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ヘーゲルの生涯と思想の解説書です。ヘーゲルの成熟期の哲学についての解説に、あまりページが割かれていないところがちょっと残念ですが、ヘーゲルの思想が彼の生きた時代とどのように切り結んでいるのかということに焦点を当てた説明がなされています。
ヘーゲルの生きた時代はまさに激動の時代でした。ドイツに生まれたヘーゲルは、シェリング、ヘルダーリンらの学友とともに、自由主義的な意見を述べ合い、思想を育てていきます。学生時代、ベルンの家庭教師の時代を経て、フランクフルト時代に至るまでのヘーゲルは、カント哲学と取り組みつつ、宗教・歴史・政治についての思索を進め、これら三者を限定して調和と統一のある国民生活を成り立たせる根拠となる民族精神のあり方の解明をめざしました。本書はこの時期に全体の約3分の2の頁数を割いて解説しています。
その後ヘーゲルはイエナに移り住み、「フィヒテとシェリングの哲学体系の差異」を発表し、自己の哲学的立場を明確にします。やがて不朽の名著『精神現象学』が結実しますが、ちょうどそのとき、ナポレオンのイエナに入城という事件が起こります。ヨーロッパはまさに激動のまっただなかにあったのです。ヘーゲルは、国民の自由が実現される国家への期待を込めつつ、ナポレオンに「馬上の世界精神」を認めます。
その後ヘーゲルはベルリン大学に就任し、プロイセンの君主主義を擁護する立場を『法の哲学』で明確にしました。ただし本書では、『法の哲学』そのものの解説よりも、当時の自由主義的な若者たちの政治運動とそうした時代状況に対するヘーゲルのスタンスを描き出すことに重点が置かれています。