紙の本
少し毛色の変わった山手作品。
2002/06/22 23:53
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投稿者:凛珠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
貧乏旗本の三代目・直江慶三郎と、剣豪の末娘・菊枝の悲恋を、謎の宗十郎頭巾事件とからめて綴る。
推理的趣向もあり、色模様もそれなりに濃厚で、痛快で娯楽性の高い従来の山手作品とは、一風違った趣だ。それでも時代劇が元気だった頃の雰囲気は十分に楽しめる。「ヒロインの取替え」という展開ははいかにも昔風で、少し不満ではあるが。
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今年は山手樹一郎没後40周年であります。これほど明朗・快活・痛快な作品を創り続けた作家も稀でありませう。
時代劇映画にも夥しい数の原作提供をしてをります。特に東映や大映は山手氏に感謝すべきであります。
映画でも、どう作つても暗い作風にはなりにくく、明るく明朗な、子供でも安心して愉しめる作品群なのです。
この『江戸に夢あり』も同様であります。文庫版の紹介文をここに引用しますと―
世の中の経験に熟した中年になって、若い時代の<恋>を考えるとき、なぜあのとき、たったひと言をいわなかったろう?―と、甘苦い後悔のタネのひとつふたつをお持ちの方もおいでのはずだ。それがとりえの若さのきまじめさから、好きだ―というひと言を妙にいいそびれたために起きるもつれは、その後の人生に大きく影響する。
ここに小野派一刀流の名人で現在隠居の野村半蔵の末娘の菊枝、女にしてはのっぽというのが難点だが、すばらしい美女、子供のころからのさばさばした性格が災いして、幼友達で貧乏旗本の三代目、直江慶三郎をひそかに恋していても、会えば口げんかばかり。中秋の名月の翌晩、大江戸に起こった怪宗十郎頭巾の殺人事件から、純情武家娘お縫が現れ、強力なライバルとなるもよう。これに山手文学ファンおまちかねの色欲ニ道の悪玉がむらがる物語だが、読みどころは読者の意表をつく謎解きと、のっぽ娘菊枝の奔放でありながら可憐な生涯で、作者晩年期の逸品。
春陽文庫の場合、下手に紹介するよりこの文章を引用した方が良いので、ご無礼いたしました。
主人公はその直江慶三郎ですが、この男が中中じれつたい奴で、のつぽの菊枝をヤキモキさせます。まあ菊枝の父親も悪いのですが。
お陰で菊枝さんは、ああ......その代りといふ訳ではないでせうが、武家娘お縫が現れます。純情娘といふ触込みですが、その行動はかなり積極的に慶三郎さんを奪はうとします。菊枝さんが可哀想であります。
結局慶三郎はお縫と駆け落ちすることになります。江戸を出るといふ事で、本当にタイトル通り「江戸に夢」があつたのか、少しほろ苦いエンディングですな。
しかし全体ではやはり明るく痛快な物語であります。まあ現在は手に入りにくいけれど......
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