紙の本
しばらく版の途絶えていた味わい深い童話が復刊。少年がチロルで過したクリスマス休暇の思い出を、マドレーヌの絵本の作者が描いています。
2001/11/01 11:48
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
ふさわしいのは小学低・中学年ぐらい、年長児ぐらいからの読み聞かせでも集中力があれば何とか…という感じでしょうか。絵だけの見開きページがあったり、ほぼ各見開きに挿絵があるなど、絵の多い本ではありますが、結構読みではある童話です。
主人公のハンシは町に住む子で、屋台のくだもの売りをしているお母さんと二人暮らしです。明日からクリスマス休暇が始まるということで、通信簿を手に帰ってきました。翌朝、お母さんが待っていた手紙が届きます。山に住むおじさんが差出人。雪がいっぱいなのでスキーをしにおいでという誘いです。
登山電車の乗り場までお母さんに送られてきたハンシの一人旅は、そこから始まりました。山の駅前の広場には、郵便屋さんがいて、着いたばかりの郵便物と一緒にハンシを送り届けてくれるという話になっています。郵便を配りながら、馬車は高い高い峰にのぼっていきます。家の前で出迎えてくれたおじさん一家に、照れ屋のハンシはきちんとした挨拶ができません。でも、飼われている犬や牛、馬の話ですぐに一家に溶け込んでいきます。
おばさんの心尽くしのお菓子や、雄大な美しい眺めに喜び、お手伝いをしながらハンシはクリスマスを待ちます。古い写真を見せてもらったり、犬のためにたるでスキーを作ってあげたものの怖い思いをさせたり、登山のための山小屋を訪ねたりして素敵な思い出が増えていきます。
そしてイブの深夜…。飾りがつけられた美しいツリーの近くには、お母さんからのプレゼントだというスキー板が置いてあり、おばさんが帽子、おじさんがジャケットをくれます。3人の王に扮した子どもたちが訪ねてきて、ハンシはおじさんたちと教会のミサに向かいます。クリスマスのご馳走をいただいたハンシは、夏にまたお母さんと来るようにおじさんに言われ、チロルの衣装を着て町に戻っていきます。
マドレーヌの絵本で知られるベーメルマンスの手になる1冊で、絵はマドレーヌちゃん同様、素朴で愛嬌のある楽しいものです。カラーとモノクロの挿絵が混ざっています。
しかし、ここで、より惹きつけられるのは、どこかユーモラスな文章表現です。
クラスでびりではないけれど、そうそう成績の芳しくないハンシを代弁して、
——あんまり、いろいろなことを教わるので、なにからなにまで は、あたまに、はいりにくかったのです。
いよいよお母さんと離れて登山電車に乗ったとき、
——ハンシは、もし、できることなら、汽車をまわれ右させて、 うちへかえりたいと思いました。
読んでいて暖かな味わいがある文章は、子ども時代の素晴らしい体験に躍るような気持ち、そしていつまでも続かないそれには必ず終わりがあると知ったときの切ない気持ちなどを見事にとらえ、しっかりと読む人の胸に響いてきます。
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「マドレーヌ」シリーズで有名なベーメルマンスの初めての絵本。日本語版の初出が昭和28年とのこと。
現代っ子の娘の食いつきが心配だったが、とても喜んで聞いてくれてほっとした。
私がやや風邪気味で喉が痛かったこともあり、3晩にわけて、夜寝る前の時間にベッドで娘と読む。
3晩に分けたことも、結果的には良い効果をもたらしたようで「今夜は〇〇のところからだね!」と楽しみに。
寝る前の本読みが、やんわり復帰出来そう。
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ハンシという少年が冬の間だけ、山のおじさんのところにいく話し。
物語はささやかで、マドレーヌ・シリーズのような破天荒のところはないが、しみじみしている。
絵は、とびら絵が素敵。他の絵は・・・微妙です。
同じ著者なら、やはりマドレーヌ・シリーズの方が冴えているのではないかな。でも、★は4つ。
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アマゾンに古本を売り出していたら売れたので、お別れに読んだ。
しみじみとしたいい絵だなぁと、思っていたら、なんとまぁ、
あの「マドレーヌ」の作者ルドウィヒ・ベーメルマンスの初めての本ではありませんか!!!
