。
死亡時刻には現場は密室状態、普段の言動の結果彼の周囲は動機まみれの容疑者だらけ。出演していたテノール歌手のアダムの親友だったフェン教授が調査に乗り出すと、その後も怪事件が相次ぎ――
英国チックなドタバタコメディ(くすぐり)と事件の展開のグイグイと読ませる引きが素晴らしいですね。被害者の兄のところにオンボロ車で向かう所なんて、これはウッドハウスか?と思う笑いどころが満載でお気に入り。作曲家の経歴も持っているクリスピンらしく、オペラ製作の舞台裏の様子が生き生きと描かれててそれも楽しい。
タイトルの「白鳥の歌」ですが、解説ではこれを区切りにフェン教授の探偵引退を考えていたのでは?と推測されてますが、確かにその線もありそう(特に、フェン自身に過去の事件を回顧するシーンを折り込んでくる辺り)ですが、一方で死体となった人が歌手だった事を踏まえて「スワンソング」の意味を吟味すると、とても皮肉な(そして、まさに本作の正鵠を射る)ニュアンスにもとれる気がしました。