いい本が眠っていたんだな。
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耳の後ろを冷たい水であってもしっかり洗いなさい、というママの言葉と、ホイップクリームを大量にのせた焼き栗の大皿盛りという垂涎のシーンが強く記憶に残っている絵本。いつか死ぬまでに、焼き栗大量クリーム載せを経験してみたものだなあ。
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今年の小学校一年生に読んでやりたい絵本50冊
その46
ここからはもう絵本ではなく、も少し長いお話に入ります。
べーメルマンは「元気なマドレーヌ」シリーズがキャラクターになるほど有名ですが、日本に紹介されたのはこちらのほうが先でした。
紹介したのは光吉夏弥氏。彼は演劇関係の方だったらしいのですが、趣味で絵本を集めていてそのなかから、岩波の絵本が生まれたのです。
実に本を見る目のあるかたで、日本の絵本はこの方の眼力の上に成り立っていたのだ、と言ってもいいほどです。
ただ、その正しさと日本人の好み、は一致しなかったのですが。
子どもだったときの私は光吉印の本を追っかけて読んでいました。
のちはそれが神宮輝夫に変わるのですが、この2つの名前がついている本ならいつでも確実に間違いのない本に行きあたれたのです。
この「山のクリスマス」は朗読したら40分ほどかかるでしょう。
ご自宅で読むには一向に差し支えないでしょうが、学校で読むなら4回に分けて読まなくてはなりません。
なので、公共図書館ではおはなし会などで使われたことはないでしょう。
公共は4回、同じお客さんが来るのは無理だからです。
ハンシ、という小学校一年生の男の子が、お母さんと生まれて初めて離れ、山の上に住むおじさん一家のところへ2週間、冬の休暇を過ごしに行く話です。
冬ですから当然クライマックスはクリスマスになります。
私が初めて読んだのは5歳くらいのときだったので、そのときにはハンシがどんなことをして冬休みを過ごすか、に気がいっていて、このお母さんは果物屋の屋台をやっていてハンシを一人で育てている、ということはシングルマザーなんだ!
とか、大人なようにみえても、もしかしてまだ20代だったのか?
(おじさんはお母さんのお兄さんです)
とか、貧乏なのか?
みたいなことには気がつきませんでした。
金文字で名前が書いてあるコーヒーカップでコーヒーを飲むのをカッコいいなぁ、と思ったり、ハンシが学校から帰ってくる時間になると、お母さんは屋台のコンロにりんごを一つ入れる……。
ハンシが帰ってくると
“コンロのりんごは歌を歌って”いるのですが、息子を可愛がっているんだなぁ、というのは思いましたが。
で、これを読んだあと、焼きりんご、作ってみたりしました。
そうしてこの物語を私は50年、封印していました。
ものすごく本質的で本物の物語ですが、地味で長いこの一冊は読み手がいなくなってしまったのです。
発売された当時もそんなに売れたわけでも喧伝されたわけでもありませんでした。
というより、この本に関してなにか言ってる文章なんて思い出せない、くらいです。
でも子どもたちが変わったので、まてよ、いまなら使えるかも、と思ったので、試してもらいました。
結果は大当たり!
その学校では2年生は早々に飽きて、二回目は読めなかった……のに、一年生はすぐに話に入り込み、続き、絶対に読んでね!
と念押しされ、ニ回目に本の表紙が見えた瞬間、全員さっ、��聞く体制になったのだとか(最初の3回は12月に、ラストの一回は帰ってくる話なので休暇明けに読むといいです)。
全国の一年生がそうなるか、は保証できませんが、聞ける子どもたちは確実に増えている、たぶん4歳くらいからこれを楽しいと思う子たちがいるだろう……ご家庭での本読みにこの一冊も試してほしい、と思います。
イヤ!
と言われたらやめればいいだけの話ですから。
光吉夏弥氏は、私の子ども時代を作った立役者です。
1989年までご存命でいらしたのですから、大学生のときにでも会いに行ってお礼を申し上げればよかった、と心から思います。
大学生のときにはそんなことは思いつかなかった……。
みなさんも、お礼を言いたい方がいらしたら、いますぐ!
おやりになったほうがいいですよ。
2022/09/20 更新
※こちらは以前も紹介済みですーーーーーーー
マドレーヌ、でお馴染みのべーメルマンの、マドレーヌの前に岩波の一番初めの絵本シリーズとして翻訳されたものですが、レベルはマドレーヌよりはるかに上で、これは極上品の一冊です。
これを選んだ光吉夏弥にはただただ敬服するしかありません。
生まれて初めてお母さんと離れて山の上のおじさんの家でクリスマスのお休みを過ごすことになった一年生、ハンスの二週間を描いた、ほぼ何も起こらない地味〜な話なのですが、一つ一つがとても深いのです。
今の大人が読むにはちょっと心を落ち着けて、静か〜に深呼吸し、少々自分のネジをゆるめてやらないとこの世界には入れないかもしれません。
でもいま読むと子どものときには気がつかなかったことにもいろいろ気づけます。
この家にはお父さんがいないんだ、とか、お母さんが屋台の果物屋をやって暮らしを支えているんだ、とか、すごく大人のおばさんだと思ってたけど、ハンスのお母さんて、もしかしてまだ20代?
とか……。
自分の名前を金文字でいれた白いカップでコーヒーを飲んでいて、それがものすごくカッコよかったんですよね。
この30年、使えなくなっていた本なんですが、いまの新一年生には響くと思います。その下の子どもたちにも……一年生にあがってくれば……。
彼らは本物、に反応してくれ、深いところまで受け取ってくれます。
なので司書は読んでおいてください。
2020/12/25 更新